賃貸経営を行う大家さんは、年に一度、確定申告をする必要があります。確定申告には青色申告と白色申告があり、経費として計上できる範囲や利用できる控除金額に違いがあります。この記事では、賃貸経営を行う大家さん向けに、青色申告 と白色申告の違いについて解説します。
【著者】矢口 美加子
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目次
税法上、所得は10種類に分けられており、家賃収入はその中の「不動産所得」に該当します。不動産所得などの所得が20万円を超える場合、大家さんは年に一度、確定申告をすることが必要です。
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に発生した所得金額と、それに対する所得税の額を計算することです。1年間で得た収入から経費を差し引いて所得を算出し、そこから納税額を計算して国(税務署)に報告します。源泉徴収された税金や予定納税額などがある場合には、その過不足も精算します。
大家さんが個人事業主の場合は、1月1日から12月31日の家賃収入で得た所得を合計して所得税の額を計算し、翌年の2月16日から3月15日の間に税務署へ申告・納税を行います。
ちなみに、所得とは収入から経費を差し引いた金額を指しているため、家賃収入の総額ではありません。家賃収入から管理費・修繕費などといった必要経費を差し引いた金額が大家さんの所得です。たとえば、家賃収入が1,000万円でも、修繕費などの経費が400万円発生している場合、所得は600万円ということです。
確定申告は青色申告と白色申告の2種類があり、それぞれ必要書類や事前の承認手続き、帳簿の記帳方法、節税効果などに違いがあります。その点は後ほど詳しく解説します。
家賃収入を確定申告するには、事前に開業届や青色申告承認申請書を税務署へ提出するなど、さまざまな準備が必要です。
大家さんとして賃貸経営を始めたら、納税地を所轄する税務署へ開業届を提出します。提出時期は事業を始めてから1カ月以内で、開業届出書を作成して税務署へ持参、または郵送します。
パソコンからe-Taxソフトで届出書を作成し、e-Taxで提出することも可能です。e-Taxを利用する際には、マイナンバーカードがあると簡単です。なお、e-Taxを初めて利用する場合は、利用者識別番号を取得する必要があります。
提出する際は、控えを作成して保管しておくことをおすすめします。開業届の控えとして正式に認められるようにするには、控えのコピーに税務署の収受印を押してもらうことが必要です。屋号名で銀行口座を作成するときや、融資や補助金を受ける際に必要な場合があるため、必ず保管しておきましょう。
開業届の控えは、税務署に持参して提出した場合はその場で、郵送の場合は返送によって受け取ることができます。e-Taxで提出した場合は、開業届を送信したときのデータと受信通知の双方を印刷しておくと便利です。
確定申告を青色申告で行う場合は、その年の3月15日までに個人事業の開業届とあわせて青色申告承認申請書を所轄の税務署に提出しなければなりません。青色申告承認申請書を提出していない場合は自動的に白色申告となるため、注意してください。
開業届と同様に税務署へ持参・郵送して提出できるほか、パソコンからe-Taxソフトで申請書を作成してe-Taxで提出することも可能です。
ただし他の届出書とは違い、青色申告承認申請書は提出しても必ず承認されるとは限りません。税務署長が認めた場合のみ有効となります。提出後に税務署から承認できない旨の通知がなければ承認されたものとみなされ、青色申告で確定申告できます。
青色申告と白色申告は、記帳方法や確定申告の際に提出する書類などにさまざまな違いがあります。ここでは青色申告と白色申告の違いについて解説します。
先述のとおり、青色申告は確定申告前に青色申告承認申請書を所轄の税務署長へ提出し、承認を受けなければなりませんが、白色申告の場合だと事前申請は不要です。青色申告承認申請書を提出しなければ、自動的に白色申告となります。
青色申告は複式簿記、白色申告は簡易簿記となり、記帳方法に違いがあります。
青色申告のメリットとして65万円控除がありますが、そのためには複式簿記での記帳が必要です。主要簿として「仕訳帳」と「総勘定元帳」を複式簿記形式で作成し、事業内容や取引方法によっては補助簿として売掛金元帳なども作成します。なお、複式簿記でない場合(簡易簿記など)は、65万円ではなく10万円の控除となります。
一方、白色申告は簡易簿記で記帳します。簡易簿記とは、いわゆる「お小遣い帳」のようなもので、現金出納帳などに現金の出入りや内容を記録していきます。複式簿記のように多くの勘定科目が出てくるような複雑さはないため、毎日発生した取引を記録して月ごとに集計するだけで問題ありません。
ただし、事業や不動産貸付業を営む方が個人で白色申告をする場合は、記帳に加え、一定期間の帳簿や書類の保存も必要です。
賃貸経営による所得は不動産所得になりますが、事業として行われているかどうかにより所得金額の計算の仕方に違いがあります。事業的規模になる基準は、戸建て住宅の賃貸では5棟以上、アパートなどは室数10室以上です。所得金額の計算上の相違点は以下をご覧ください。
(1) 賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失については、不動産の貸付けが事業として行われている場合は、その全額を必要経費に算入しますが、それ以外の場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます。
(2) 賃貸料等の回収不能による貸倒損失については、不動産貸付けが事業として行われている場合は、回収不能となった年分の必要経費に算入しますが、それ以外の場合は、収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直します。
(3) 青色申告の事業専従者給与または白色申告の事業専従者控除については、不動産貸付けが事業として行われている場合は適用がありますが、それ以外の場合には適用がありません。
(4) 青色申告特別控除については、不動産貸付けが事業として行われている場合、正規の簿記の原則による記帳を行うなどの一定の要件を満たすことにより最高55万円の控除を受けることができます。
引用:国税庁 – No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
青色申告と白色申告では、確定申告の際に提出する書類が異なります。それぞれ紹介します。
青色申告にて必要な書類は、➀確定申告書(第一表と第二表)、②青色申告決算書、③その他の添付書類(所得控除などを受けるための証明書類)、の3つです。
確定申告書は、第一表と第二表の2枚を用意します。土地・建物や株式の譲渡所得がある場合は、分離課税の申告をするために第三表も必要です。損失申告をする場合は第四表も提出します。
確定申告書の第一表には、年間の収入・所得・控除金額・税額などを記載し、確定申告書の第二表には第一表の申告内容の内訳などを記載します。青色申告決算書は、年間の収入や経費などをまとめた書類です。賃貸経営の場合は「不動産所得用」を使用します。様式はこちらから入手できます。
国税庁:所得税青色申告決算書(不動産所得用)【令和2年分以降用】
第1面には賃貸料など収入金額を記載し、租税公課や修繕費といった不要経費を計上します。2面には不動産所得の内訳の内容や給料・賃金など、3面には減価償却費や弁護士・税理士への報酬など、4面には貸借対照表を記載します。
また、所得控除や税額控除を受ける場合は、証明書類の添付が必要です。社会保険料・生命保険料・地震保険料・寄付金などの控除関係の書類を添付します。
白色申告にて必要な書類は、➀確定申告書(第一表と第二表)、②収支内訳書、の2つです。確定申告書は申告方法による違いがないため、青色申告と同様に第一表と第二表を提出します。
青色申告決算書の代わりとなる書類として、白色申告では収支内訳書を提出します。収支内訳書も事業によって3つの様式があり、賃貸経営者の場合は「不動産所得用」を選びます。様式はこちらから入手できます。
国税庁:所得税白色申告決算書(不動産所得用)【令和2年分以降用】
青色申告と同様に賃貸業で発生した収入や必要経費を記載していきますが、青色申告とは違い貸借対照表の記入欄がありません。そのため、青色申告より記入方法が簡略であるのが特徴です。
帳簿や書類は一定期間保存しなければなりません。青色申告においての帳簿書類の保存期間は、以下の通りです。
出典:国税庁 – 記帳や帳簿等保存・青色申告
白色申告においての帳簿書類の保存期間は、以下をご覧ください。
出典:国税庁 – 記帳や帳簿等保存・青色申告
電子帳簿保存法制度が施行されたことから、令和6年1月以降においては、注文書・契約書・領収書・見積書・請求書などの電子データはそのまま保存しなければなりませんので、大家さんは注意しましょう。
参考:国税庁 – 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください
青色申告と白色申告のどちらの方法を選ぶかによって、受けられるメリットや発生するデメリットには違いがあります。どのようなメリット・デメリットがあるのか紹介します。
青色申告の主なメリットとして、以下が挙げられます。
それぞれのメリットについて解説します。
青色申告の大きなメリットは、10万円・55万円・65万円の特別控除が受けられることです。所得から最大65万円を控除できるため、所得税を節税できます。ただし先ほども述べたとおり、最大65万円の控除が適用されるのは複式簿記を利用した場合であり、簡易簿記で記帳した場合の控除額は10万円となります。また、最大65万円の控除を受けるためには期限内に申告しなければならない点にも注意が必要です。
青色申告をすると、赤字を翌年以降に繰り越すことができます。今年の赤字を翌年以降、個人事業主では最長3年間、法人では最長9年間の所得から差し引けるため、所得が増えた場合の節税対策として効果的です。翌年度の家賃収入が増えた場合でも、繰り越した赤字の分を差し引けるため、税額を安くできます。
青色申告では、貸倒引当金を経費に計上して税金を減らせます。貸倒引当金とは、取引先の倒産などで債権回収が不可能となるケースに備えて、あらかじめ損失額を計上する引当金をさします。賃貸経営においては家賃の滞納金を貸倒引当金として処理できるため、「回収不能かどうか確定はしていないが、回収できる見込みがなさそうである」という滞納家賃を経費として計上できます。
生活費を共有している家族に支払った給与を経費として計上できるのも、青色申告のメリットのひとつです。利用するには、確定申告する前にあらかじめ「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出していることが必要です。青色事業専従者給与として認められる人の要件は以下を確認してください。
青色事業専従者給与の場合、家族へ支払う報酬が仕事の対価として妥当な金額であれば認められます。
青色申告を行う事業主で、1つあたり30万円未満の少額減価償却資産に関しては、購入・使用した年度に一括して経費に計上できる特例を受けられます。たとえば、賃貸業で使用するパソコンなどを一度に経費として使えるため、その年度の利益を圧縮することが可能です。
参考:国税庁 – No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
青色申告にはさまざまなメリットがある一方、➀事前の申請が必要である、②記帳に手間がかかるうえに必要書類が多い、といったデメリットもあります。
すでに何度もお伝えしている通り、青色申告を行う場合には、事前に管轄する税務署へ青色申告承認申請書を届けなければなりません。帳簿の記帳も複式簿記で行う必要があり、時間や手間がかかります。また、控除を受けるためにはさまざまな証明書が必要となります。
白色申告の大きなメリットは、帳簿の記帳が簡単なことです。簡易簿記で記帳すればよいため、青色申告の複式簿記のように手間がかかりません。確定申告書に記入するときは、収支内訳書に家賃収入や経費を書くだけですので、手間がかかることなく作成できます。青色申告のように、あらかじめ税務署に申告承認申請書を提出する必要もありません。
なお、生計をともにする家族に対して給与を支払った場合は、白色申告であっても、全額ではありませんが一部を経費として計上することが可能です(事業専従者控除)。具体的には、以下に挙げた1・2のそれぞれの方法で算出した金額のうち、低いほうが適用されます。
なお、事業専従者控除を受ける場合も、青色事業専従者給与のように税務署へ事前に届け出る必要はありません。
白色申告の主なデメリットとして、➀特別控除を受けられないこと、②専従者の給料を全額経費として計上できないこと、③基本的に赤字を繰り越せないこと、があります。
白色申告の最大のデメリットは、65万円・55万円・10万円の特別控除を受けられないことです。所得から特別控除額を差し引けないため、そのままの所得で税金を支払うことになります。
また、専従者の給料を青色申告のように全額経費として計上できません。家族に支払う給料は年間にすると大きな金額になるため、一部しか経費にできないのは手痛いといえます。そのうえ、基本的には赤字を繰り越せないので、赤字と黒字が交互にあるようなときは青色申告のように節税効果を得ることもできません。
賃貸経営を始めると大家さんは事業者になるため、確定申告をする必要性が生じます。確定申告は事業者としての義務であり、税額を正確に計算して申告しなければなりません。
間違った申告をすると税務署から指摘を受けたり、追徴課税を課されたりすることもあるため、日ごろから支出額を計算して毎月の収入の記録を行うことが重要です。
確定申告書類は大家さん自身でも作成できますが、会計ソフトを使用したり、税理士へ依頼したりすると、簿記の知識がなくても正確な申告書を作成することができます。
確定申告には青色申告と白色申告の2通りがあり、大家さんがメリットを多く受けられるのは青色申告だといえます。青色申告ならば最大65万円の控除を受けられるだけでなく、赤字を繰り越せたり、家族への給料を経費に計上できたりと、高い節税効果を得られます。賃貸経営で家賃収入が一定以上ある人は、青色申告を選んで上手に節税しましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。