2021.10.25
不動産投資

セットバックとは?基本と目的、幅の決まり方をイラスト解説

セットバック付きの土地はそのぶん安く売りだされる傾向があるため、新たに土地を購入するにあたり、セットバックとはなにか、どういうデメリットがあるのかについて、興味のあるオーナーは多いのではないでしょうか?本記事ではセットバックについて解説をしますので、ぜひ土地を購入する際の参考にしてみてください。

【監修者】弁護士 森田 雅也
【著者】水沢 ひろみ

 

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「セットバック」とは?

古い街だと目につくことが多いのが、車が1台通るのがやっとというほどに狭い道路です。こういった道路の建物を建て替えする場合、現在の法律に従って道路の幅を4m以上確保できるようにセットバック(後退)させなくてはなりません。

建築基準法43条によると、建物を建築するには、建築基準法上の道路に2m以上接している土地であることが必要とされています。これを「接道義務」といいます。建築基準法上の道路とは、原則的には4m以上(区域によっては6m以上)の幅員(横の長さ)のある道路をさします。

ところが、例外的に4mに満たなくても建築基準法上の道路として扱われるケースがあります。上で述べた「狭い道路」のように、建築基準法の施行前からある道路で、特定行政庁の指定を受けたものは建築基準法上の道路として扱われます。これは、建築基準法が新たに施行されたからといって、すでに建っている建物すべてを取り壊し、法律に従って建て直すことは現実的ではないからです。

しかし、建築基準法の施行前からある道路に新たに建物を建てたり、既存の建物を建て替えたりする場合には、たとえ自分の土地であっても道路の幅員を4m確保するために敷地をそのぶん後退させなくてはなりません。これを「セットバック」といいます。

ちなみに、こういった幅4m未満の道路は、建築基準法42条2項に規定があることから「2項道路」や「みなし道路」と呼ばれ、このような道路に面する土地は不動産広告などで「要セットバック」等と表記されます。

セットバックの目的

このようなセットバックは、なぜ必要とされるのでしょうか?

建築基準法は、住環境や建物の安全性を守るために作られた法律です。自分の敷地に家を建てるのだから自由に建てることに問題はないように感じますが、もし各自が周辺の環境を無視して自由に家を建てれば、全体としての町並みは無秩序になってしまうだけでなく、翻ってそこに住む自分の不利益にもなりうるでしょう。

また、人が安全に住むために最低限の安全性の基準を定め、基準に満たない建物の建築が許されていないからこそ、私たちは安心してその建物を利用することができます。そういう意味で、建築基準法は私たちの生活を守るために必要な法律だといえるのです。

その中に、防災・防犯上の理由からセットバックについての規定があります。

建築基準法が施行される以前は、幅員が4mに満たない道路が数多くありました。しかし、救急車などの緊急車両が問題なく入れること、対向車が通り過ぎることができることなどを考慮すると、幅員は4mを確保することが望ましいとされました。

この規定により敷地面積が狭くなることから、不都合と考える人もいるかもしれません。しかし、セットバックの規定は公共の利益のために設けられたものですので、きちんとセットバックをすること=自分の土地の価値を守ることにつながる、と考えることができるのです。

注意点1:セットバックの拒否は不可能

2項道路(幅4m未満の道路)に面している建物を建て替える際には、必ずセットバックを行う必要がありますので、拒否することはできません。先ほども述べたように、セットバックは建築基準法上、住環境の安全性保持の観点から必要とされているものであるためです。

また、建物を新たに建てる場合であっても、「建築確認」という、その建物が建築基準法の規定を満たしているかを調べるための申請をしなくてはなりません。セットバックが必要な場合には、セットバックをしなければ建築確認はおりません。建築確認を取らず違法に建物を建てると違法建築物となり、建物の撤去を求められる可能性があります。

注意点2:建築だけでなく門や塀、擁壁の設置もNG

先述のとおり、セットバックによって後退した部分は道路として扱われますので、建築ができないのにくわえ、門や塀、擁壁(ようへき)も設置をすることはできません。

注意点3:セットバック部分は「敷地面積」の対象にはならない

セットバック部分は「敷地面積」の対象にはなりません。そのため、容積率、建蔽率など、敷地面積に対してどのくらいの大きさの建物を建てられるか試算する場合においては、セットバック部分は換算しないで計算します。

建蔽率とは敷地面積に対してどれだけの建坪の家が建てられるかの割合のこと、容積率とは敷地面積に対する延べ床面積の割合のことです。建蔽率は30%~80%、容積率は50%~500%と、どの用途地域に属するかといった周辺環境により大きく幅があります。

セットバックが必要な土地に新たに建物を建てる場合には、セットバックで狭くなった敷地面積に対してこれらを計算しますので、建蔽率や容積率の制限の厳しい場所だと自分の希望する建物の建築が難しくなる可能性があります

セットバックする幅はどのように決まる?

建築基準法42条2項では、道路の中心線から2mの線をその道路の境界とみなす、と規定されています。具体的な幅の決め方には2パターンあり、土地の向かいが宅地の場合と、川や崖などの場合とで異なります。

向かいが宅地の場合

道路の反対側に建物があるなど、向かい側が宅地の場合には、セットバックの義務は両方の宅地の所有者が平等に負担することになります。4mの幅員の確保が必要であることから、それぞれが2mに満たない分を負担します。たとえば、3m幅の道路であれば、その中心線から2mまでを道路とすると、それぞれが0.5mずつセットバックすることが必要です。

向かいが川の場合

道路の反対側が川や崖など、向かい側に道路を拡張させることができない場合には、セットバックはこちら側だけで負担しなくてはなりません。具体的には、向かい側の道路の境界線から4mの位置まで敷地を後退させる必要があります。上記と同じ3m幅の道路であれば、足りない分の1mを全部負担するということです。

建築基準法上の道路に接していなくても建設が可能な場合

建物を建築するには建築基準法上の道路に2m以上接していることが原則であると先述しましたが、例外的にこの規制が緩和されるケースがあります。建築基準法第43条第2項第2号で、一定の場合には43条1項の規定は適用されないとしています。

たとえば、周りに公園などのような広い敷地を有するなど、国土交通省令で定める基準に適合しており、特定行政庁が交通上・安全上・防火上などで問題ないと認め、建築審査会の同意を得て許可した場合などです。これは、建築基準法は公共の安全性を守るために規定されているものであることから、規制の必要性が乏しい場合にまで厳格に適用する必要性がない、と考えられるためです。

必ずしもセットバック済の物件ばかりではない

新たに土地を購入する際、セットバックが済んでおらず、「要セットバック」「私道負担」と条件が付いている土地に出くわす可能性があります。この場合、繰り返しとなりますが、最終的に活用できる敷地面積は狭まることを覚えておきましょう。

また、セットバック済みとされている物件の中にも、実はセットバックが行われていないケース、セットバックが行われているものの不完全なものが混じっているケースがあります。セットバック済とされている物件を購入する際には、正確にセットバックが済んでいるかを慎重に調べてから購入する必要があります。

土地の売買を仲介する不動会社には重要事項を説明する義務がありますが、土地の購入者にとって敷地のセットバックが正確に済んでいるかどうかは大変重要な事項です。そのため、セットバックについては不動産会社へ正確な説明を求めることを忘れないようにしましょう。

セットバックにかかる費用は誰が払う?

セットバックが必要な土地を購入した場合、セットバックを行うための費用が発生することがあります。セットバックのための道路の測量費用、舗装の費用などが必要となり、数十万円ほどかかることが一般的です。敷地や道路の状態によって具体的な金額は大きく異なりますが、状況によっては更に金額が膨らむケースもあります。

これらの費用は敷地の所有者の負担となることが一般的であるいっぽう、自治体によっては助成の制度を設けているケースもあります。そのため、セットバックが必要な土地を購入する際には、自治体や不動産会社へセットバック部分の費用負担について事前に確認しておくことが大切です。

セットバック済物件の運用について

建築基準法に従ってセットバック済の物件があるとすると、このセットバック部分はどのような取り扱いになるのでしょうか?

セットバック部分に固定資産税はかかる?

セットバック部分は敷地面積対象外であり、「道路」扱いとなりますので、固定資産税や都市計画税はかからないのが原則です。ただし、セットバック部分の道路を使用するのが土地の所有者のみである場合には、公共性がないために固定資産税が非課税とは認められないケースも存在します。

また、仮に固定資産税などが非課税となる場合、自治体への非課税申請を忘れずに行う必要があり、そのまま何もしなくても非課税になるわけではないので注意が必要です。固定資産税の管轄は市町村となっていますので、各市町村の役所へ問い合わせて非課税の申請手続きを行いましょう。

セットバック部分の買い上げは自治体次第

セットバック部分は、所有権は持っていても土地の利用が制限されている状態ですので、そのまま所有し続けていてもメリットはほぼありません。そのため、それならば自治体に買い上げてもらって手放してしまいたい、という人も中には存在します。しかし、セットバック部分を買い上げてもらえるのか、またその処理の方法はどうなるのかは、自治体の判断によって異なります。

寄付として受け付けて助成金を支給するという方法をとる自治体は比較的多いですが、中には寄付自体を受け付けていない自治体もあります。また、助成金が支給されるとしても金額は土地の価格と比較するとかなり低いケースがほとんどです。詳しくは管轄の自治体の役所にある建築課へ問い合わせてみてください。

セットバック部分に駐車はできない

先に述べたように、セットバックは防犯上や防災上の理由から建築基準法上で道路とすると決められたものであるため、駐車場として使うことはできません。

新たに土地を購入するときはセットバックについてよく確認しよう

セットバックは公共の利益のために建築基準法で定められているものですので、拒否することはできません。自分の敷地であっても利用を制限され敷地面積に入れることができないので、元々の敷地面積が狭い場合には目的にかなう建物を建てることができない可能性があります。しかし、そのぶん土地の価値が低く見積もられ、安く売りに出るケースもあります。セットバックを正しく理解していれば、売りに出ている土地の価格が割安なのか、逆に割高なのかの判断に役立つといえるでしょう。

また、他の人にとって価値のない土地であっても、自分の用途にとっては利用価値があるケースもあります。たとえば、隣地を買い取る場合であれば狭さの問題は克服でき、自分の敷地の価値を高めることができます。こういった場合だと、セットバック付きの土地の安さは大きなメリットとなるでしょう。セットバックの仕組みを正しく理解し、不動産を取得・運用する際の参考にすることをおすすめします。

【監修者】森田 雅也

東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

 

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