アパートが古くなると修繕費用が高額になるため、建て替えを検討することが多いです。ただ建て替えには莫大な費用がかかり、入居者に立ち退きを求めなければなりません。コスト・労力の点でハードルがかなり高いのが実情です。この記事では、アパートの建て替えにかかる費用や立ち退き交渉のポイントについて解説します。古くなってきている物件をお持ちの大家さんは、ぜひ参考にしてください。
【著者】矢口 美加子
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目次
築年数が古くなるにつれ、アパートの収益性は低くなる傾向があります。そこで検討されるのがアパートの建て替えですが、建て替えるかどうかの判断基準として、主に以下の5つがあります。
それぞれの内容を詳しく説明していきます。
建物が古くなると耐震性や耐久性に問題が発生するため、築年数が30年以上経っているケースだと建て替えを視野に入れることになります。アパートの法定耐用年数は、以下の表をご覧ください。
建物の構造 | 法定耐用年数 |
木造(住宅用) | 22年 |
木骨モルタル造(住宅用) | 20年 |
軽量鉄骨造(鉄骨厚さ3mm以下) | 19年 |
軽量鉄骨造(鉄骨厚さ3mm超4mm以下) | 27年 |
出典:国税庁 – 主な減価償却資産の耐用年数表
法定耐用年数とは、固定資産を使うことができる期間を国が定めたものであり、資産の種類により細かく定められています。 たとえば賃貸用のアパートでも、木造の法定耐用年数は22年、木骨モルタル造は20年、軽量鉄骨造(鉄骨厚さ3mm以下)は19年と、違いがあります。
法定耐用年数を過ぎていても、適切にメンテナンスや修繕を実施していれば使用することは十分可能です。ただし、法定耐用年数を超えると銀行の融資評価はつきにくい傾向があります。年数が古くなるほど修繕費用も高額になるため、法定年数を経過したタイミングで建て替えするケースは多く見受けられます。
空室が目立つようになった場合も、建て替えの目安時期といえます。古いアパートは間取りや内装などが現代のニーズと合わなくなるため、いくら入居者募集をかけても空室率が改善されないケースは少なくありません。
なお、空室率とは賃貸物件の部屋数に対して空室がどの程度あるかを示す指標です。以下の計算式で算出します。
空室率が5割以上の状態が続いているならば、建て替えを検討してみる時期かもしれません。
旧耐震基準とは、1981年(昭和56年)5月31日までの建築確認において適用されていた基準のことです。翌日の1981年(昭和56年)6月1日からは新耐震基準が施行されているため、「旧耐震」「新耐震」と呼び方が区別されています。
旧耐震基準は、震度5強の揺れに耐える力があるとされています。しかし、1995年(平成7年)1月に発生した阪神・淡路大震災では最大震度7を記録した地域があり、多数の被害者を出しました。そのため、震度5強以上の地震が発生した場合、旧耐震基準だと耐えられない可能性がある建物は一定数あると考えられるでしょう。一方、新耐震基準では震度6強~震度7でも倒壊しない設計となっています。
1981年に完成した建物だとしても、2023年現在からは40年以上前にあたるので、旧耐震基準のアパートはかなり古いほうに分類されます。中には耐震補強工事をする方法もありますが、旧耐震基準の建物は法定耐用年数を軽く超えるため、新耐震基準が適用になるように建て替えるのは良い方法といえるでしょう。
老朽化したアパートを修繕するときには多額のリフォーム費用がかかるため、維持費が高額になります。築30年以上になれば大規模な修繕が必要ですし、貸室の設備機器も劣化が進んで交換することが多くなります。大規模修繕には高額な費用が必要となるため、築年数が法定耐用年数を超えたタイミングで建て替えを検討し始めるケースは比較的多くあります。
時代により入居者のニーズは変わるため、賃貸アパートにも今の時代に求められている要素を取り入れることが必要です。たとえば、近年ではバス・トイレ別の物件が入居条件の上位になっていたり、和室よりフローリングがある洋室のほうに人気が集まっていたりします。
また、賃貸住宅にも遮音性・断熱性・省エネ性などの基本性能の向上を求める声が大きくなっていることから、より快適に住める環境を望む動きがみられています。
古いままのアパートでは間取りや基本性能を大幅に変更する必要があるため、大規模修繕をする代わりに建て替えてしまうことで、将来的に建物を長く使うことが可能となります。
アパートを建て替えると、キャッシュフローの改善、修繕費の削減というメリットを得られる可能性があります。それぞれ詳しく説明します。
アパートが古くなってくると今までの家賃では入居者が入らないため、賃料の値下げを決断することがあります。しかし、そうすると全体の家賃収入が低くなるので、キャッシュフローの悪化が懸念されます。その点、建て替えを行えば賃料値下げが発生しないだけでなく、建物が新しく綺麗になることで空室を解消しやすくなるため、キャッシュフローの改善が期待できます。
また、新築になることで減価償却を利用できるため、税金を抑えられるのもメリットです。将来的に長く使えるようになり、資産価値も上がります。
古いアパートは雨漏りが発生しやすかったり外壁が剥がれやすくなったりなど、修繕することが多くなり、修繕費用が何かと発生するようになります。度重なると高額になり、最悪の場合では赤字になる可能性もあります。
建て替えをすることで築後10年程度は大きな修繕が比較的発生しにくくなるため、修繕費を削減することが可能です。
アパート一棟を建て替えるには多額の費用がかかり、立ち退き交渉も発生します。それぞれの内容について詳しく説明します。
アパートを建て替える場合、現在のアパートの解体費用と、新しいアパートの建築費用がかかるため、高額な資金が必要です。解体費用には廃材の処分や重機の使用料なども費用も含まれ、規模が大きな建物であるほど高額になります。アパートの建築費用は、軀体・仕上げ・設備の費用割合が「4:4:2」とされており、規模が大きく住宅設備のグレードが高いほど建築費用は跳ね上がります。
このように解体工事費用と建築工事費用の両方がかかるため、多額の費用が発生することを頭に入れて準備しておくことが重要です。
アパートを建て替える際に入居者が住んでいる場合は、6カ月以上前に入居者へ立ち退きを求めることが一般的です。入居者側に契約違反がなく、大家の都合で立ち退きを求める場合は、立退料を支払って退去してもらうことになります。
逆に、入居者側に家賃滞納などといった契約違反があるケースでは、賃貸借契約を解除して明け渡しを求めることが可能です。この場合、立退料は必要ありません。
アパートの建て替えによる立ち退きの詳細については、次の章で解説します。
本章では、立ち退き交渉について詳しく解説します。
借地借家法は原則、借りる側に優位な法律であるため、借主の立場が強力に守られています。したがって、貸主からは簡単に契約解除することはできません。賃貸借契約は継続が原則であることから、貸主は一度借主と賃貸借契約を締結すると、簡単に立ち退きを請求することは難しくなっています。
立ち退きを求めるには正当事由が必要であり、たとえ建物が自分の財産といえども、自由に入居者を追い出すことができません。立退料は、あくまでも貸主が建物の明渡しの条件として入居者に対して支払う「財産上の給付」にしか過ぎないため、「立退料さえ支払えば正当事由は認められる」というわけではない点に注意しましょう。
借地借家法第二十八条によれば、正当事由の構成要因は主に以下の5つとなります。
たとえば賃貸人(大家)が建物の使用を必要とする事情として、大家が解体後の敷地に自宅を建てて住むケースなどがあります。賃貸借に関する従前の経過に関しては、入居者が家賃を数カ月滞納しているなど、これまでの経過を指します。
建物の利用状況では、入居者が契約書に記載された使い方をしているかどうかがポイントです。建物の現況では、アパートが老朽化して倒壊するといった危険性から建て替えが必要になる場合などです。財産上の給付をする旨の申し出をした場合、その申し出は大家が入居者に対して支払う立退料を指します。
上記の正当理由5つを総合的に判断され、適当であると認められれば、入居者に立ち退きを求めることが可能です。
大家の都合による立ち退きの主な流れは以下の通りです。
まず、入居者に立ち退きのお願いを通知します。先述の通り、大家から立ち退きを求める場合は契約満了の6カ月前までに更新しないことを入居者へ知らせます。借地借家法では、立ち退きが認められる正当な理由がなければ大家が一方的に契約を解除することはできないとされているため、注意が必要です。
正当な事由がある場合は入居者と立ち退き交渉を開始します。主に以下の3点について話し合うことがほとんどです。
入居者と話がまとまったら、明け渡しの準備をしてもらいます。
ただ、大家側の理由による立ち退きの場合は、入居者側との交渉がうまくいかない可能性もあります。入居者の立場を考えてきちんと話し合うことが大切です。
アパートの建て替えは、以下の流れで進めていくのが一般的です。
最初に、建て替え後のプランを検討します。アパートの外観・貸室の間取り・設備機器を施工会社の担当者と入念に話し合います。建て替えにどのくらいの資金が必要なのかを把握し、無理のない資金計画を立てることも重要です。
工事着工前には入居者の立ち退きを完了させ、入居者が全て退去したら建物の解体工事を行い、更地にします。施工会社とアパートの新築工事請負契約を締結した後、新築アパート工事が開始され、完成という流れです。竣工時期は、需要が多いシーズンに合わせると入居者は比較的入りやすいといえます。
アパートを建て替えるための費用は、大別すると以下の3つに分けられます。ここでは、アパート建て替えにかかる費用相場について解説します。
アパートにかかる退去費用の相場は、明確に決まりがあるわけではありません。一般的には家賃の6カ月程度と考えられており、具体的には40万円~80万円程度とされています。入居者との交渉次第では、それより安くすることも可能です。
なお先に説明しましたが、入居者が家賃を滞納している、契約違反をしているなどのケースがある場合、立退料を支払わなくても退去を求めることが可能となります。また定期建物賃貸借契約の場合は、契約が満了するとその後の更新はないので、立退料を支払うことなく明け渡してもらえます。
アパートの解体費用は構造により異なり、木造は3万円~6万円、鉄骨造は3万円~8万円、鉄筋コンクリート造(RC造)は5万円~9万円が1坪あたりの相場です。延べ床面積別にみたアパートの解体工事費用の相場価格は、以下をご覧ください。
構造 | 70坪 | 100坪 | 150坪 |
木造 | 210万円~420万円 | 300万円~600万円 | 450万円~900万円 |
鉄骨造 | 210万円~560万円 | 300万円~800万円 | 450万円~1200万円 |
RC造 | 350万円~630万円 | 500万円~900万円 | 750万円~1350万円 |
鉄骨造やRC造といった頑丈な造りのアパートは、延べ床面積が広ければ解体工事費用だけで1000万円を超えるケースもあります。
アパートの解体費用は頑丈な順で高額になり、もっとも高額なのは鉄筋コンクリート造(RC造)、2番目に鉄骨造、3番目に木造となります。鉄筋コンクリート造で解体面積が広い場合はもっとも解体費用がかかります。
アパートの建築費用は、さらに高額な資金が必要です。木造の場合は1坪あたり70万円~110万円、軽量鉄骨造りの場合は80万円~110万円、鉄筋コンクリート造りの場合は100万円~130万円が相場です。延べ床面積別にみたアパート建築工事費用の相場価格は、以下を確認してください。
構造 | 70坪 | 100坪 | 150坪 |
木造 | 4900万円~7700万円 | 7000万円~1億1000万円 | 1億500万円~1億6500万円 |
鉄骨造 | 5600万円~7700万円 | 8000万円~1億1000円 | 1億2000万円~1億6500万円 |
RC造 | 7000万円~9100万円 | 1億円~1億3000万円 | 1億5000円~1億9500万円 |
延べ床面積が100坪を超えると、建築工事費用が1億円を超えるケースが出てきます。解体費用と同様、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造の順に建築費は高額になります。
アパートの建て替えには莫大な費用がかかるだけでなく、入居中の入居者に円満な状態で立ち退いてもらうための交渉も必要となります。立ち退き交渉がこじれると建て替え自体がそもそも難しくなりますし、立退料が上がってしまう可能性もあります。アパートの建て替えが決まったら入念に建て替え計画を立てるようにし、6カ月前までに入居者へ通知して、スムーズに明け渡してもらえるようにしましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。