本記事では、修繕積立金の目的や、積み立てておくべき金額の目安などを詳しく説明していきます。修繕積立金はマンション等の区分所有者が継続して負担しなくてはならない支出ですので、不動産投資における利回りの予測の際には、忘れずにチェックすべき項目です。
ただし、修繕積立金は単なる支出ではなく、マンションの資産価値の維持等に関わる重要なものですので、この機会にしっかりと役割を理解して、これからの賃貸経営を成功させてみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
修繕積立金とは、マンションなどの区分所有建物において、将来の大規模修繕に備え、あらかじめ一定額を毎月積み立てておくお金をさします。
区分所有建物の購入の際には、建物の管理のための費用である管理費のほか、修繕積立金の支払いが必要になるのが一般的です。修繕積立金の額はマンション等の構造や築年数、修繕計画の方針等によって一律ではありませんが、毎月のランニングコストとして一定額を想定しておく必要があります。
そこで本章では、修繕積立金がどういうものか分かるように、修繕積立金の概要や目的、積み立てる理由について解説します。
修繕積立金とは、各区分所有者が決められた額を管理組合に支払い、管理組合が将来の大規模修繕のための資金としてプールしておくお金です。長期的な修繕計画や、修繕の必要性が生じた際の修繕のための費用として使われます。
分譲マンションでは当然、修繕積立金は所有者の負担となります。一方、賃貸物件の場合には建物の劣化についての責任は建物のオーナーが負うものとされ、修繕積立金は原則、オーナーが負担するべきものと考えられています。ただし、オーナーと入居者との間に特別の取り決め等があれば、原則とは異なる契約も可能です。
建物は年数の経過とともに劣化しますが、定期的に適切な修繕工事を施すことで建物の大幅な劣化を防ぎ、資産価値の減少を最小限にとどめることができます。ですから、建物の所有者にとっては建物の定期的なメンテナンスは大変重要なポイントです。
とはいえ、以下に挙げる点から、修繕の必要が生じた際にそれぞれの区分所有者から必要額の全額を集めることは現実的とはいえません。
そこで、修繕積立金として必要な金額をあらかじめ積み立てておくことで、スムーズに適切な修繕を行えるようになります。
適切なメンテナンスがなされているか否かで、建物の耐用年数は大きく異なります。修繕積立金の積み立てが適切に行われ、計画的に修繕が行われている建物は、そうではない建物に比べて外見的にも機能的にも優れるうえ、耐用年数もアップします。
そのため、建物の適切な修繕は賃貸経営において、
につながると考えられます。
マンション等の区分所有者が負担する費用には、修繕積立金のほかに管理費という費目があります。両者はメンテナンス費用という面では共通していますが、使用目的が異なります。その点についてオーナー向けに解説します。
修繕積立金は、先ほども説明したとおり、将来の大規模修繕に備える目的であらかじめ一定額を積み立てておくものです。建物の経年劣化を最小限に留めるには、一定期間ごとに外壁塗装工事や給排水管の交換工事、屋上やベランダ等の防水工事等、適切なメンテナンスを行う必要があるので、そのための費用を計画的に確保することが目的です。
一方、管理費は共用部分の水道光熱費や清掃費用、管理会社に対する委託手数料、火災保険の損害保険料等、マンションで日常的に必要となる維持や管理のための費用です。
要するに、
という違いがあります。
アパートやマンションの修繕工事の種類にはさまざまなものがありますが、ここでは大規模修繕工事とそのほかの修繕工事の2つに分けて解説します。
大規模修繕工事とは、快適な居住環境の確保と資産価値の維持のため、建物や設備の性能向上のために行う改修工事であり、大規模、高額、工期が長期間にわたるものとされています(詳しくは国土交通省のガイドラインを参考にしてください)。
一般的には、屋上防水・外壁補修・給排水設備・エレベーターの交換など、アパートやマンション全体に関わる大規模な改修工事を計画的に実施することを指します。
足場を組んで数カ月に渡って工事することになり、日照・通風・騒音といった入居者への日常生活への影響が大きくなるため、トラブルを避けるためにも入居者へ事前にしっかりと説明をすることが大切になります。
マンションの規模や構造、管理組合の方針等によって違いはありますが、おおよそ10~30年程の周期で計画的に実施されることが一般的です。
アパート・マンションの修繕工事には、大規模修繕工事以外にも、
があります。
➀共用部の日常的な修繕には、
等があります。
原状回復のための修繕には、
等があります。
②大規模修繕に至るまえの検査には、
等があります。
これらの修繕や検査は、大規模修繕とは別に必要が生じたタイミングで行うものです。日頃からていねいに修繕を行うことは建物の寿命を延ばすだけでなく、大規模修繕の際に過分な費用が発生するリスクを抑えることにもなるため、修繕の必要が生じた時には、その都度適切な対応をすることが大切です。
修繕内容別に、工事内容と周期、費用相場等について解説します。
外壁塗装工事の内容を簡単に説明すると、以下のような流れになります。
1.足場の設置
2.外壁の高圧洗浄
3.下地の処理と養生
4.塗装作業
5.足場の解体と撤去
外壁塗装工事は、まず足場を設置することから始まります。建物の規模が大きくなるほど、足場の設置にかかる時間と費用は増えることになります。次に高圧洗浄機で外壁の汚れを落とし、外壁のひび割れやサビ、劣化したコーキングの補修など、外壁の下地の処理と養生をします。
塗装は外壁の状態によって複数回に分けて行います。この時、外壁のほか、ベランダなどマンションの鉄部の塗装工事についても同時に行うのが一般的です。最後に足場の解体と撤去を行って終了です。
これらの外壁塗装工事を定期的に実施しない場合、屋根や外壁等の雨漏り、構造部の腐食の原因となり、結果として建物本体の寿命が短くなってしまいます。
工事周期は、国土交通省が公表している「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」のモデルケースを見てみましょう。ここでは、RC造20戸(1LDK~2DK)のマンションの例を挙げ、11~15年目と21~25年目に行うイメージとされています。
ただし、実際には塗料の種類によって耐用年数は異なります。一般に耐用年数の長い塗料を用いれば費用は高くなり、耐用年数が短い塗料を用いれば費用は安くなるため、外壁塗装を行う周期と予算を考慮しながら長期的視点に立って修繕計画を立てる必要があるでしょう。
外壁塗装工事の工期は戸数等といった建物の規模によって大きく異なりますが、50戸未満の小規模なケースであれば1~3カ月程、 それ以上の規模であればおおよそ3~6カ月以上、場合によっては1年以上かかるケースもあります。
また、外壁塗装工事の費用は約150~2,000万円ほどかかるのが一般的ですが、建物の規模や塗料の種類、業者等によっても異なるので、管理組合の修繕方針に従って計画的に修繕を行うことが求められるでしょう。
参考:国土交通省 住宅局住宅総合整備課賃貸住宅対策室 – 民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック
一定期間ごとに外壁塗装工事を行っていても、屋上・ベランダ・バルコニー等の鉄部の塗装による防水性能は次第に落ちていき、5~10年程で再度建物の防水工事を施す必要が生じるとされています。
これらの防水工事にかかる工期はおおよそ2日~2カ月程、費用は1㎡あたり6,000~2万円程と、マンションの規模やどのような工法で行うかによって違いがあります。先程のRC造20戸のマンションの例では、排水管の高圧洗浄等の費用を含めて一棟あたり約170万円と見積もっています。
防水性能が落ちたままの状態で放置すれば、雨水により錆が生じて腐食するなど、建物自体の耐用年数を縮めることにつながります。そのため、外壁塗装工事以外のタイミングでも屋上・ベランダ・バルコニー等の防水工事は定期的に実施する必要があるといえます。
給水管とは水道水が通るための管のことで、管が腐食しないように内部は塩化ビニルで覆われています。しかし、10~15年程経過すると結合分から次第に劣化が進み、管の腐食によって赤錆や水漏れが発生することがあります。安心して水道水を使用するためには、定期的に劣化診断を行って給水管工事を行うことが必要です。
特に、水道水に錆が混じっている、水の出が悪い等の症状が出始めたら注意が必要です。
また、給水管の工事には、
の2種類があります。
更生工事は費用が安く工期が短いというメリットがありますが、更生工事では対応できないケースがあることや、寿命を延ばすことはできてもいずれは更新工事が必要となることに注意しなくてはなりません。一方、更新工事は大幅に寿命を延ばすことができますが、費用や工期の負担が大きくなるのはデメリットです。
それぞれのメリット・デメリットを勘案して、どちらの方法が望ましいかを選択することになります。
費用はどのような工法を選択するかによって異なりますが、1戸あたり10万~50万円程かかると考えておきましょう。
排水管とは、台所やトイレ等から出る生活用水を下水道まで流す役割の管のことです。耐用年数は排水管に使用されている材料の種類にもよりますが、おおよそ30~40年程と考えられています。排水管の詰まりや劣化を放置しておくと、水の流れが悪くなり、さらには管に穴が空いて水漏れの原因にもなります。
排水管工事には、給水管工事と同様に「更生工事」と「取替工事」という2つの方法があります。劣化を放置することで腐食が進んでしまうと更生工事では対応できなくなるケースもありますので、早めに検討することが大切です。
費用は1戸あたり30万~50万円程をみておく必要があります。
給水ポンプとは、受水槽に溜められている水を押し上げて、建物の上層階まで届ける役割を果たしているものです。耐用年数は約10年前後が目安とされており、交換工事にはおおよそ60万~300万円程の費用がかかるのが一般的です。
エアコンや給湯器もおおよそ10年前後で寿命を迎えます。交換費用としては1台につき10万円程の予算を見積もっておくことをおすすめします。
給湯器の交換の際には、設置できる機種や工事法に制限があり、管理組合への確認や届け出が必要となる場合が多くみられます。場合によってはマンションの耐久性に影響を与える工事となりますので、事前に管理組合へ確認することを忘れないようにしましょう。
修繕積立金の目的は大規模修繕等の費用に充てるためであることから、修繕費として費用計上できるのは当然と考える人もいるかもしれません。ところが現実には、修繕積立金を支出した時点ではまだ修繕は行われていないため、修繕積立金としての支出額を費用として計上できないのが原則です。費用計上のタイミングは、実際に修繕行為がなされて修繕費が支払われた時点となります。
しかし、修繕積立金の管理組合への支払いは区分所有者にとっては義務であり、支払った金額が返還されることは原則としてありませんので、マンションの適正な管理規約に従って支払われた修繕積立金は、支払った年度に費用として計上することもできるとされています。その際には以下の要件を満たすことが必要となります。
要するに、修繕積立金は支出時点では経費計上できないのが原則であるものの、一定の要件を満たす場合には支出時点での経費計上は可能ということになります。
参考:国税庁 – 賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い
建物の修繕費用は、原因によっては火災保険で補償される可能性もあります。火災保険という名称から、補償の対象となるのは火災による損害に限定されると考えている人が多いかもしれませんが、実は火災保険の対象範囲はもう少し広く設定されています。
等も火災保険で補償される可能性があります。
ただし当然ながら、経年劣化によって生じた破損は補償されません。また、契約している火災保険の内容によっても補償される範囲は異なるので、外部の原因で破損した場合などは保険会社に確認をとってみることをおすすめします。
これまでの内容から、大規模修繕は快適な居住環境を確保し資産価値を維持するために、大変重要な工事であることが理解できたのではないでしょうか。もっとも、ひとくちに大規模修繕工事といっても、外壁塗装工事、防水工事、給排水管工事等、具体的な工事内容はさまざまであり、それぞれの耐用年数も異なりますので、最適な工事のタイミングが一致するとは限りません。
とはいえ、その間入居者の生活は不便を強いられることや、足場を組む等の費用や手間もかかることなどから、できればまとめて実施するほうが効率的であり、ある程度決まった周期で実施されることが一般的です。
大規模な修繕工事であるため、大変高額な費用になることが予想されますから、計画的に費用を準備していかなくてはなりません。
大規模修繕工事をしっかりと実施しているマンションであれば、売却の際には買い手が付きやすく、賃貸であれば入居者が安心して住み続けてくれる可能性が高まります。これらを前提として、修繕積立金は長期的に計画を立てて準備しておくことが大切なであるといえるでしょう。
修繕積立金に関する基本的な内容や費用相場、具体的な工事内容等について解説しました。賃貸経営においては、長期的視野に立って収益性を考えることが重要です。そのためにも、区分所有建物のオーナーにとって修繕積立金は収益性と資産価値の維持を図るために重要なポイントとなるでしょう。その重要性への理解が賃貸経営の成功へのカギとなるといえるでしょう。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。