不動産経営を行う大家さんの中には、所有物件のガスを「プロパンガス」と「都市ガス」で迷う人がいます。実はプロパンガスのほうが賃貸経営においてメリットを受けられるケースがありますが、実際に毎月のガス料金を支払うのは住んでいる人ですから、導入する場合は入居者側が損をしないように進めることが大切です。大家さんがプロパンガスを導入するメリットや賃貸契約時の注意点について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
【著者】矢口 美加子
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目次
そもそもプロパンガスと都市ガスの違いは何でしょうか?ここでは基本内容として、ガスの原料、供給方法、発熱量、料金設定の違いなどを解説します。
プロパンガスの原料は液化石油ガス(LPG)で、大半を海外(主に中東)から輸入しています。常温かつ通常の気圧だと気体で、プロパンとブタンを主成分とした炭素と水素の化合物です。液体にすると、気体時の体積の約250分の1になり、輸送や保管を効率よく行えるため、液体のまま消費者宅に届けて気体にもどしてから利用します。
いっぽう、都市ガスはメタンを主な成分に持つ天然ガスと、海外から輸入する液化天然ガス(LNG)が大半です。天然ガスは東南アジアやオーストラリアといった中東以外の地域からも輸入でき、バランスよく調達できます。原料である天然ガスは、-162℃まで冷やすと液体になり、体積が600分の1と小さくなるのが特徴です。
プロパンガスは「個別供給方式」と「集中供給方式(導管供給方式)」の2つの供給方法があります。個別供給方式は、家庭ごとにプロパンガスのボンベ容器を設置してガスを供給します。ガス会社は各家庭のプロパンガスの使用量をコンピュータで管理しており、ガスの残量がなくならないうちにボンベを交換します。
集中供給方式(導管供給方式)は、敷地内に設置されたプロパンガスの設備から各家庭に供給する方式です。都市ガスと同様、地中に埋められた導管を経由して供給します。70戸未満の集合住宅では小規模導管供給、70戸以上の大規模な集合住宅には簡易ガス供給が採用されます。プロパンガスはボンベ式のため全国どこでも供給でき、地方であっても問題ありません。
都市ガスは、広域に設置されている地下のガス導管を通じて供給されます。利用できる地域は東京や大阪など都市圏に集中している傾向があり、地方では供給できないエリアもあるため、導入したくてもできない場合があります。ただし都市ガス管は年々整備が進んでおり、都市ガスが利用できる地域は拡大傾向にあります。
プロパンガスと都市ガスの発熱量を比較してみましょう。発熱量では都市ガスよりもプロパンガスのほうが2.23倍多くなります。
ガスの種類 | 1m3あたりの発熱量 |
---|---|
プロパンガス | 24,000kcal |
都市ガス | 10,750kcal |
料金を比べてみると、プロパンガスのほうが2,269円ほど高くなるため、都市ガスのほうがお得であることがわかります。
ガスの種類 | ガス平均料金(10m3使用時) |
---|---|
プロパンガス | 7,769円 |
都市ガス | 5,500円 |
プロパンガスを実際に利用するのは入居者ですが、大家としては大家側が受けるメリット・デメリットについて気になるところでしょう。ここでは、大家側からみたプロパンガス導入のメリット・デメリットについて解説します。
所有する物件にプロパンガスを導入すると、以下のようなメリットを受けられる可能性があります。
新築した物件にプロパンガスを導入、あるいは既存物件のガスをプロパンガスに切り替えることで、プロパンガス会社がさまざまな特典をつけてくれる傾向があります。ビルトインコンロやインターホン・防犯カメラなどの付帯設備を無料とすることで、入居率改善になる可能性があります。
そのうえ、給湯器やエアコンなどの付帯設備にかかる費用を軽減できるため、大家にとっては賃貸経営においての経費の節約につながる可能性が高いです。
いっぽうで、所有する物件のガスをプロパンガスにすると、以下のようなデメリットにつながる可能性があります。
ガス会社を乗り換えると、現在のガス会社から違約金や設備買取りなどを要求される可能性があります。長期間にわたって同じガス会社を利用することを前提に、配管設備費を無料にしていたり給湯器などのガス設備を無償で提供していたりする場合があるからです。
また、新しいプロパンガス会社と契約する際、契約期間が15年などと長期になることがある点も注意しておきたいポイントです。
ガスは日常生活で必ず使用するものですので、入居者にとってもガスの種類は重要なポイントです。ここでは、入居者側からみたプロパンガス導入のメリット・デメリットについて解説します。
プロパンガスを導入すると、入居者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。主に以下2点があります。
都市ガスの場合、大地震などで導管網が寸断されると復旧までに長期間かかることがあり、その間は利用することができません。ガスは調理や給湯、暖房などのエネルギー源として欠かせないものであり、供給されなくなると生活面で大きな支障が出ます。その点、プロパンガスはボンベで供給されるため、地震などの災害が発生しても復旧が早いという大きなメリットがあります。
また、プロパンガスは都市ガスよりも発熱量が高いため、強い火力で調理を楽しめます。
一方で、入居者側のデメリットには以下2点があります。
プロパンガスの大きなデメリットは、都市ガスに比べて料金が高い点です。理由としてはガスボンベの配送にかかる人件費などのコストがあげられます。そのうえ、プロパンガス会社は自由に価格を設定できるだけでなく、業者別に市場を分けて、互いの領域に配慮して参入しないようにする傾向があります。そのため、競争が少ない状況になり値下げの可能性がほとんどなく、どちらかというと高くなることもあります。
また、地域によって料金差が大きいのも特徴です。プロパンガスを利用する地方のケースでは、料金が高い地域と安い地域で年間の支払料金に数万円以上の差が開くこともあるようです。
2016年4月からの電力小売り自由化や、2017年4月からのガス小売り全面自由化から、2017年6月より大家はプロパンガス会社との契約内容を入居者に開示することが義務付けられました。
賃貸住宅の給湯器やエアコンなどの設置費用をプロパンガス会社が負担して、入居者が支払うガス料金に上乗せして回収している場合、その内容について入居者へ説明しなければなりません。料金明細の明記も義務となっています。
具体的に何の設備にいくらかかっているかを説明し、書面に記載することが必要です。たとえば、給湯器やエアコンなどの設備の所有権がプロパンガス会社にあるという場合、「貸与料:給湯器○○円」というように記載しなければなりません。「基本料金」「従量料金」とは区別して明記します。
プロパンガス業界は不透明な面が多いため、改善される必要があるという意見がみられていました。今回の義務付けにより、プロパンガスが導入されている賃貸物件で入居者と契約する際には、大家は注意をしなければなりません。
紹介した通り、プロパンガスの導入は大家にとってメリットが大きいといえますが、それと同じほど入居者にとってもメリットがあるのかといわれれば、疑問は残るでしょう。プロパンガスは都市ガスよりも料金が高いため、物件を探す際に敬遠する人は少なくありません。そのため、プロパンガスを導入する場合は、以下の点に気をつけてガス会社と契約することをおすすめします。
プロパンガス料金に設備貸与料金を上乗せすると、入居者が支払うガス料金は高くなります。現在、大家はプロパンガス会社との契約内容を入居者に説明する義務があるため、そもそも入居者にとって不利益な契約は結ばないほうが得策です。それに加えて、入居者に長く住んでもらうためにも、周辺のガス相場を意識して契約することも大切なポイントです。
また、入居者にプロパンガスならではのメリットを理解してもらうことも必要です。プロパンガスの大きなメリットとして「災害に強い」という点があります。大きな災害が発生しても復旧が早いという点を伝えることが大切でしょう。特に小さな子供がいるファミリー世帯ならばライフラインは重要ですから、万が一の事態が発生しても日常生活に大きな支障をきたさない点を伝えましょう。
賃貸物件にプロパンガスを導入すると、大家はさまざまなメリットを受けられる可能性があります。しかし、実際に毎月のガス料金を支払うのは入居者なので、あまりにガス代が高すぎると更新せずに退去してしまう可能性もあるでしょう。空室が出ると次の入居者が決まるまでは賃料が入らなくなるため、プロパンガスを導入する場合には、大家は入居者側のメリットもしっかりと考えてガス会社を選ぶようにしてみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。