2024.03.07
賃貸管理

賃貸物件の経年劣化とは?借主・貸主負担の基準について解説

賃貸物件をもつ大家さんの中には、経年劣化と原状回復の関係や、原状回復費用に含まれない経年劣化とは何かを調べている人もいるでしょう。この記事では、賃貸物件の経年劣化に関する借主や貸主の負担の基準等について解説します。特に居住用物件や小規模な事務所等の大家さんは、経年劣化や通常損耗の範囲について明確に理解し、必要があれば賃貸契約の際に特約に織り込んでおくことがおすすめです。

【著者】水沢 ひろみ

 

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経年劣化とは

経年劣化とは、時間の経過によって生じる建物や設備の品質の低下を指します。
具体的には、

  • 日光による壁やフローリング、畳の変色
  • 湿気による浴室やトイレの壁の黄ばみ、パッキンの傷み
  • 一定の使用期限経過によるエアコン等の設備の故障
  •  
    などが経年劣化にあたります。

    賃借人が部屋を明け渡す際には、原則として原状回復の責任があるとされています(改正民法621条)。しかし、賃借人の責めに帰することができない事由による損傷部分については原状回復義務を負わないとされていますので、この経年劣化による損傷部分の修繕費用は通常だと入居者に請求することはできません。

    賃貸物件の損耗は、経年劣化・通常損耗・特別損耗の3つに分類されますが、具体的にどのようなケースが該当するかについては国土交通省が公表するガイドラインで詳しく解説されています。

    参考:国土交通省住宅局 – 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

    国土交通省のガイドラインでは、経年劣化による回復のための費用は、すでに毎月の賃料に含んで回収されていることから、賃借人側に原状回復の義務はないとされています。ですから、特約がない限りは借主が追加的に負担する必要はない、ということです。

    経年劣化と通常損耗の違いとは

    経年劣化と似ているものの異なる状態として、通常損耗があります。通常損耗とは、入居者が普通の生活を送りながら賃貸物件を使用収益するなかで避けられない損耗を指します。

    具体的には、

  • テーブルやベッド、冷蔵庫等の家具や家電を設置していた箇所の凹みや傷跡
  • テレビや冷蔵庫等によって生じた壁面の電気焼け
  • 新しい入居者募集のために行う畳の表替えや裏返し(破損しているわけではない場合)
  • 賃借人が所有するエアコン設置のための壁のビス穴等
  • 地震等の自然災害による設備の破損
  •  
    等が該当します。経年劣化も通常損耗も、不可避的に生じるものという点では共通していますが、経年劣化は時の経過によって生じ、通常損耗は普通の生活を送っていても生じる損耗という点に違いがあります。

    この通常損耗の修復のための費用も経年劣化の場合と同様、原則として貸主の負担となるもので、借主側には負担する責任はないとされています。

    賃貸物件の経年劣化などは「貸主負担」、特別損耗は「借主負担」

    先ほども説明したように、賃貸物件の経年劣化や通常損耗の修繕費は貸主負担となりますが、特別損耗については借主負担となるというのがガイドラインの考え方です。ここでは、経年劣化・通常損耗と特別損耗の違いなどについて解説しますので、入居者が退去した後に原状回復を請求する際の参考にしてください。

    特別損耗とは

    国土交通省のガイドラインでは、特別損耗を

    賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

    と定義して、借主が修繕費用を負担するとしています。

    善管注意義務とは、「善良な管理者の注意義務」という法律用語を略したもので、借主は社会通念一般的に期待される程度の注意を払って、賃貸した部屋を保存する義務があるとされています(民法400条)。

    つまり、入居者がわざと、もしくはうっかりして傷つけたり壊したりした場合や、通常考えられる程度の注意を怠ったために損害が生じた場合には、特別損耗としてその修繕費用は借主の負担となるということです。

    特別損耗のケース例

    では、借主の負担として原状回復のための費用を請求できる特別損耗とは、具体的にどのようなケースをさすのでしょうか?イメージがつきやすい例をあげてみましょう。

  • タバコのヤニによって染みついた臭いや汚れ
  • ペットを飼育していたことによる傷や臭い
  • 水漏れや配管の破損が生じていたにもかかわらず、放置していたことで拡大した損傷
  • 釘などで壁紙に空けた穴が下地まで届いているなど、下地の交換が必要となるような場合(壁に画鋲でポスターを貼る程度であれば通常損耗の範囲)
  • 常識的な程度の掃除や修理を怠ったために生じたカビや水垢、染みなど
  • カーペットに液体等をこぼした際の手入れ不足よって生じたシミやカビ
  • 引越作業等の際についた傷 など
  •  

    経年劣化と原状回復について

    居住目的で賃貸している場合には、貸主は借主に対して経年劣化や通常損耗による修繕費の請求はできないのが原則です。修繕費の請求ができるのは特別損耗がある場合に限られます。

    退去時に発生する原状回復費用は敷金から差し引かれることになりますので、特別損耗がある場合はその費用を敷金から差し引いて残りを返還します。ですから、敷金の額を超える特別損耗による損害がある場合を除いて、借主が追加的に修繕費用を支払う必要はありません。

    ただし、特別損耗によって生じた損耗部分の原状回復工事を行うにあたって、経年劣化や通常損耗によって生じた損耗部分についての回復も同時になされることから、これらの負担割合が問題となることがあります。

    たとえば、喫煙やペットの飼育等が原因でクロスの一部に染みが残ったケースの場合、クロス全体を張り替えることになります。そうすると、本来であれば特別損耗として負担すべき修繕費部分の負担を借主が免れる結果となるため、貸主と借主との間の公平性を考慮して、特別損耗部分の割合に従って負担額を決める、というのが判例の立場です。

    特別損耗としての負担割合は現実的なケースごとに判断されますが、これまでの判例によると、修繕費用の1~3割程度を特別損耗として借主負担とするケースが多くみられます。

    また、賃借人の原状回復義務については民法621条に定められていますが、この規定は任意規定と解釈されています。ですから、当事者間に特約があれば、通常損耗や経年劣化による修繕も賃借人の負担とすることは可能です。とはいえ、そういった特約は賃借人の責任を加重する性格のものですので、より慎重な対応が求められます。

    その際には、

  • 賃借人負担となる通常損耗の範囲が、賃貸借契約書に具体的かつ明確に記載されていること
  • 賃貸借契約書に記載がなく賃貸人が口頭で説明する場合には、賃借人がその内容を明確に理解して、合意したと認められること
  •  
    のいずれかが必要とされています(最高裁判例:平成17年12月16日)。

    事業目的の賃貸は経年劣化を含め「借主負担」になることも

    賃貸住宅とオフィス・事務所・店舗等では原状回復の範囲が異なるケースが多く、事業目的の賃貸借契約では経年劣化を含めて「借主負担」になることが一般的です。

    オフィスや店舗、工場等に使用する場合には、事業形態によって大がかりな内装工事や大規模な設備装置の取付工事等が必要なケースもあります。しかし、事業形態によって異なるこれらの原状回復費用を賃貸人の側がすべて予測して、賃貸料に組み込んで賃料を定めるというのは現実的とはいえません。ですから、事業目的の賃貸借契約では、原状回復義務の範囲は比較的広く認められる傾向にあります。

    国土交通省が定める原状回復のガイドラインは一般の賃貸住宅を想定したものであり、事業目的の賃貸である場合には必ずしもあてはまるわけではないことに注意が必要です。もっとも、小規模な事務所として使用するケース等、居住用として使用する場合と実態においてほとんど差がないような場合には、原則として経年劣化や通常損耗部分についての原状回復義務は負わないと判断されています(東京簡裁判決:平成17年8月26日)。

    これらを勘案すると、事業目的で現在貸し出し中の大家さんの場合には、どのような内容で賃貸借契約書の合意を行っているのか確認することが必要だと考えらえます。また、これから事業目的で貸し出す大家さんの場合は、これからどのような合意をするかが重要となりますので、慎重に判断することをおすすめします。

    賃貸物件の経年劣化について理解してトラブルを防止しよう

    賃貸物件の経年劣化・通常損耗・特別損耗に関する借主・貸主の負担の基準等について解説しました。経年劣化や通常損耗による賃貸物件の修繕費用は、貸主負担になることが原則とされています。また、特別損耗として賃借人に原状回復費用の請求が認められる場合でも、実際に請求する際には負担割合を考慮する必要があるため、賃借人の負担は一部分となるのが一般的です。

    しかし、貸主と借主の間に特約があり、両者が合意していれば賃借人の負担とすることも可能ですし、事業目的の賃貸では経年劣化を含めて借主負担になるケースも多いです。賃貸契約にあたっては、賃借人の使用目的・規模・使用方法等を把握し、必要があれば賃貸借契約締結の際に特約を定めておく等、後からトラブルにならないようにすることが大切です。

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