アパート経営も年数が経つと建物の劣化から、次第に空室が増えるようになります。アパートを建て替えるタイミングは、どのように判断すればよいのでしょうか。そして、建て替えにはどの程度のコストと手間がかかるのでしょうか。本記事では、アパートの建て替えについて、メリット・デメリットとともに、各種費用と手順を解説します。
目次
アパートを建て替えるには適切なタイミングがあります。物件ごとに状況は異なりますが、わかりやすい判断基準としては以下の4つが考えられます。
アパート・マンション経営では、風呂・トイレ・水回りなどの設備や外観の塗装など大規模修繕費用は避けて通れないものです。修繕費用は築年数が経てば経つほど美観を保つのに費用がかかります。大規模修繕費用を見積りしたときに、相場よりもかなりかかる場合は、思い切って建て替えを検討するのもよいでしょう。
たとえば、1戸あたり60万円のリフォームを実施して5,000円家賃を上げるケースで考えてみます。家賃を値上げした結果、年間6万円の収入増となりますが、リフォーム費用を回収するのに10年かかってしまいます。空室の数にもよりますが、合計してあまりに高額なリフォーム費用になるようなら、建て替えて家賃をより多く上げたほうがコストパフォーマンスはよくなる可能性があります。
2つめのタイミングは、築年数が30年以上経過したときです。アパートの場合は木造の法定耐用年数が22年、鉄骨造が27年なので、30年ならほとんどのケースでローンの支払いや減価償却も終わっているはずです。劣化の程度にもよりますが、建て替え時期としては適切と考えられます。
また、すでに築30年経過している物件なら上述したようなリフォームを行っても10年後には築40年となり、ほぼ建て替えが必要なレベルとなります。結局二度手間となるため、早めに建て替えを行ったほうが得な場合があります。
築年数の経過とともに、どうしても空室が出やすくなります。空室改善のために施策を打ちますが、それでも効果がない場合もあるでしょう。空室改善施策を行っても空室率が5割以上ある場合は、小手先のリフォームよりも、建て替えを考えたほうが効率的かもしれません。
賃貸経営では修繕を巡ってトラブルになることがあります。築年数が経つほど修繕箇所も多くなるので、頻繁に修繕費用をかけるよりも、建て替えたほうがトラブルも少なくなるでしょう。
ローンをすでに完済している場合も建て替えのチャンスになります。建て替えれば家賃を値上げして募集しても入居者を集めやすくなります。ローンを新たに組んだ場合でも、家賃収入が増えるので安定して返済できる見込みが立ちます。
賃貸オーナーとしてアパート建て替えのタイミングを考えるとき、このなかの1つの要因だけで判断するのは難しいかもしれません。複数の要因が重なるような状況になれば、建て替えを行う時期にきていると判断してもよいでしょう。
また、最近は「耐震基準」の問題で古いアパートを敬遠する人もいるので、「旧耐震基準」で建てられた(1981年5月31日以前に建築確認を受けた)アパートは建て替えが必須となっています。
【参考】空室改善だけなら他の手段もある
空室改善だけを考えるなら、建て替え以外の手段もあります。1つは家賃の値下げです。しかし、家賃は一度下げると値上げしにくくなります。値下げした家賃で入居者を募集すると、広告を見た既存の入居者から値下げ交渉を受けるかもしれません。
空室対策として最近流行している「ホームステージング」にも注目できます。ホームステージングとは、募集物件を内覧してもらう際に、室内に家具や電化製品、小物や観葉植物などを配置してモデルルームのように物件の魅力をアピールする方法です。
また、人気の設備を導入して入居率を上げるという方法もあります。全国賃貸住宅新聞が毎年、「アパート・マンションの人気設備ランキング」を発表しています。単身者向け、ファミリー向けに分けてランキング化していますので、物件に合わせて導入できる設備があれば検討するのもよいでしょう。
もう1つ、不動産会社を変えるという方法もあります。入居者募集が適切に行われていないと感じたら、思い切って変えてみることにより、空室改善につながるかもしれません。
アパートの建て替えを決めたら、まず費用相場を調べることが必要です。アパートの建て替えには、建設費用以外にも、さまざまな費用がかかります。資金計画を立てるためには、トータルの費用を把握しておく必要があります。
アパートを建て替えるには、古い建物を解体しなければなりません。解体費用の目安は、木造で坪4~5万円、軽量鉄骨造で坪6~7万円、鉄筋コンクリート造で坪7~8万円です。これは上屋のみの解体費用ですので、地階がある建物であれば費用はさらに拡大します。周囲に建物が密集しており、解体に時間がかかる場合は負担が増える可能性があります。
解体費用は物件がある現場の状況によっても異なります。解体工事は騒音規制法によって作業が制限されます。閑静な住宅街であればより騒音が少ない解体工法が必要になるため、費用や期間も多くかかります。
ほかにも隣接する建物との距離が近い場合、慎重に工事を進めるので費用は割高になります。また、道路の状況によっては、交通誘導の警備員を多く配置しなければならないため、解体費用が高くなるなど、ケースによってさまざまです。
新築アパート建設費用は、国土交通省の「平成30年建築着工統計」によると、木造で1坪約56万円、鉄骨造で約76万円、鉄筋コンクリート造で約75万円となっています。
たとえば、1DK30㎡戸数10戸のアパートの場合、総面積は300㎡(約90坪)です。木造アパートの建設費用は、90坪×56万円=5,040万円となります。ほかの2つの構造で建てると、7,000万円近い金額になるので、立て替える前に入念な資金計画を作成する必要があります。
建設費に含まれない費用もいろいろあります。おもなものに、外構工事費、登記費用、固定資産税、ローン保証料、火災保険料、設計料などがあります。
外構工事とは、家の外側の工事のことをいいます。塀(フェンス)、門柱・門扉、アプローチ部分、駐車場・カーポート、庭や植栽、ウッドデッキなどが外構にあたります。建物本体以外の工事と考えればわかりやすいかもしれません。工事費は門柱・門扉の設置で30万円程度~、駐輪場で50万円程度~、外構工事一式では200万円程度~などとされており、ネットで各施工業者の価格を調べたり、見積もりを取ることができます。
外構工事は本体と違い建物の性能とは関係ないので、DIYで仕上げるという手もあります。砂利を敷く、芝生を張る、ウッドデッキを作るといった内容であれば自分で行うことは十分に可能と思われます。住み始めてからでもできるのが強みです。
大規模改修ではなく建て替えの場合は、入居者への立ち退き費用が発生します。法律上、立ち退きの成立には入居者の合意が必要と定められています。立ち退きを要請する際は、「財産上の給付」と「正当の事由」が必要です。そのため、大家さんの都合で立ち退きを要求する場合は、立ち退き料を支払うのが一般的です。
立退料の相場は、家賃6カ月分といわれています。戸数が多ければ、かなりの金額になると思われます。正当な事由に関しては、「古いアパートを建て替えるため」という理由に加え、立ち退き期限の1年から6カ月前の間に通知する必要があります。
アパートの建て替えでは、金融機関からアパートローンなどによって融資を受けます。ローンを利用する場合は自己資金(頭金)があれば融資がとおりやすくなります。自己資金の目安は建設費の10~30%程度といわれていますので、5,000万円の建設費用であれば最低500万円は用意したほうがよいでしょう。
政府系金融機関の日本政策金融公庫から融資を受けるという方法もあります。民間の金融機関よりも金利が安く、長期で借りられるので利用するのもよいでしょう。固定金利である点も安心できます。ただし、借入の上限が4,800万円(女性・若者・高齢者の場合は、7,200万円)と定められています。
また、借入期間が10年または15年のため、民間金融機関のアパートローンのように30年ローンは組むことができません。そこで、頭金のみを日本政策金融公庫から借りるという方法もあります。民間金融機関から5,000万円融資を受けるのに、1,000万円程度頭金を用意できれば、融資がよりとおりやすくなるでしょう。民間金融機関と政府系金融機関を上手く使い分けることで安定したアパート経営を行うことが期待できます。
アパートを建て替えるメリットとデメリットは以下のようなことが考えられます。
アパートを建て替える1つめのメリットは、キャッシュフローがよくなることです。アパートの建設費用は、法定耐用年数に応じて毎年減価償却費として計上することができます。計上しただけ利益を減らせるので節税になります。
しかし、法定耐用年数が終了すると次の年からは減価償却費用がなくなり、税金が増えるためキャッシュフローが悪化します。そこで法定耐用年数経過後に建て替えを行って、再度毎年減価償却費を計上できる状況にすればキャッシュフローを改善することができます。
2つめのメリットは、相続税評価額を下げられることです。賃貸物件の土地・建物の評価額は、「賃貸割合」によって違いがあります。これは、貸家建付地の価額が、「路線価評価額×(1-借地権割合×借家権割合×入居率)」で算出されるからです。50%空室よりも満室のほうが、控除割合が多くなるので評価額は低くなります。これは空室だと賃貸していると認められないためです。建て替えた結果空室が埋まれば、相続税評価額が下がるため節税になります。同じ物件で空室率50%と満室の場合で計算すると以下のようになります。
【計算例】
建物の固定資産税評価額3,500万円、路線価評価額5,000万円、借地権割合65%、借家権割合30%
・空室率50%の場合:5,000万円×(1-0.65×0.3×0.5)=4,512万5,000円
・満室の場合:5,000万円×(1-0.65×0.3×1)=4,025万円
満室と空室50%では貸家建付地の価額に487万5,000円もの差が生じます。建て替えて満室になれば相続税の節税メリットにもつながるのです。
3つめは建て替え前のローンを完済している場合は、立て替える際に組むローンの審査がとおりやすくなることです。同じ金融機関に借りるのであれば、すでに1度完済した実績は大きな信用になります。
4つめは集客が楽になることです。物件が古くなると追い炊き機能がない、エアコンに除湿機能が付いていないなど、生活様式に合わない部分がでてきます。そうなると、募集時に家賃、敷金、礼金を下げざるを得なくなります。建て替えれば最新の設備を導入でき、新築に変わることで清潔感を求める入居者を集めやすくなります。
そしてもう1つは修繕費を減らせることです。新築になったことで、当分の間修繕費が発生することはなくなります。
アパートを建て替えるデメリットの1つめは、先に紹介したように入居者と立ち退き交渉をしなければならないことです。立ち退き料の支払いも必要になりますが、金融機関には立ち退き料を融資するためのローンがありません。全額自己資金で用意しなければなりませんので、前もって積み立てておく必要があります。
2つめは、かなり古いアパートの場合、建てたときの建築基準法と現行の同法が異なっている場合があることです。そのような物件は「既存不適格建築物」と呼ばれます。旧法と現行の建築基準法を照らし合わせて建て替えた場合、建て替え後の物件が以前の物件より小さくなってしまうケースがあります。
アパートを建て替える際には、費用の面以外にも注意すべき点があります。おもなポイントとして、以下の4つが挙げられます。
最も注意すべきポイントは、入居者の立ち退き問題です。入居者が立ち退くまでに1年以上かかる場合があるといわれています。半年前から通知し、入居者が了解していたとしても、全員が期限までに立ち退くとは限りません。転居先が決まらない入居者もいるでしょう。立ち退きが遅れれば、最悪の場合完成時期にも影響が出ます。
上記のような理由から、アパートを建て替える際は、立ち退きも含めた長期計画を立てる必要があります。立ち退きは6カ月前に通知することが基本ですが、通知してただ退去を待つだけではありません。入居者が困らないように、転居先を紹介しなければなりません。
とくに重要なのが、高齢の入居者がいる場合です。高齢で収入が少なければ物件を探すことも難しいでしょう。そのようなケースでは、家賃保証会社が入っている物件を紹介するとスムーズに入居できる可能性があります。
近隣への周知は必ず行う必要があります。建て替える際は、多少の騒音はどうしても発生します。工事中は歩道に警備員が立って、近隣住民の通行に影響が出る場合もあるでしょう。建て替えのスケジュールが決ったら早めに近隣に通知して協力を得ることが大事です。
挨拶回りは施工業者も行うはずですが、大家も立場上施主として挨拶したほうが、より好印象を与えるでしょう。手土産は洗剤やタオルなどの粗品を渡すのが一般的です。挨拶する範囲は、両隣の家と裏の家が基本ですが、ほかに迷惑がかかりそうと思える家があれば挨拶しておいたほうが無難です。
工事が始まってトラブルになる原因は、騒音や振動、埃、粉塵、害虫の移動などです。害虫は、解体する前の段階で殺虫駆除しておけばトラブルを防ぐことができます。その他のトラブルは行政に苦情が行って面倒なことになる場合もあるので、施主としても気がついた点があれば施工業者に申し入れを行ったほうがよいでしょう。
最後に、アパートの完成時期について考えてみましょう。理想としては完成してすぐに満室になることです。そのためには、アパート入居の繁忙期前に完成するように計画を立てることが大事です。たとえば、最も住み替えの需要が多くなる1~3月に合わせて前年12月までに完成していれば、1月には入居募集の広告活動を展開することができます。
では、アパートの建て替えにはどれくらいの総費用がかかるのかまとめておきましょう。
▽【モデルケース】1DK30㎡戸数10戸、木造アパート、総面積は300㎡(約90坪)、家賃5万円
費目 | 金額 | 計算方法 |
解体費 | 450万円 | 坪5万円×90坪 |
建設費 | 5,040万円 | 坪56万円×90坪 |
外構工事費 | 190万円 | アパートの外構工事一式 |
設計料 | 504万円 | 5,040万円×10% |
立ち退き料 | 300万円 | 家賃5万円×6カ月分×10戸 |
合計 | 6,484万円 |
※金額は一例であり、施工会社や物件によって異なります。
建物に関する費用のみで約6,500万円かかります。消費税、登記費用等の諸経費は含んでいませんので、総費用は数百万円さらに上積みして計算する必要があります。
ここまで、アパート建て替えのタイミングと建て替えにかかる費用や手順についてみてきました。費用に関しては、本体建設費だけでなく、さまざまな費用がかかることがわかりました。アパート経営のような大きな事業では、資金計画を長期的な視点で作成する必要があります。1戸ずつピンポイントで購入・売却ができる区分所有マンションとは経営の仕方が異なる点に注意が必要です。
アパート経営で一番心配なのが空室リスクです。新しくしたから100%入居者が埋まるとは限りません。スタートから満室にするなら、需要が多い不動産の繁忙期に合わせて完成させることが大事です。
最初に建てたアパートへの投資は、ローンの支払いと減価償却が完了した時点で成功といえます。建て替えて心機一転アパート経営に励み、事業発展のために再スタートを切るのも有意義といえるのではないでしょうか。