不動産に関する情報を探していると、「再建築不可」という、極端に安い物件を見つけることがあります。再建築不可物件には大きなデメリットもあるものの、相場よりかなり安い価格で入手できる可能性があることから、活用の仕方によっては大きな利益を生み出す可能性を秘めています。
今回は、再建築不可物件を購入するメリット・デメリット、活用法について解説していきます。本文中でも述べますが、一旦購入すると売却が難しい物件でもありますので、再建築不可物件を購入する際には、その特徴について理解した上で慎重に判断することをおすすめします。
【著者】水沢 ひろみ
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周辺の相場より極端に安い価格で売りに出されている物件の場合、借地権付きの物件であったり、再建築不可物件であったりすることがほとんどです。借地権付き物件の場合、土地は自分のものになるわけではないので、価格が安いのは理解しやすいかもしれません。
いっぽうの再建築不可物件は、土地の所有権が手に入るのにもかかわらず、自分の土地に自由に再建築ができない物件となります。そのため、これは一体どういうことなのか、どのような利用の仕方ができるのか、戸惑っている人もいるかもしれません。
再建築不可物件とは、建築基準法に定められている接道義務に違反しているため、現在建っている建物を取り壊した後は、新たに建物を建築することが認められていないという物件のことです。
建築基準法では、都市計画区域と準都市計画区域に建物を建てる場合には、「幅員が4m以上(区域によっては6m以上)の道路に2m以上接している土地でなければならない」という決まりがあり、これを一般に接道義務と呼びます(建築基準法43条)。この接道義務を満たしていない再建築不可物件のケースは、大きくわけて3つあります。
では、どうしてこのような再建築不可物件が存在するのでしょうか?それに関しては、次章で解説していきます。
すでに建物が建っているのにも関わらず、再建築ができないというのは不合理に感じるかもしれません。実は、このような再建築不可物件が存在する理由は、規制する法律が制定された時期に関係しています。
建築基準法が制定されたのは1950年、都市計画法が制定されたのは1968年です。それ以前は建物を建てる際に接道に関する規制はなかったため、1950年以前に建てられた建物には建築基準法の接道義務を満たしていないものが多く存在しています。
そして接道義務が設けられた背景には、緊急時に消防車や救急車などの救急車両が問題なく通行できるだけの道路の幅を確保するため、という要請がありました。それ以前の日本ではまだ自動車の普及がそれほど進んでいなかったため、道路の幅は2.7m以上あれば十分と考えられていたのです。
しかし、救急車両などが救助のために出入りし、車両同士がすれ違えるようにするには道路の幅員が4mは必要となります。そこで、1950年以降に建物を建てる際には、接道義務を満たすことが求められるようになりました。
敷地が接する道路の幅員が4mに満たなくても、再建築可能というケースがあります。建築基準法42条2項に規定があることから「2項道路」や「みなし道路」と呼ばれるケースで、
は、建築基準法上の道路としてみなされます。
ただし、この「2項道路」に面する敷地に建物を建てる際には、道路の中心線から2mの位置に道路境界線があるとみなして、建ぺい率や容積率を計算する必要があり、そのぶん敷地が狭くなります。これを「セットバック」と呼び、セットバック後の道路は4mの幅員が確保できることになります。
接道義務を果たしていない建物の割合はどの程度存在するのでしょうか?以下の表は、総務省のデータを基に、「敷地が道路に接していない土地」と「道路の幅員が2m未満の土地」、「2m以上の幅員の道路に面している土地」の戸数と割合を調べた結果です。
これによると、接道義務を果たしていない土地(「2項道路」を含む)は全国で4,219,100戸あり、全体の6.8%を占めていることが分かります。物件100戸の中に6~7戸は再建築不可の可能性のある物件が含まれるということになりますから、不動産投資をしようと検討している人は、再建築不可物件についての正確な知識を身につけておく必要があるといえるでしょう。
【敷地に面している道路の幅員別住宅数】
土地の状況 | 戸数(戸) | 割合(%) |
---|---|---|
接道していない土地 | 1,295,500 | 2.1 |
面する道路の幅員2m未満 | 2,923,600 | 4.7 |
上記以外の土地 | 58,188,300 | 93.2 |
合計 | 62,407,400 | 100 |
参考:総務省統計局 – 平成30年住宅・土地統計調査 追加集計
再建築不可物件は、周辺の土地の相場よりも安い価格で物件が手に入る可能性があり魅力的に映ることもありますが、当然ながらさまざまなリスクも抱えています。ここでは、再建築不可物件を購入するメリット・デメリットについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
再建築不可物件を購入するメリットは、主に以下の3点です。
再建築不可物件の魅力は、安い価格で手に入れることができる点です。老朽化しても建て替えができないというのは大きなリスクですから、それでも購入したいという購入希望者はかなり限られます。土地の価格は需要と供給で決まりますから、極端に需要の少ない再建築不可物件の価格は当然安くなり、相場の半額以下で取引されることも多く、中には1割程度で取引されるケースもあります。
物件は所有しているだけで固定資産税などの税金がかかりますし、放置していればそれだけ物件が傷んでいきますから、「処分できるならばいくらでもいいから処分したい」と考える所有者も存在します。このように所有者が売り急いでいる物件は、さらに安い価格で手に入れられる可能性もあるでしょう。
また、再建築不可物件の資産価値は低く評価されるため、固定資産税などの税金の負担が軽いという点もあります。自宅として利用したり収益物件として活用したりする目的で所有するのであれば、ランニングコストを抑えられることはメリットと考えられるでしょう。
さらに、隣接する土地の所有者が再建築不可物件を購入する場合には、両方の土地を合わせることで敷地を広げられたり、再建築が可能な土地として利用できるようになったりする可能性があります。接道要件を満たしている隣地の所有者にとっては、再建築不可物件を安く購入できることは大きなメリットとなるケースが多いと考えられます。
いっぽう、再建築不可物件を購入するデメリットは、以下のように複数あります。
建物を取り壊した後は、文字通り再建築することができません。簡単なリフォームや修繕は可能ですが、建築確認が必要となるような大規模なリフォームはできませんので、再建築不可物件の利用法は大幅に制限されることになります。万が一、地震などの災害で建物が崩壊しても、新たに建て直すことはできないので、購入後は災害時のリスクも背負うことになります。
また、再建築不可物件のほとんどは築年数がかなり古いことから、大幅な補修が必要なケースが多くなります。修繕箇所が多く補修費が高額になることに加えて、接道に問題がある物件であることから、工事用の資材の搬入が困難というケースも考えられます。建物の耐震性に問題がある物件も多くなりますが、土地が狭く地質調査を行うことが難しいために耐震補強工事が進めることができない、という可能性も考えなくてはなりません。
さらに、再建築不可物件を購入する際には住宅ローンを利用することはほぼできないため、自己資金で購入しなくてはなりません。なぜならば、金融機関はローンの貸し出しにあたり物件の担保としての価値を重視しますが、再建築不可物件は担保としての価値が非常に低いからです。
そして、このように制限が多く、さらに自己資金で購入するしかない物件を購入したいと考える人が少ないことも考慮しなくてはなりません。一旦購入した物件を手放したいと考えても、再建築不可物件の売却は困難ですから、売却できたとしてもかなり安い価格に買いたたかれる可能性があるでしょう。
多くのリスクを覚悟しなくてはならない再建築不可物件ではありますが、もしも購入すると決めた場合にどういった活用法があるのか知りたい人へ向けて、再建築不可物件の活用方法を紹介します。
活用の仕方によっては、大きなメリットをもたらす物件になる可能性があります。不動産投資初心者には少々難易度が高いといわれることもありますが、有効な活用法を知ることで、再建築不可物件のメリットを最大限に活かしてみてはいかがでしょうか?
再建築不可物件の活用方法として、「リフォームやリノベーションをして住む」という方法が頭に浮かぶ人もいるでしょう。しかし、再建築不可物件のリフォームやリノベーションには制限があるため、注意が必要です。では、再建築不可物件でも可能となるリフォームの範囲とは、どの程度なのでしょうか?
再建築不可物件の場合、以下の3つは認められていません(建築基準法3条3項)。
最後の「大規模な修繕や模様替え」ですが、そもそも修繕とは、建物の経年劣化した部位を、同じ材料や形状、サイズのものを使って原状回復をすること(建築基準法2条14号)です。また、模様替えとは、建築物の構造や規模、機能の同一性を損なわない程度に改造すること(建築基準法2条15号)とされています。
修繕や模様替えが「大規模」と判断されるケースとは、主要構造部の半分以上を修繕や模様替えする場合であり、この主要構造部とは、壁・柱・床・はり・屋根・階段などを指します。
ですから、主要構造部の半分以上の修繕や模様替えに該当しない程度のリフォームであれば再建築不可物件であっても行うことができる、ということです。反対に、大掛かりなリフォームやリノベーションは大規模な修繕や模様替えに該当する恐れがあるため、難しいといえるでしょう。
建物が建築基準法6条1項4号に定める条件に該当する場合には、現在は建築確認の審査の省略が可能とされています。これを指して一般的に「4号建築物の特例」と呼びます。
この4号建築物に該当するには、木造建築であれば以下のような条件に当てはまればよいとされており、再建築不可物件の多くはこの4号建築物に該当します。
また、木造以外の場合には、平屋で延床面積200㎡以下であれば4号建築物となります。
ここで注意したいのが、建築確認の審査の省略が可能ということと、建築基準法に従わなくてもよいということは、別のことである点です。
4号建築物の大規模修繕、模様替えは建築確認申請が不要とされています(建築基準法6条1項4号)。これを誤解して、4号建築物であれば大規模修繕、模様替えを自由にできると解釈している業者も存在するようですが、建築確認申請をしなくてよいとしても、建築基準法には当然従わなくてはなりません。
ここで建築確認申請が免除されるのは、建築基準法上問題なくリフォームできるという前提のケースです。再建築不可物件では、建築確認が必要な規模の修繕や模様替えは建築基準法上認められていませんから、4号建築物であり建築確認が免除されていたとしても、これに該当するようなリフォームを行うことはそもそもできません。
建築基準法は、安心して暮らせる建物を建てるために最低限の基準が定められているものです。
しかし、4号建築物の特例によって建築確認の審査の省略が可能とされていることで、建築業者による耐震偽装工事などの被害がこれまで問題とされてきました。そこで、2022年4月に4号建築物の特例を縮小する法案が可決され、2025年に施行される見込みになっています。これによって、今まで4号建築物とされ、建築確認の審査の省略が可能とされていた取り扱いが、2025年以降には認められなくなると予想されています。
このように、再建築不可物件に関しては「大規模な修繕や模様替え」はもともと認められていませんので、4号建築物の特例の議論とは本来別の問題なのですが、混同しているケースが多く見受けられるため、リフォームを検討する際には注意が必要です。
再建築不可物件を有効に活用するために、建築可能の物件にするという方法も存在します。簡単ではありませんが、状況に応じて可能な方法があれば試す価値はあるでしょう。
隣地を購入する、もしくは隣地の一部を借地することで接道義務が果たせるようになるのであれば、建築可能の物件にすることが可能です。ただしそのためには、隣地が売りに出されている、隣地の所有者が売却を検討している、隣地に借地できるだけの広さがあるなど、特定の条件がそろっていなくてはなりません。隣地の所有者が申し出を受け入れてくれるかどうかも不確実ですので、隣地所有者との間の人間関係も関わってくるでしょう。
接道義務を満たすには、建築基準法で認められた道路に2m以上接することが必要とされますが、この「建築基準法で認められた道路」というのは、42条1項に1号から5号まで定められているものです。
その中の5号は「位置指定道路」と呼ばれる道路に関する規定で、「私人が築造した私道で、特定行政庁がその位置を指定したもの」は、建築基準法上の道路とみなされるとされています。ですから、行政庁に対して位置指定道路の申請を行い、再建築不可物件の敷地に位置指定道路を作ることができれば、建築可能の物件になるということです。
ただし、この位置指定道路の申請を行うには、関係する周囲の土地所有者同士で位置指定道路のためにそれぞれの土地の一部を出し合うことを合意する必要があり、さらに以下の要件を満たさなくてはなりません。
詳しくは建築基準法施行令第144条第4項に定められていますが、周囲の土地所有者や行政と相談しながら進めていくことが不可欠です。
以前の建築基準法43条には但し書きがあり、そこに規定されていた方法であることから、一般に「43条但し書き申請」と呼ばれている方法があります。現在、43条には但し書きは無くなり、43条2項に1号と2号のケースに分けられて規定されています。
以前に定められていた43条但し書きの内容は、以下の場合には接道義務が緩和され、再建築が可能になるというものでした。
②については、
という要件を満たす必要があります。
これに対して平成30年に建築基準法の一部が改正され、43条但し書きがなくなり、代わって2項が加えられたことで、以下のように変更されました。上記に当てはまる物件の中で、さらに一定の条件を満たす場合には、特定行政庁の認定を受けることで足り、建築審査会の同意が不要とされたのです。
建築審査会の同意を不要とする要件とは、
となります(43条第2項第1号)。
上記以外の物件では、これまでどおり建築審査会の同意が必要とされています(43条第2項第2号)。
ただし、建築審査会の審査の判断基準は自治体によって異なり、制限が緩和されているケースもありますし、反対に条件が加えられているケースもあります。具体的には物件所在地を管轄する役所に相談してみることをおすすめします。
戸建て賃貸やシェアハウスなど、収益物件として活用するのであれば再建築不可という条件がマイナスにならないケースもあるでしょう。賃貸物件の入居者にとって、部屋の状況に特に問題がなければ、再建築不可の土地に建っているということは何の影響もないからです。
安く購入して浮いた分の費用をリフォームにかけ、部屋を魅力的にすることに成功すれば、収益物件として活用することが可能となるでしょう。
ただし先ほども説明したように、増改築や主要構造部分の過半を超えるような大規模なリフォームを行うことはできないため、もともとの間取りを大きく変えるような変更はできません。収益物件として活用することを目的に購入を検討するのであれば、そういったポイントにも十分注意をした上で判断することをおすすめします。
この記事では、再建築不可物件の特徴やメリット・デメリット、再建築不可物件の活用法に関して解説しました。再建築不可物件であっても、ある程度のリフォームは可能ですが、大規模な補修はできないなど、可能なリフォームの範囲は限られています。
そのうえ、再建築不可物件は老朽化している物件がほとんどで、売却が困難であることも覚悟しなくてはなりませんので、最終的な出口戦略も考えた上で投資判断をすることが重要です。
また、物件を選ぶ際には、外見の状況だけではなく、電気やガス、水道などがどこを通っているのか、雨水などの排水の処理はどうなっているのかなど、購入後にトラブルが起こらないよう事前に確認することも大切なポイントです。
初心者には難しいといわれる再建築不可物件への投資ですが、充分な知識を身につけて戦略を練ることで、利益獲得のチャンスとなる可能性もあるでしょう。ぜひ本記事を参考にしてみてください。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。