世界的な金利上昇が続いている中で、不動産投資における金利上昇リスクとその対策について関心がある不動産投資家は多いでしょう。そこで、金利上昇の背景や不動産投資への影響、その際の対策などについて解説します。長期に渡る不動産投資においては、わずかな金利の変動も大きな影響を及ぼすため、金利の動向に対する正確な知識と対策を身につけることは非常に重要です。
【著者】水沢 ひろみ
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金利上昇に関するニュースとして、アメリカでは30年固定住宅ローン金利が上昇し、7%を超えて一時8%に達したとの集計結果が出たことは記憶に新しいところです。
それに対して日本の大手金融機関では、今のところ全期間固定金利でも1%台という状況です。とはいえ、日銀が長期金利の変動幅の上限を緩和する方針を決定したことから、固定金利は徐々に上昇する動きもあります。このような金利上昇は、不動産投資にどのような影響を与えるのでしょうか?
市場金利の上昇に伴って住宅ローンの金利も上昇しますので、変動金利タイプの借入を行っている場合には支払う金利が増えて月々の返済額が増えます。不動産投資においては、金融機関からの借り入れを利用する人が大多数であり、借入期間は長期に及ぶことが多いのが一般的です。借入金額が大きく、借入期間が長いほど、金利の変動が返済額に与える影響は大きくなります。
また、これから購入を検討している場合には、返済総額の負担を考慮して購入に消極的になる人が増えることから、不動産価格は下落する可能性が高くなります。
それでは、このような住宅ローン金利の変動によって、月々の返済額はどの程度変わるでしょうか?以下でシミュレーションしてみましょう。
元利均等返済で35年固定ローンを組み、5,000万円の借入を行ったケースで考えてみます。
金利 | 毎月の返済額 | 初回のみ | 総返済額 |
0.5% | 129,792円 | 138,011円 | 54,512,640円 |
1% | 141,142円 | 157,580円 | 59,279,640円 |
3% | 192,425円 | 241,740円 | 80,818,500円 |
7% | 319,428円 | 434,496円 | 134,159,760円 |
金利が0.5%から1%に代わると、毎月の返済額は11,350円増えることになります。3%に上昇すると62,633円、7%では189,636円も増え、支払額は倍以上に増えることになるのがわかります。
大手金融機関の変動金利は1%を切る状況が続いていましたので、7%の金利といわれても実感が伴わないかもしれませんが、日本もかつては7%を超える金利がついていたことがありました。
とはいえ、低金利状態が続いていた日本では、最近まで変動金利を利用してローンを組む人が多数でした。同時期にローンを組むのであれば、固定金利に比べて変動金利のほうが金利は低くなるからです。しかし、最近では金利上昇のリスクを織り込んで、固定金利を利用する人が増えてきています。
では次に、元利均等返済で35年ローンを組んで、5,000万円の借入を行い、0.5%の変動金利で10年経過後、それ以降3%に上昇したケースと5%に上昇したケース、7%に上昇したケースで比べてみましょう。
10年後金利 | 10年目までの毎月の返済額 | 10年後の毎月の返済額 | 総返済額 |
3% | 129,792円* | 173,539円 | 67,644,909円 |
5% | 129,792円* | 213,932円 | 79,763,000円 |
7% | 129,792円* | 258,648円 | 93,177,422円 |
*初回のみ138,011円
このケースでも、10年目以降の支払額が大幅に増えていることが分かります。
このように、金利の上昇は不動産の価格や借入の返済額に大きな影響を与えるので、不動産投資を行う際は金利の動向には注意が必要です。
ただし、金利と不動産価格との関係においては、金利の上昇以上に所得の伸びが大きく、物価が上昇している局面では、金利が上がっても不動産価格も上昇していくケースがあります。不動産の売買では、経済情勢全般の動きを勘案して慎重に判断することをおすすめします。
2022年3月に、連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を0.25%引き上げたことをきっかけに、アメリカでは2年間続いたゼロ金利政策が解除され、その後も大幅な金利の上昇が続いています。
このような金利上昇が起こる背景には、世界的なインフレが影響しています。インフレとは、モノやサービスの価格が上昇していき、相対的に貨幣価値が下落していく現象のことです。いわゆる物価が上がるという状況ですが、この状況を抑制するためには金利を上げることが有効とされています。金利が上がれば消費が抑制されるので、物価の上昇が収まるという仕組みが働くからです。
新型コロナウイルスやウクライナ危機等が発端といわれるアメリカのインフレは、世界的に影響し、現在は多くの国で金利が上昇している状況です。日本は、他国との金利差が拡大する中でも、低金利政策を変更することはないとの姿勢を続けていましたが、ゼロ金利政策の解除に舵をきりはじめ、今後金利が上昇する可能性も出てきました。
ですから、不動産投資においても金利上昇へ備えておくことが必要なフェーズに入ったといえるのかもしれません。
不動産投資における金利上昇への対策としておすすめしたいのは、繰り上げ返済を検討することです。
「5,000万円を35年元利均等額ローンで借り入れ、当初10年間は0.5%で返済した後、金利上昇のために1,000万円を繰り上げ返済した」という場合の例を、金利上昇が3%・5%・7%で発生したと仮定して以下にシミュレーションしてみます(※実際には繰り上げ返済に伴う手数料等が発生しますので、金額はあくまで概算となります)。
【10年目以降の毎月返済額と総返済額:10年後の金利が3%に上昇した場合】
毎月返済額 | 総返済額 | |
繰り上げ返済しなかった場合 | 173,539円 | 67,636,740円 |
繰り上げ返済した場合 | 126,118円 | 63,410,440円 |
【10年目以降の毎月返済額と総返済額:10年後の金利が5%に上昇した場合】
毎月返済額 | 総返済額 | |
繰り上げ返済しなかった場合 | 213,932円 | 79,754,640円 |
繰り上げ返済した場合 | 155,473円 | 72,216,940円 |
【10年目以降の毎月返済額と総返済額:10年後の金利が7%に上昇した場合】
毎月返済額 | 総返済額 | |
繰り上げ返済しなかった場合 | 258,648円 | 93,169,440円 |
繰り上げ返済した場合 | 187,970円 | 81,966,040円 |
繰り上げ返済した場合としなかった場合では、毎月の返済額と総返済額は大きく差が出ることが分かります。
金利上昇局面の対策として、変動金利で借り入れているのであれば固定金利に変更することは選択肢のひとつです。ただし、固定金利は変動金利よりも利率が高くなるので、更なる金利上昇リスクを軽減する効果はありますが、月々の返済額が増えることは防げません。
ですからもし経済的に余裕があるのであれば、できるだけ早めに繰り上げ返済することも合わせて検討するとより効果的であるといえます。
金利上昇の背景や不動産投資への影響、その際の対策などについて解説しました。不動産投資は長期に渡るものですので、金融機関からの融資を利用している場合には、わずかな金利の変動で毎月の返済額が大きく変わります。
将来的な金利の動向を予測することは不可能ですが、金利の変動によって返済額が増える可能性があることはしっかりと頭に入れておく必要があるでしょう。その際に慌てないように、繰り上げ返済の資金を準備しておくなど、事前にできる対策を考えておくことをおすすめします。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。