不動産経営にはマンション経営などさまざまな種類がありますが、近年ニーズが高まっているものに「シェアハウス」の経営があります。この記事ではシェアハウスの始め方や注意点などについて詳しく解説をしますので、これからシェアハウスの経営を検討している人はぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
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目次
シェアハウスとは、ひとつの家に複数の人が共同で暮らす賃貸物件のことで、親族ではない他人同士が定められた生活ルールを守りながら日常生活を送るという特徴があります。本章では、シェアハウスの形態やルームシェアとの違いについて詳しく解説していきます。
シェアハウスの入居者は、リビング、キッチン、バスルームなどのスペースを共同で使用するのが一般的です。自分だけで過ごせるスペースは個室となっており、共同生活を楽しみながらもプライバシーを守ることができる形態が主流となります。
出典:国土交通省 – シェアハウス ガイドブック(P1)
国土交通省が運営事業者に対して行った運営実態等調査(平成29年調査、回収件数123件)によると、入居者の年齢層のうち、25歳以上30歳未満が約44%ともっとも多く、次いで30歳以上35歳未満の約31%、20歳以上25歳未満の約12%となっていることから、20代~30代の利用者だけで8割を超すことが分かります。また、男女比については、女性の利用者が多い物件が7割を超えていることから、若い世代や女性の利用者に多く利用されていることが伺えます。
シェアハウスの入居者の中には、20歳未満の利用者も0.8%と僅かながら存在しています。これは、若い世代の間でシェアハウスは共同生活でないと体験できない共有・交流を楽しめるライフスタイルのひとつとして知られていることが大きいと考えられます。また、中には「住宅確保要配慮者向け」の物件もあり、低額所得者・高齢者・障害者・外国人といった入居者の属性をもつシェアハウスも存在しています。
参考:国土交通省 – 1-2.シェアハウスの運営事業者に対する運営実態等調査
なお、賃貸マンションなどの契約では「普通賃貸借契約」が結ばれますが、シェアハウスの場合、契約形態は「定期借家契約」が多いのも特徴です。定期借家契約の契約期間は1年未満が多く、通常でも3カ月~2年程度となります。中途解約が難しく、家賃の交渉も原則として認められていません。
そのうえ、契約の更新はありませんので、期間が満了すれば借家契約は終了します。双方が合意すれば再契約することはできますが、契約更新は貸主の意思で決まるため、入居者が住み続けたくても貸主が認めなければ更新は難しくなります。シェアハウスごとに契約期間の規定はさまざまで、退去についても物件ごとに特約で定められていることが一般的です。
複数の人が共同生活を送るスタイルとしてルームシェアもありますが、シェアハウスとは居住形態に違いがあります。ルームシェアは「部屋(=ルーム)」をシェアしますが、シェアハウスは「家(=ハウス)」をシェアするという形態です。ルームシェアはひとつの部屋を複数の人で共有するのに対し、シェアハウスは一軒家などのひとつの住宅を複数の人で共有して生活するところに違いがあります。
ルームシェアとシェアハウスは契約形態も異なります。まず、ルームシェアはオーナーと入居者が賃貸借契約を結ぶ方式で、ルームシェアをしている全員がオーナーと契約をすることもあれば、代表者1人がオーナーと賃貸借契約を結ぶこともあります。中には、1人が借りて他の入居希望者に転貸をするケースも存在します。ルームシェアに関する個人間でのトラブルに対して「オーナーは対処しない」と特約で定められている場合、個々で解決しなければなりません。
一方、シェアハウスの場合は、建物全体を管理する人や企業などの「運営管理者」が物件を運営し、賃貸借契約は各個人が運営者と締結します。入居者は運営管理者が決めたルールに従いながら暮らす必要があり、問題が発生したときは運営者が間に入って解決を図るという特徴があります。
近年、空き家などの再活用としても注目されているシェアハウスですが、シェアハウス経営にはメリットもあればデメリットもあります。それぞれ解説していきます。
シェアハウスを経営するおもなメリットには、以下の3つがあげられます。
シェアハウスは、物件はひとつでも複数の部屋を貸し出すことができるため、一般的な一戸建て賃貸よりも空室リスクは低くなります。一戸建て賃貸は入居者が退去してしまえば家賃収入はゼロになりますが、シェアハウスの場合は1人が退去しても他の入居者が住み続けているため家賃収入が大きく減ることはありません。空室リスクを分散することができるのはシェアハウスのメリットです。
また、一般的な物件よりも収益性が高いこともメリットのひとつです。たとえば、個室の部屋数が7つある大きな一軒家を一世帯に15万円で貸すよりも、7人の入居者に月額3万円で貸して合計21万円の家賃収入を得たほうが収益性は高くなります。先述した通り空室リスクも低いため、安定した家賃収入を見込めます。また、シェアハウスはキッチンやリビングなどのスペースを複数の人が共有するため、建物の床面積を最大限に活かせる点もポイントです。
さらに、他の物件と差別化を図れるという点もあります。 近年ではさまざまな形態・独自のコンセプトを持つシェアハウスが提供されており、それだけ多様なニーズが求められていることを示しています。その物件ならではのコンセプトを打ち出すことにより特定のターゲットを狙うことができるため、他の物件と差別化を図ることが可能です。
一方、シェアハウス経営のおもなデメリットは以下の3つです。
シェアハウスの物件は個室の数が多いことが求められるうえ、駅から近いなど交通の利便性が高い物件であることも必要です。また、リビング・キッチン・浴室・トイレなどを共有スペースとして利用するため、ある程度の広さや数も必要で、複数の人が同時に利用しても問題ないように設備を整えておく必要があります。そのため、最初の一歩である物件探しがやや難航する可能性はあります。
また、ひとつ屋根の下で他人同士が共同生活をするため、揉め事が起こる可能性もあります。先述の通り、シェアハウスでのトラブルは運営者が介入して解決を図ることになるため、厄介な事態に巻き込まれることがあるかもしれません。
そのほか、ランニングコストや設備投資費用が高いという問題もあります。シェアハウスの管理を管理会社に委託した場合、中には管理料として家賃収入の約20%を支払うという例もあります。一般的な物件の管理費用は家賃収入の5%が相場となるため、それに比べると管理料は高額な傾向です。
また、シェアハウスは通常の賃貸物件よりも建物が大きいのが一般的ですので、部屋数が多いほど修繕費やリフォーム費用などは高額になります。共有スペースや個室の設備も備える必要があり、初期投資額も大きくなる傾向が高いです。
シェアハウスの経営に必要な設備について解説します。
すでに説明の通り、シェアハウスは複数の居住者でリビングやキッチンをはじめとする設備を共有しますが、各個人には個室の部屋も必要となります。
完備しておく設備は、コンセント・エアコン・照明器具・ベッド・クローゼット・カーテン・テーブル・イスなどです。シェアハウスではベッドやテーブルなどの家具があらかじめ設置されていることが多いですが、これは、基本的な家具類を部屋に持ち込む必要はない=入居者が入退去しやすいことを表します。
ちなみに、物件内の部屋数(個室)は5~10部屋未満がもっとも多く、次は10~20部屋未満となっています。個室の面積は7.5~10㎡未満が最多であり、畳数で表すと4畳半から6畳半ほどの広さです。
シェアハウスの共用部分として、リビング・ダイニング・トイレ・キッチン・浴室・ランドリールームなどがあります。おもな共有設備をスペース別にまとめましたのでご覧ください。
共用部分 | 設備 |
---|---|
リビング | ・ソファーセット ・テレビ ・Wi-Fiなどの通信機器 |
ダイニング | ダイニングテーブルセット |
キッチン | ・ガスレンジ(IH調理機も含む) ・冷蔵庫 ・電子レンジ ・炊飯器 ・食器、食器棚 |
ランドリールーム | ・洗濯機 |
事業者全体の約7割がトイレ・キッチン・ランドリールームなどのスペースを完備しており、中にはパソコンが設置されているシェアハウスもあります。
実際にシェアハウスを始めるときの流れについて紹介します。
まずはシェアハウスの運営方法について決めます。シェアハウスの運営には、主に3つの方法があります。
管理委託は、不動産管理会社に管理を委託する方法です。通常はシェアハウスの管理を手がけている会社に任せます。管理費用は10~20%程度かかりますが、入居者の募集から契約手続き、家賃徴収、共用スペースの清掃管理、イベント開催などを代行してくれるので手間がかかりません。
サブリースとは、サブリース業者に物件を1棟まるごと賃貸し、入居者との賃貸借契約などといったシェアハウスの運営を依頼する方法です。入居者から受け取る家賃の15%~20%を差し引いた金額がサブリース業者から支払われます。管理委託と同様、手間がかからないのはメリットですが、家賃減額交渉などで収入が低下するリスクを抱えています。
自主管理は、業者に委託せずに自分で全ての管理や契約手続きなどをする方法です。自分で行なうため費用はかかりませんが、入居者間のトラブルなどは自分で解決しなくてはなりません。
次に、入居者のターゲットやシェアハウスのコンセプトを決めていきます。近年では「女性専用」などと入居対象者を絞る、都心など利便性の高い立地環境にこだわる、イベント開催を通して入居者のコミュニケーション促進に取り組むといった、独自の特徴を出すシェアハウスが全体の4割を占めています。それ以外にも、付加価値のある設備等をセールスポイントとする物件や、中には賃料の安さをアピールポイントとする物件もあります。
きれいな状態でないと入居者が入りにくいため、リフォームを行います。リビングやキッチン、ダイニングなど、入居者がリラックスするスペースは、ゆっくりとくつろげるような居心地の良い環境づくりが大切です。また、シェアハウスでは水まわり全てが共用設備となり、朝や食事の時間帯は人が集中して混み合うため、入居者の人数から考えてゆとりのある設備の数が必要です。特に、洗面所やトイレなどは多めに設置したほうが喜ばれます。
リフォームが完了したら、いよいよ入居者を募集します。募集する方法としては、シェアハウス専用物件の検索サイトへの掲載が9割を占めているほか、自社の公式サイトで物件情報を発信する運営会社も多いです。 利用者の多くは若い人であることから、SNSを使って物件をアピールするのもよい方法です。
最後に、シェアハウス経営を成功させるコツを3つ紹介します。
ターゲットとなる層にとって需要のある立地を選ぶことがポイントです。たとえば、東京都にあるシェアハウスだと、ターミナル駅まで15分前後で行けるアクセスのよい立地にあるところが多く見られます。 シェアハウスの利用者は学生や20~30代の若い人が多いことから、交通の利便性が高い立地にあるシェアハウスは人気物件になる可能性が高いと考えられます。
シェアハウスは初めて知り合う他人同士が共同生活を営みますので、お互いに迷惑をかけずに暮らすためにも、運営側は最低限の生活ルールを決めておくことが大切です。たとえば以下の項目が挙げられます。
基本的な生活ルールを決めておくことによって、不要なトラブルを避けられます。
運営するシェアハウスに独自のセールスポイントを設ける場合、入居希望者とは面談をしたり内見をしたりして、入居希望者のニーズに合っているか擦り合わせをしておくと安心です。
シェアハウスの経営は、空き家などを有効活用できる・空室リスクが低いなどさまざまなメリットを得られる投資方法ですが、一般的な物件とは違うため独特のデメリットも兼ね備えています。しかし、ターゲット層にとって需要がある立地を選ぶ・トラブルを未然に防ぐルールを定めておくといった対策を事前にしておくことで、順調に経営を進められる可能性が高まります。ぜひ本記事を参考に検討してみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。