金融機関で住宅ローンなどを組んでお金を借りる時に、土地や建物に担保権を設定することがあります。担保権とは、貸したお金が返済されない時、回収するために金融機関側が設定する権利で、今回のテーマとなる抵当権や根抵当権もこの担保権の一種です。本記事では根抵当権について解説しますので、ぜひ賃貸経営を行う際の参考にしてみてください。
【監修者】弁護士 森田 雅也
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
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目次
抵当権・根抵当権とは、お金を借りる際に、土地や建物などの不動産に設定する権利のことです。万が一、お金を借りている人の返済が滞ってしまったら、担保としている不動産の売却金で返済することになります。
では根抵当権と抵当権は何が違うかというと、根抵当権には「極度額」があります。極度額とは根抵当権によって担保される債権の上限額のことで、極度額の範囲内ならば何度でも返済したり借り入れを行ったりできるという特徴があります。極度額には、元本だけでなく、確定した債務に対する利息や損害賠償金の担保も含まれるので、実際の貸し出し上限は極度額よりも少なくなることが一般的です。
なお、土地や建物に設定しているのが抵当権の場合は、債務が完済されれば抹消することができますが、いっぽうの根抵当権の場合は債務が完済されてもまた新たに借り入れができるため、債権者・債務者の合意がなければ抹消(※)することはできません。そういう意味で、根抵当権のことを「根っこの付いた抵当権」と呼ぶ人も存在します。
※根抵当権の抹消については後半の章で解説します。
根抵当権のメリットは、設定登記費用が節約できることと、借り入れのたびに新たに抵当権の設定手続きをする手間が省けることです。
仮に根抵当権ではなく抵当権を設定する場合、複数回に渡って融資を受けるとなると、その度に抵当権を設定したり、返済終了したら抵当権を抹消したりする手間がかかります。根抵当権は極度額の範囲内ならばそれらの手続きを省くことができます。
通常、抵当権の設定にかかる費用は登録免許税と司法書士への報酬の2つです。抵当権の設定にかかる登録免許税は借入額の0.4%、司法書士への報酬は10万円前後(2回目以降はそれよりも安くなる可能性あり、依頼する司法書士によって多少幅あり)が相場だと考えられています。いっぽう、根抵当権の場合は借入額が常に変動しますので、登録免許税は極度額の0.4%となります。
では、抵当権を設定した場合と根抵当権を設定した場合の費用の違いをシミュレーションしてみましょう。
このシミュレーションのケースでは合計で20万円の差となりましたが、借り入れを繰り返す回数が多ければ多いほどに費用の差は大きくなります。そのため、たとえば事業資金の借り入れをするなど、継続的に資金調達をする必要があるケースだと根抵当権のメリットは大きくなるといえます。
抵当権ではなく根抵当権が設定される具体的なケースとしては、前述したように事業資金を継続的に融資してもらう場合や、リバースモーゲージ、注文住宅など、借り入れが複数回に渡る場合です。
まず、事業資金などの融資で根抵当権が設定されるケースとは、企業や経営者が所有する不動産などに設定して資金調達する場合に利用されます。事業の資金は継続的に発生するため必要となる融資額は増減しますが、そのたびに抵当権を設定していたのでは費用がかさむうえ機動的な資金調達ができません。根抵当権を設定しておく場合、極度額の範囲内であれば一旦債務がなくなった後も新たに借り入れをしやすいため、事業資金の借り入れの際には根抵当権が多く利用されます。
続いてリバースモーゲージとは、自宅を担保にして融資を受け、債務者が死亡した後に自宅を遺族が売却することによって借入金を返済することです。通常のローンとは違い、借り入れたお金を最後にまとめて返すことから、「リバース(逆)」「モーゲージ(抵当、担保)」という名前がついています。自宅の資産価値を現金化して老後資金に利用しながら自宅に住み続けることができるため、余裕を持ちながら老後の暮らしを送れる選択肢のひとつとして注目されています。このリバースモーゲージも借り入れ金額は必要に応じて増減するため、根抵当権が利用されるケースは多く見られます。
注文住宅で根抵当権を設定する場合とは、たとえば着手金・中間金・完成時などと別のタイミングで何度かに分けて支払いをするようなケースや、土地の購入と建物の着工時期がずれるケースなどが該当します。
根抵当権は、債務者が債務を弁済できない場合に、債権者が不動産の価値から債権を回収するための手段です。そのため、債務の弁済が滞ったら、最終的に不動産の差押え・競売により不動産を換金し、債権の回収を行うことになります。
ただし、差押え・競売は債権者の最終手段であり、延滞したからといって直ちに実行されるものではありません。金融機関の一般的な対応としては、以下の流れがとられます。
延滞から差押えの申し立てまでは3カ月~6カ月程度が一般的です。
簡単な違いについては前述のとおりですが、ここではさらに詳しく抵当権と根抵当権の違いを整理していきます。
抵当権 | 根抵当権 | |
---|---|---|
債務の額……➀ | 抵当権設定時に決まる | 変動する |
登記費用 | 借り入れのたびに必要 | 初回のみ必要 |
連帯債務者……② | 抵当権設定登記に記載できる | 根抵当権設定登記に記載できない |
付従性……③ | あり | なし |
随伴性……④ | あり | なし |
➀債務の額
抵当権とは、特定の債務について債務者の返済が滞ったときに備え、不動産を担保にして、他の債権者に対して優先的に弁済を受けることのできる権利です。いっぽうの根抵当権とは、継続的な取引関係から生じる債権を担保するため、一定の限度額を設けて将来生じる債権をその範囲内で担保する権利です。したがって、債務の額は抵当権においては設定時に確定しているのに対して、根抵当権は常に変動するという違いがあります。
②連帯債務者
抵当権は固定の借入額や返済期間に対して設定されるため、抵当権設定登記に連帯債務者の記載をすることが可能です。これに対して、根抵当権は、問題となる債務について実際に連帯するかどうかは元本が確定し、具体的な担保債権が特定されないと分からないので、根抵当権設定登記に「連帯債務者」との記載はできません。複数の債務者が連帯債務者となる場合であっても、根抵当権設定登記には、各人を「債務者」として記載する必要があります。
③付従性(ふじゅうせい)
➀でも説明したとおり、抵当権は借入額や返済期間が定められた特定の債務に対して設定されます。そのため、対応する債務が弁済されれば抵当権は消滅します。これを「抵当権には付従性がある」といいます。
それに対し、根抵当権は、借入返済を繰り返すような場合に、個々の債務とは対応せず限度額の範囲内で設定される担保です。そのため、個々の債務が返済されても根抵当権は消滅しません。これが「根抵当権には付従性がない」といわれる所以です。
④随伴性(ずいはんせい)
お金の貸主である債権者が、借金の返済を受ける権利を第三者に譲渡すると、その債権を担保するために設定されていた抵当権もまた、第三者へと移転することになります。これを「抵当権には随伴性がある」といいます。いっぽう、根抵当権には随伴性がありません。債権が譲渡されても根抵当権は譲受人には移転せず、根抵当権は債権者にとどまります。
一般的な住宅ローンのように借り入れを繰り返さないケースでは、抵当権のほうを設定するケースが多くなります。それに対し、事業資金の借り入れのように借り入れ・返済を繰り返す場合には、抵当権の設定だと借り入れの都度、契約・登記を行う必要があり、結果的に手間とコストがかさむため根抵当権の設定が便利だといえます。
以上のことから、抵当権は一度きりの債権を担保するのに適しており、根抵当権は発生しては消滅を繰り返す多数の債権を担保するのに適しているということが分かります。
根抵当権の付いた不動産を相続するには、➀根抵当権を設定したまま相続する、②根抵当権を外して相続する、③相続しないという3つの方法があります。
相続人が相続後も継続的に根抵当権を活用して借り入れを行う場合、根抵当権を設定したまま不動産を相続することができます。相続人が事業を承継する場合など、継続的に資金が必要な場合などに適しています。
この方法をとる場合、【1】根抵当権不動産の相続、【2】被相続人が負担していた債務の相続、【3】根抵当権設定債務者の地位の相続について決定し、手続きを行う必要があります。
【1】根抵当権不動産の相続
遺産分割協議によって不動産の新たな所有者を決定し、根抵当権を設定している不動産の所有権の相続登記を行います。
【2】被相続人が負担していた債務の相続
相続債務は、原則として各相続人に法定相続分に応じて承継されます。遺産分割協議によって特定の相続人に承継させるには債権者の承諾が必要です。債務を不動産の相続人に集約する場合、他の相続人が一旦承継した債務の債務引受の手続きが必要になります。そのうえさらに根抵当権債務者が変更になるため、その変更登記も必要です。
【3】根抵当権設定債務者の地位の相続
根抵当権は相続開始時点の債務だけでなく、相続人が相続後に負担する債務も担保すると考えられています。そのため、相続後に根抵当権を活用して借入を継続的に行う相続人がこの地位(指定債務者)を承継する必要があり、根抵当権不動産の相続人と根抵当権者の合意によって指定債務者にした旨の登記が必要です。なお、この手続きは相続開始後6カ月以内に行われなければなりません。
根抵当権を外して相続したほうがよいケースとしては、相続後に事業資金などを継続的に借り入れする必要がない場合や、相続した不動産の売却を考えている場合などです。
相続開始の時点で債務が完済されており、根抵当権が担保すべき債務が存在しないのであれば、不動産を相続した後に根抵当権抹消の手続きを行うことができます。この抹消手続きには特段の期限は設けられておらず、時間的な制約はありません。
また、相続開始時点で根抵当権が担保すべき債務は残っているものの、相続後、根抵当権を特に利用する必要性がない場合には、根抵当権の変更登記を行わないことで通常の抵当権として相続することができます。
なお、根抵当権の変更登記は相続開始後6カ月以内に行う必要があります。変更登記が行われないと、根抵当権が担保する債務は相続時点の債務に確定し、通常の抵当権へと変更されるからです(これを「根抵当権の元本が確定する」といいます)。そのため、相続した債務を弁済した後、根抵当権の抹消手続きを行うようにします。
相続財産の中に根抵当権の付いた不動産が含まれている場合、そもそもこの不動産を相続しないという選択肢もあります。相続手続きには相続放棄という方法があり、根抵当権のついた不動産であっても相続を放棄することができます。
ただし、相続放棄は相続財産の全てが対象であり、一部の財産のみの相続を放棄することはできません。そのため、被相続人の財産には何が含まれるのかという全体をできる限り正確に把握して、相続を放棄するか否かを判断しなくてはなりません。また、注意点として、この相続放棄の手続きは相続開始から3カ月以内という制限があります。期限を過ぎると「単純承認」したとみなされ、通常の相続手続きがなされることになります。
相続開始後3カ月以内という短い期間に必ずしも全ての相続財産を把握できるとは限りません。その際にはプラスの相続財産の範囲内でのみ負債を相続する「限定承認」という相続の方法を選択することが可能です。ただし、この限定承認も3カ月以内に行わなければなりませんので、相続開始後は速やかに判断することが求められます。また、限定承認は相続人全員で行う必要があるため、相続人のうち1人でも反対する者がいる場合は、限定承認をすることができません。
根抵当権を外して相続したほうが良いケースに該当する場合、根抵当権を抹消する手続きが必要です。繰り返しますが、抵当権は債務が完済されれば消滅しますが、根抵当権は債務を完済した後も繰り返し借り入れができるため、金融機関との合意がない限りは消滅しません。ここでは、抹消手続きの費用・必要書類・手続きの流れを説明します。
根抵当権を抹消するためには、主に以下の費用が発生します。
上記の他、根抵当権が抹消されているかを確認したい場合には、登記事項証明書の申請料金として窓口は600円、オンラインは500円がかかります。閲覧のみであれば登記情報提供サービスを利用することもできます。
根抵当権を抹消するには債権者(金融機関など)の合意が必要となるため、債権者の合意を証する書類など、多数の書類を用意する必要があります。
※金融機関から送付される書類例
書類の種類 | 確認点など |
---|---|
登記原因証明情報(解除証書・放棄証書など) | 解除日の確認が必要 |
抵当権設定契約書(登記済証)または登記識別情報 | 所有者や所有者の住所に変更がないか確認し、変更があれば変更手続きが必要 |
金融機関の資格証明書など、会社法人等番号の分かる書類 | 会社等法人番号の記入のために必要となり、添付の必要はない。しかし、会社等法人番号の記入に代えて添付する際には、資格証明書の一部(代表者事項証明書など)は、有効期限が3カ月となっているものもあるので、必要書類の有効期限には注意が必要 |
委任状(不動産所有者と抵当権者双方) | 抹消登記申請を司法書士へ依頼する際には、不動産所有者と金融機関などの抵当権者の委任状が必要 |
上記の他、必要なものとしては、根抵当権抹消登記申請書、本人確認書類、認印があります。
根抵当権抹消を行う前準備として、まず金融機関に借り入れた金額の残積を確認することが必要です。残積がわかったら、それをもとに金融機関と交渉することになります。債務よりも不動産の売却額のほうが大きいならば不動産を売却し、その売却益をもとに債務を完済して抹消登記を行うことになります。逆に、債務よりも不動産の売却額のほうが小さい場合は任意売却などを検討します。
金融機関との交渉がまとまり、根抵当権抹消の合意ができたら、次は「元本確定」の手続きに入ります。元本確定とは、それまで極度額の範囲内でできていた融資をやめ、これまでに借り入れた額・返済する額・いつまでに返済するのかを明らかにすることです。根抵当権を元本確定すると抵当権と同じ扱いになり、それ以降は新たに融資を受けることはできなくなります。
残積を完済したあとは、根抵当権の抹消登記を行います。先ほど紹介した書類が金融機関から郵送されてきますので、これらの書類へ記入後、法務局へ提出することで抹消手続きが完了します。書類への記入は専門的な知識が求められるため、司法書士などへ相談することがおすすめです。
資金調達の方法のひとつとして、抵当権と根抵当権の違いについて解説しました。賃貸オーナーが事業用資金の融資を受ける際、繰り返し借り入れを行う可能性があるならば、根抵当権を設定するほうが時間と費用のコストがかからないといえます。
ただし、債務が完済されれば抵当権は当然に消滅するのに対して、根抵当権の抹消には複雑な手続きが必要であるため、司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。借り入れが一度きりになる場合には抵当権のほうが適していると考えられますが、メリット・デメリットを総合的に判断するようにしましょう。
【監修者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。
経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所
著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)
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かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。