中古住宅を検討していると、増築部分が未登記というケースがあります。建ぺい率や容積率を超えていると違法建築物となり、購入後にさまざまなトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。この記事では増築未登記の物件を購入するリスクと対処法について紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
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目次
中古住宅の中には、以前の所有者がリフォームなどをした結果、新築時に登記した状態とは違う状態になっている物件があります。所有者によっては増築した部分を登記していないケースがあるため、登記内容と現状が食い違っていることも少なくありません。本章では、この「増築未登記」について詳しく解説します。
増築とは、既存の建物を壊さずに、同じ敷地内で建物の床面積を増やす工事のことです。たとえば部屋を新たに増やしたり、平屋を2階建てにしたりする工事が該当します。そのほか、敷地内に「離れ」などの新しい建物を建てるのも増築に含まれます。
増築は現在の建物をリフォームするため、建て替えよりもコストがかからず、工事期間が短くなる点にメリットがあります。とはいえ、建ぺい率・容積率や用途地域に基づいたルールに従う必要があり、違反すると建物の撤去命令を受ける場合もあることを覚えておかなければなりません。
改築とは、床面積を変えずに間取りの変更などを行うことで、構造部分のすべてや一部をいったん取り壊して、新たに新しい家に造り変えることをさします。構造部分に工事の範囲が及ぶケースが含まれ、マンションのフルリノベーションなどが該当します。改築は床面積がそのままですが、増築は建物の合計床面積が増える点に大きな違いがあります。
似たような用語で「改装」がありますが、この場合、クロスや床の張り替えなどの模様替えをさします。
増築未登記とは、増築した部分についての登記をしていないことです。不動産登記法第51条では、増築にあたり建物に関する登記内容に変更があった場合、建物表題部変更登記を行うことが義務づけられています。したがって、建物の種類や構造、床面積などが変更した場合は増築登記をしなければなりません。
ただ、増築登記を行っていないケースは意外と多く、そもそも増築登記をしなければならないことを知らない所有者も存在します。増築すると床面積が増え、建ぺい率・容積率が変わり固定資産税額の金額が変更されるため、増築登記の手続きをすることが必要です。
増築登記が必要なケースとしては、以下3つの要件を満たすものが登記対象です。
たとえば、屋上に屋根付きのサンルームを建築した場合は上記の要件を満たすため、増築登記をする必要があります。
増築登記が不要なケースとは、リフォーム後も建物の種類や構造、床面積などが変わらない場合です。不動産登記法上の建物に該当しない場合も必要ありません。
たとえば、一時的に敷地内にプレハブ住宅を建てる、移動式の物置を新設するといった場合などは登記不要です。ガレージとして使用する場合でも、土地に定着していない状態ですぐに取り外しできるようなものについては、増築登記の対象とはなりません。
その他の具体例として以下にまとめます。
登記が必要ないケース | 例外ケース、注意点など |
1方向しか壁のないガレージ・納屋 例:屋根しかないガレージなど |
3方向に壁のあるガレージや納屋は登記が必要 |
コンクリートブロックの上に置いただけの物置 | 土地の定着性がないため登記不要 |
天井高1.5メートル未満のロフト | 天井高1.5メートル以上のロフトは登記が必要 ロフトを階数に入れることが必要 |
ビニールハウス | 基礎・柱が固定でも壁がビニールなど簡易な場合は登記不要 |
3方向を囲まれていても、ビニールのように簡易な素材で造られたガレージなどは、増築登記の対象となりません。あくまでも風雨をしっかりとしのげる建物であることが登記の要件です。
増築時にロフトや屋根裏収納を設けても、床から天井までの高さが1.5m未満であれば、その部分については床面積に算入されないため、増築登記は不要となります。
売買や相続などで不動産の所有権が移転したときには、所有権移転登記(※)をすることで新しい所有者に法的な権利が保証されます。
しかし、増築未登記の不動産については増築した部分が登記されていないため、法的には誰のものか不明であり、何の権利も保証されません。増築未登記の中古住宅を購入するリスクとしては、以下の4点が挙げられます。
それぞれのリスクについて解説します。
増築未登記の建物がある不動産を購入すると、後日トラブルになる可能性があります。
たとえば、同じ敷地内に売主Aの子供であるBが建てたガレージがある場合、売主Aから土地付きで住宅を購入したとしても、売主以外の建物が存在することになります。買主はBからガレージを購入したわけではないため、ガレージの所有者はBのままです。そうなると、買主は購入後もガレージを使用したり解体したりする権利がありません。
Bが所有権を主張してきた場合、自分の敷地内に他人の建物があることになり、大変な事態になる可能性があります。買主がBに無断で取り壊しをするのは違法であるため、Bに対して解体の許可を貰わなければなりません。
断りなく取り壊したことが発覚した場合は、Bから損害賠償を請求される可能性があります。Bに許可をもらうにしても、なかなか連絡がつかないこともあり、すぐに解体したい事情がある場合には厄介な事態になることが想定されます。
住宅ローンなどの融資を受ける際、担保となる不動産の増築部分が登記されていないケースでは、融資を受けられない可能性があります。金融機関は融資をするときに建物を担保とするため、登記記録と建物の現状が一致しない場合では融資の審査が通りません。登記記録と建物の現状は一致している必要があります。
加えて、増築により建ぺい率や容積率が変わっていたり、所有者が不明であったりすると、担保価値を正確に算出できません。未登記の建物はリスクがあるため、金融機関の審査を通すことは難しくなります。
また、買主がまとまった現金を用意して売買を完了できたとしても、将来的に売却する際、次の買主が住宅ローンを利用できない可能性があります。融資を受けられない物件ではなかなか買主が現れないため、将来的に現金化したくなっても売却できないリスクがあります。
建ぺい率は、自治体が都市計画などにより建築基準法にある数値のなかから地域ごとに上限を定めています。火事などからの被害を守る防災面としての役割や、周辺の景観を保つために決められています。また、容積率は日当たりや風通しが悪くならないように定められているもので、建ぺい率と同様に自治体によって決定されます。
以前の所有者が増築していると、登記されている建ぺい率・容積率と、実際の建物の現状が異なることになります。買主自身が増築したわけではないため、当然ながら正確な建ぺい率・容積率が分かりません。
また、以前の所有者が新築した時には適法でも、増築によって建ぺい率・容積率が増えたことで違法建築物になっている可能性もあり、注意が必要です。違法建築物は、住宅金融支援機構などの金融機関からの融資を受けられないこともあるため、買主にとってはリスクが高いといえます。建て替えの際には、さまざまな建築上の制限やトラブルが発生する可能性があることに注意しなければなりません。
増築をすると延べ床面積が増えるため、本来納付すべき固定資産税の税額を支払っていないことになります。基本的に、固定資産税は増築すれば増額され、減築すれば減額されるものと考えてください。
増築部分が未登記だと、市町村では増築した事実を把握できないため、新築時の延べ床面積で税額を算出することになります。市町村が増築の事実を把握した場合、過去の未払い分の固定資産税・都市計画税の追徴課税を課す可能性があります。もしも増築部分がある不動産を購入するとなったら、売買契約書に「追徴分は売主が負担すること」と明記しておくようにしましょう。
増築未登記の中古住宅を購入する場合は、さまざまなリスクがあるため不安がつきものです。そのため、適切に登記を行ったあとで購入することをおすすめします。
増築登記は管轄の法務局へ登記申請することになり、建物図面や各階平面図など、不動産登記法に基づいた図面も併せて提出します。図面作成や現地調査など、専門家でないと難しいことも多いため、土地家屋調査士へ依頼するのが一般的です。
なお、売主負担で登記を行うケースは比較的多くありますが、売主が嫌がる場合は買主側で負担することになりますので、覚えておきましょう。
増築未登記部分を登記する場合、建物表題変更登記が必要です。増築登記の専門家である土地家屋調査士に依頼すると、費用はかかりますが正確に登記を済ませることができます。土地家屋調査士により費用は異なりますが、相場としては7~15万円程度です。
増築登記は以下の流れで進めていきます。
土地家屋調査士に依頼する場合は、図面・書類作成や現地調査などといった一連の流れを代行してもらえるため、手間がかかりません。建物図面や各階平面図を作成するのは難しいため、土地家屋調査士などの専門家に依頼したほうがスムーズに進められるでしょう。
自分で行えば費用はかかりませんが、増築部分の測量などは正確さが求められるため、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
増築未登記の建物は権利関係が複雑であったり、遡って固定資産税が追徴課税されたりする可能性があります。購入後にトラブルが発生することも考えられるため、増築未登記の建物を購入する場合は、現状の状態で登記してから取得するようにしましょう。住宅ローンを受けられないなどのリスクがあるため、十分に検討してから決断するようにしてみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。