2022.04.18
民法改正

契約不適合責任とは|買主側の権利と売主側のトラブル防止策

不動産の売却手続きをする場合、売主は買主に対してさまざまな責任を負わなければなりません。中でも、契約不適合責任は内容を正しく理解していないと取引後にトラブルへと発展する可能性があるため、特に注意する必要があります。また、旧制度である「瑕疵担保責任」との違いを把握することも大切です。本記事では契約不適合責任の内容や、瑕疵担保責任との違いについて詳しく解説します。

【監修者】弁護士 森田 雅也

 

オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」

家主ダイレクトは、27万人を超えるオーナーに利用されている「オーナーが直接使える」家賃保証サービスです。

  • 賃貸経営をしているけど、なぜか手元にお金が残らない
  • 家賃の値下げはせず空室対策をしたい
  • 月々の管理コストを削減したい

こうしたお悩みを抱えている方は、まずは資料ダウンロード(無料)しお役立てください。

「契約不適合責任」とは

契約不適合責任とは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに、売主が買主に対して負う責任のことです。不動産取引にかぎらず、あらゆる売買契約で適用されます。引き渡された目的物に関して売買契約締結時に当事者が予定していた品質・性能を欠いていた場合の売主の買主に対する責任の規定については、旧民法にも「瑕疵担保責任」という定めがありました。2020年4月の民法改正に伴い内容が見直され、名称も変更されました。

契約不適合責任が適用されるのは、売主が買主に引き渡した目的物の品質や数量などが契約内容に適合していないために、「債務不履行」と判断される場合などです。不動産取引では、売却した建物に瑕疵(売主が買主に引き渡した目的物の欠陥)が見つかった場合に適用され、具体的には以下の3種類が存在します。

  • 物理的瑕疵:建物の構造や設備の欠陥により、本来の機能が果たせていない状態
  • (例)外壁や屋根からの雨漏り、シロアリなどの虫食い、地中埋設物の存在や土壌汚染など

  • 心理的瑕疵:建物の利用者が心理的に抵抗を抱きやすい環境にある状態
  • (例)物件内または周辺で過去に自殺・殺人などの事件が起こっている、物件の周辺に廃棄物処理場がある、火葬場などの嫌悪施設があるなど

  • 法律的瑕疵:建物に関係する法律の条件を満たしていない状態
  • (例)建築基準法で定められた容積率・建ぺい率を満たしていない、消防法で定められた消防設備の設置義務を満たしていないなど

     
    なお、不動産取引で売主が契約不適合責任を負うのは、契約内容と異なる物件を売却した場合であるため、上記のような瑕疵があっても、契約書に特記事項・容認事項として記載されていれば、原則として責任を負うことはありません。特に、中古物件では経年劣化の影響もあり、物理的瑕疵によるトラブルが起こりがちなので、売主・買主ともに契約内容をよく確認する必要があります。

    ◆瑕疵についての内容はこちらの記事で詳しく紹介しています。
    瑕疵物件とは|賃貸オーナーとしての対策と告知義務について

    以前の「瑕疵担保責任」との違い

    2020年4月の民法改正により、瑕疵担保責任の規定が契約不適合責任の規定へと変更になったことで、基本的な考え方が以下のように変更されました。

  • 瑕疵担保責任:契約時点の「隠れた瑕疵」に対して責任を追及できる
  • 契約不適合責任:「契約の内容に適合していなかったこと」に対して責任を追及できる
  •  
    瑕疵担保責任では、買主が売主に対して責任を追及できるのは「隠れた瑕疵」でしたが、契約不適合責任では「契約の内容に適合していなかったこと」ことについて、買主は売主に責任追及可能とされています。微妙な違いのように感じられますが、このような変更がされた背景には「隠れた瑕疵」の解釈を巡ってトラブルに発展するケースが考えられたためです。

    ここでいう「隠れた瑕疵」とは何かというと、「不動産の購入時点において、その瑕疵が買主にとって発見不可能なもの」を指しています。そのため、買主が注意していれば発見できた瑕疵の場合は対象外となります。しかし、「注意していれば発見できた」とはどの程度の範囲なのか、解釈が分かれてしまう可能性があります。

    また、そもそも「瑕疵」とは、判例では「契約の内容に適合していないこと」を意味するものと理解されています。このような判例を明文化する目的もあり、以前の瑕疵担保責任から契約不適合責任へとルールが変更されることとなったのです。

    この他にも、旧民法の瑕疵担保責任では売買と請負契約で内容が異なる点がありました(※ここまで説明してきた瑕疵担保責任の規定は、便宜上、売買契約の場合をさしています)。たとえば売買の瑕疵担保責任では、瑕疵が「隠れたもの」であり「事実を知った時から1年以内」に行使しなければなりませんでした。一方、請負では瑕疵が「隠れたもの」である必要はなく、「引き渡した時から1年以内」あるいは「減失、または損傷の時から1年以内」に行使するものとされていたのです。

    こうした違いは混乱を招きやすい点ではありましたが、契約不適合責任の新設によって、売買・請負ともに規定が統一され、より内容が明確になりました。

    契約不適合責任があるときに買主が請求できる権利

    具体的に契約不適合責任が確認された場合、買主が請求できる権利とはどのような内容なのか解説します。

    追完請求

    追完請求とは、新民法により新しく追加された権利で、契約不適合があった場合に買主が売主に対して目的物の修補や代替物の引渡し、不足分の引渡しを求めることをいいます。ただし、不動産売買においては、ここでいう代替物や不足分を用意することは困難であるため、基本的には修補請求が行われます。たとえば、外壁や屋根からの雨漏り修繕など、物理的瑕疵を補修するケースが該当します。

    代金減額請求

    代金減額請求も新民法により新しく追加された権利で、契約不適合があった場合に買主が売主に対して代金を減額できる権利のことをいいます。代金減額請求はすぐには実施することができず、「買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がない時」に認められます。

    つまり、代金減額請求は追完請求を補完する権利であり、使用できるのは追完請求を用いて修補を求めても売主が対応しない時や、修補が困難である時などに限定されます。たとえば、購入した物件の面積が契約書に記載された内容より少なかった場合などが考えられます(物件の面積を広げるのはほとんどの場合において困難なため)。

    催告解除

    催告解除とは、追完請求をしても売主が応じない場合に、買主が催告することで契約を解除できる権利です。追完請求が物理的に困難な場合はともかく、そもそも売主が追完請求に応じようとしない場合では、買主は代金減額請求によって減額されたとしても納得できないケースがあるでしょう。こうした場合、催告をすることによって買主は契約を解除することが可能です。

    なお、通常の取引では、買主の都合で契約を取り止めた場合には違約金などが発生する旨合意されていることが一般的でありますが、催告解除では契約自体がなかったものとなるため、無条件で売買代金は返還され、また買主都合での契約の取り止めではないため違約金が発生することも原則としてありません。

    また、旧民法の場合、請負契約においては建物の不具合による契約解除は禁止されていました。これは、建物には社会的な価値があり、不具合があったとしても契約解除を認めることは社会的な損失になる、という考え方によるものでした。しかし、新民法では、重大な不具合があったにもかかわらず契約解除できないのは適切でないという考え方に変わり、旧民法の規定は削除され、請負も売買契約と同様に扱われることになっています。

    無催告解除

    無催告解除とは、催告なしに契約を解除できる権利のことです。旧民法で定められていた「契約解除」を引き継いだ権利が無催告解除になります。

    無催告解除は、契約不適合により「契約の目的を達しない時」にかぎり、行うことができるとされています(無催告解除が可能な具体的な場合については新民法542条1項各号に規定されています)。つまり、建物の軽微な不具合など、契約の目的を達しないほどではない場合は、即座に適用することはできません。不動産においての「契約の目的を達しない」とは、住むこと自体が困難なほど著しく建物が劣化している、といった場合などが該当するものと考えられています。

    損害賠償請求

    損害賠償請求とは、買主が受けた損害を金銭などによって売主に賠償させる権利のことです。買主が損害賠償を求めるためには、契約不適合によって買主が損害を被ったこと、契約不適合とその損害との間に因果関係があることが要件となります。したがって、売主に責めに帰すべき事由(帰責事由)がない場合は、原則として買主は損害賠償を求めることができません。

    以前の瑕疵担保責任でも、買主は損害賠償請求する権利が認められていましたが、売主の無過失責任であることが条件でした。一方、契約不適合責任では、売主に帰責事由がないかぎり損害賠償は請求されないことになっています。なお、帰責事由の有無に関しては、契約、および取引上の社会通念に照らして判断されることが明記されています。

    トラブル防止のために売主側が対策できること

    契約不適合に関わるトラブルを防止するために、売主が対策できることを解説します。

    特約事項・容認事項を契約書に記入する

    不動産の売買契約書では特約事項・容認事項を明記できるため、物件の条件に合わせた内容を記載することが大切です。前述したとおり、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき、売主は買主に対して契約不適合責任を負いますので、一般的には欠陥(瑕疵)と考えられるものであっても特約事項・容認事項として記載して契約の内容となっている欠陥(瑕疵)については責任を問われないことになります。

    特に、中古物件では経年劣化により空調・衛生設備などの機能が落ちているケースが多いため、あらかじめ欠陥(瑕疵)の対象外であることを明記しておく必要があるでしょう。

    契約不適合責任の通知期間を決める

    契約不適合責任では、買主は「不適合を知った時から1年以内に売主に対して不適合の事実を通知」すれば、契約不適合責任の履行を求められると定められています。あくまでも「知った時」から1年以内であるため、不適合を知る時期に関しては期限がないことになります。

    もともと旧民法である瑕疵担保責任でも、買主が瑕疵を請求できる期間は「瑕疵を発見してから1年以内」と定められていたものの、この規定をそのまま適用すると売主が重い負担を抱えることになるため、契約上で特約を結び通知期間が短くなるよう限定するのが一般的でした。

    もっとも、不動産取引においては、宅建業法により、宅建業者が売主である場合に瑕疵責任の通知期間については「その目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。」と定められていることから、宅建業者が売主となるに不動産売買では、瑕疵担保責任の通知期間について引き渡しから2年以内として売買契約を結ぶケースが多くありました。

    そのため、契約不適合責任でも、上記と同様に通知期間を定めるのが望ましいといえるでしょう。

    インスペクションを活用する

    インスペクションとは「建物状況調査」のことで、一般的に中古不動産を売買する際に行われます。専門資格(ホームインスペクター、建築士など)を所持した調査員が、目視や計測などによって建物の安全性や劣化状況などを調査します。

    インスペクションを行う場合、原則として売主が費用負担する必要がありますが、これは物件の状況を把握するためには重要なことです。調査によって隠れた瑕疵が見つかれば、事前に修繕して改善することもできます。また、売買契約書に特記事項として記載しておけば、契約不適合を巡ってトラブルになることも防げる可能性があります。

    契約不適合責任の理解を深めてトラブルを防ぎましょう

    不動産売買を行う場合、契約不適合責任の内容は売主・買主ともに把握しておく必要があります。特に、売主は物件売却後に買主との間でトラブルが発生することを防ぐためにも、詳しく理解しておきましょう。

    本記事で紹介してきたとおり、旧民法である瑕疵担保責任よりも契約不適合責任のほうが売主側の責任がやや厳しくなっているため、旧民法の内容で不動産売却を経験したことがある人も、改めて新民法を確認しておくようにしてください。不動産取引における契約不適合責任にはさまざまなケースが考えられるため、少しでも疑問が浮かんだ場合は、信頼できる不動産会社などへ相談することをおすすめします。

    【監修者】森田 雅也

    東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

    経歴
    2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
    2007 年 上智大学法科大学院 卒業
    2008 年 弁護士登録
    2008 年 中央総合法律事務所 入所
    2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

    著書
    2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
    2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
    2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

     

    PREV シェアハウスの始め方|初心者が知っておきたい特徴と注意点
    NEXT 賃貸リノベーションのローンとは?金利の種類、比較ポイント

    関連記事