不動産投資のシミュレーション方法を理解し、物件の収益性を自分で判断できるようになることは、綿密なシミュレーションが不可欠な不動産投資には重要なことです。本記事では、不動産投資のシミュレーションを正確に行うために必要な情報、シミュレーションの流れなどを解説します。これから不動産投資を始めるにあたって、利回りなどを自分でシミュレーションして物件を見極めたいと考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
収支の把握は不動産購入前にかかっているといえます。利益をうむ物件かどうかを見極めるためにもシミュレーションが不可欠です。物件購入前に綿密なシミュレーションをしておくことで、事業計画書の収支計画に具体性を持たせることができ、資金調達をスムーズに進めることにもつながります。
不動産投資は長期に及ぶことが一般的ですので、投資の効果として将来を予測するには不確実性が伴います。また、さまざまな要因が影響し相互に関連することから、結果の予測はさらに複雑になります。
など、さまざまな選択肢の中から自分にとって最適な投資パターンを見つける必要があります。その際、いろいろなパターンのシミュレーションを行うことで、自分の求める投資スタイルを発見し、リスク軽減の方法を見出すための一助となる効果が期待できます。
反対に、ピンとくる物件に出会っても、収支計画などのシミュレーションを行ってみると、収益性やキャッシュフローなどの問題点に気が付くケースもあるかもしれません。シミュレーションを行うことで、収益性が把握できると共にリスクも明らかになるため、キャッシュフローの流れを理解するのにも役立ちます。
できるかぎり正確な現状を把握することで、それに基づいた投資計画を立てることができ、必要な対策を適時に講じることができます。たとえば、
など、不動産投資では物件購入後の活用法まで考慮して物件を取得することが重要となり、詳細なシミュレーションは不可欠といえます。
具体的にシミュレーションを行う方法は以下2つです。
➀自分で計算式に当てはめて行う
②ツール・アプリを使う
シミュレーションの仕方は少し間違えると大きく見誤ってしまう可能性があるため、自分で計算するのは怖い、また、大変という人は②の方法を選ぶとよいでしょう。ツールによって特徴はさまざまで、簡単なものから専門知識が必要なものまで種類が豊富にあります。
②のツール・アプリを使う方法には、ダウンロードして使えるエクセルやクラウド型などが多数ありますので、自分にとって使いやすいツールを探してみてください。
区分マンション投資、一棟物件投資など、投資対象によっても必要な情報は異なりますが、以下項目はシミュレーションする上で最低限必要となるものです。できるかぎり正確なシミュレーションの結果を入手したいのであれば、使用するデータも詳細で現実に近いものを使用する必要があります。
購入金額は、不動産投資の収益性を把握する上でも、融資可能額の検討をする上でも、基礎となる重要な要素です。シミュレーションを行う際の購入金額には、物件の本体価格だけではなく、以下に説明する物件購入にかかる諸費用も含めて計算する必要があります。
不動産を購入するには、仲介手数料、登記費用、不動産取得税、固定資産税や都市計画税の日割り額など、本体価格以外にも諸費用が発生します。これらは不動産を取得するためにかかる費用ですので、購入金額に含めてシミュレーションします。
仲介手数料は不動産の価格 × 3% + 6万円が上限となります。登記費用は課税標準額に税率を乗じて計算します(※)。不動産取得税は固定資産税評価額の4%となります。固定資産税と都市計画税は、日割り計算して売主と買主で分担することが一般的です。
物件購入後、不動産には固定資産税や都市計画税が毎年発生します。固定資産税の額は、原則として課税標準額に1.4%を乗じて計算します。課税標準額は一般的には物件の取引価格の7割前後となり、住宅用地の特例措置などに該当すればさらに減額されます。
参考:東京都主税局 – 固定資産税・都市計画税(土地・家屋)
不動産投資には、修繕費など各種の諸経費が発生します。さらに、区分マンション投資であれば管理費、共益費、修繕積立金など、一棟物件投資であれば共用部分の清掃費用などが発生しますので、これらの費用も見積もってシミュレーションする必要があります。特に、修繕に関わる費用は物件が古くなるほど割合が高くなることも考慮に入れて見積もることがポイントです。家賃収入の10~20%程度が目安となります。
周辺の家賃相場や需要のある間取り、周辺で売買されている物件の相場などを調べることで、賃料や空室リスク、将来の売却予想価格などの参考にすることが可能となります。それによって賃貸期間中の収益率や売却による損益の把握ができるとともに、そのエリアにおける需要に即した有効な投資戦略を検討するための情報としても役立つでしょう。
一棟投資の場合は、売却時に得られるキャピタルゲインを考慮することも重要です。建物の評価額が落ちたとしても土地の資産価値は残るので、需要のあるエリアに建つ物件を購入すればキャピタルゲインが得られる可能性もあるからです。
土地の価格は景気の影響や、周辺地域の需給関係の変動などによる影響を受けるため、都心からの距離が近い・駅から近い・周辺施設などが充実している物件は資産価値が高くなります。こういった需要のある土地であれば、極端な資産価値の下落の可能性は低くなると考えられます。
一方で、接道状況によっては再築不可の土地もあります。再築不可物件の場合は土地の評価額が極端に低くなるため利回りが高くなりがちですが、将来の売却が困難になることが予想されます。将来の出口戦略まで考えて投資する必要があるため、不動産投資初心者には難易度が高くなります。
一般的に投資対象として望ましいのは、資産価値の下落しにくい土地、売却したいタイミングで売却可能な流動性の高い土地といえます。
RC造なのか、軽量鉄骨造なのか、木造なのかといった建物の構造や広さなどの違いによって、耐用年数や修繕費の額は大きく異なります。専有面積が広ければリフォームにかかる費用も高額になってきます。必要な費用を合理的に見積もるためには、建物の構造や広さなどの正確な情報は不可欠です。
投資用不動産の購入を検討する際には、レントロールで各部屋の間取り、入居期間、家賃などを確認することが重要です。レントロールとは、物件の間取り・入居期間・家賃などの賃貸借に関わる詳細な情報が記載されている表で、これに基づいて物件の収益性を判断する参考とすることができます。
レントロールを確認することで物件の入居状況が分かるので、空室率の予測に役立てることができるとともに、今後の家賃の下落幅を予測するための資料ともなります。一棟投資だけでなく、区分投資の場合もレントロールで収益性を確認することが可能です。
適切な修繕が行われていたかによって建物の耐用年数は大きく差が開きますので、過去の修繕履歴の把握は大変重要となります。また、大規模修繕には高額な費用が必要となるため、次の大規模修繕の時期を把握し、そのぶんの費用を見積もる必要があることからも、修繕履歴の確認はしっかり行うことが求められます。
不動産投資のシミュレーションを行うには、まず物件のデータを集める必要があります。次に利用可能な融資先を選択し、これらのデータを基にシミュレーションを行います。
築年数、修繕歴など、主に前章で紹介した項目について、購入を検討している物件のデータを集めます。
融資を利用して物件の購入を検討している場合、都市銀行、地方銀行、信用金庫・信用組合、商工中金、日本政策金融金庫などから、自分が利用可能な融資先を選択します。いずれの融資先においても、返済期間・返済額・トータルの支払額・金利は必ずチェックしておく必要があります。
融資は、物件の耐用年数や個人の属性などによって、借り入れ可能額が変わることを考慮する必要があります。返済期間が長くなればトータルの利息の支払い額は増えますが、毎月の支払額は少なくなりますのでキャッシュフローに余裕ができます。可能であれば返済期間はできるだけ長めに設定するほうが無難といえます。
また、頭金をどれだけ入れられるかによって融資の条件が変わることもあります。頭金が多ければトータルのキャッシュフローに影響しますので、資金に余裕があるならば頭金を多めに入れることはメリットがあります。ただし、不動産投資は予期せぬ事象で一時的に資金が必要になるケースも多々ありますので、その際に資金がショートしないためには、ある程度の手元資金は常に用意しておく必要があります。
不動産投資は長期に及ぶため、金利の額がわずかに変動するだけでも大きな影響を受けますので、固定金利を選択するか変動金利にするかによっても収益性に大きな影響を与えます。将来的な金利の動きなども予測しながらどちらを選択するかを考える必要があります。
これらの条件を総合的に検討して、自分にとって有利な融資先を選択しましょう。
これらの必要なデータが揃ったら、実際にシミュレーションしてみましょう。
まずはローン返済額を算出し、その後に毎月の収支を出して物件の収益性を検討します。1年間の家賃収入から年間の諸経費を差し引くと年間の収益が計算できます。そこから融資の返済額を差し引いて、キャッシュフローを算出します。空室率も想定した家賃収入を用いることで、物件の実質的な利回りが計算できます。
さまざまなケースを想定してシミュレーションすることで、「どのようなケースでどのようなリスクが生じる可能性があるか」「その際にどのような対応が可能か」を事前に検討することができ、この作業を慎重に行うことでリスクをコントロールすることにもつながっていきます。
不動産投資を行うには事前のシミュレーションは不可欠ですが、詳細なシミュレーションを行うには、できるだけ正確なデータの入手とともに目的に合った使いやすいシミュレーションツールが有効です。そこで、データを調べる際に参考になるサイトや手軽に不動産投資シミュレーションができるツールを紹介していきます。
全国地価マップは、固定資産税路線価、相続税路線価、地価公示価格、都道府県地価調査価格を調べることができるサイトです。相続税路線価は公示価格の8割、固定資産税路線価は7割前後となっています。アパートやマンション、戸建てなどの一棟物件投資の際の土地価格を調べるために役立ちます。
LIFULL HOME’S 賃貸経営は、地域ごとの空室率や家賃相場、賃貸入居者が希望する間取り、家賃、駅徒歩などの情報を得られるサイトです。購入を検討している物件と比較することで、投資後の空室率や家賃収入の想定に役立てることができます。
手軽にシミュレーションできるソフトとしておすすめなのは、東急リバブルの収益シミュレーションです。入力が必要な項目は、物件価格・購入諸経費・自己資金・借入金額・借入期間・金利・年間予定賃料収入・稼働率・諸経費率で、これらの項目を入力すると年間収入や年間手取収入、実質利回りなどが自動的に計算されます。
収益性を判断するために最低限必要な情報のみで、物件の収益性を比較することができるため、このシミュレーションツールは「とりあえず大まかな情報を入手したい」というケースに便利といえます。
最後に紹介するのは、IRRによる不動産投資収益計算Excelシート(Lite版)です。
この「IRR」とは、内部収益率の略称です。内部収益率とは、「将来的に発生するキャッシュフローを現在価値に換算した合計額」と「投資額」が等しくなるような割引率をいいます。つまり、IRRは単に投資額に対する収益性を測るのみではなく、投資額の回収期間も考慮し投資の効率性を測ることが可能な指標となります。
投資の世界では、同じ収益を上げるにしてもできるかぎり短い期間で収益を上げるほうが有利です。回収した資金は再び新たな投資の機会に利用することで、さらに収益獲得に貢献できるからです。ですから、同じ金額のキャッシュフローを得る期間が短いほど、IRRは高い数値を示します。
このIRRによる不動産投資収益計算Excelシートでは、IRRだけでなく購入から売却までのキャッシュフローの詳細な動きや、売却後に手元に残る金額など詳細な情報を得ることができます。専門的な用語が多く使われているため、会計知識が必要な部分はあるものの、基本的な利回りだけでなくより網羅的にシミュレーションしたい人におすすめのツールです。
この他にも、無料シミュレーションサイト、シミュレーションできるエクセルシートはいくつかありますので、ぜひご自身でも探してみて目的に合うツールを見つけてみてください。
▶IRRによる不動産投資収益計算Excelシート(Lite版) ※Vectorサイトへ飛びます
不動産投資には綿密なシミュレーションが欠かせません。シミュレーションツールを用いると、物件が投資対象として適切であるかを判断する際の判断基準になるだけでなく、売却のタイミングや売却金額による収益率の変化を予測して投資戦略を練るための助けにもなります。
ただし、シミュレーションはあくまでも入力したデータに基づく予測であることを忘れないでください。入力するデータの値が変わればシミュレーションの結果は大きく異なりますし、将来の事情が予測の範囲を外れればシミュレーション外の結果が生じます。
不動産投資では長期に及んで資金を回収していくことになるので、予測外の事象が生じることも想定しておく必要があります。その際の対応も含め複数のパターンでシミュレーションを行うことは、リスクを下げることにつながります。できるかぎり正確なデータを基にシミュレーションツールを上手に使いこなし、不動産投資を成功させる可能性を高めていきましょう。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。