投資用物件を探していると、「オーナーチェンジ物件」という表記が目に入ることがあります。すでに入居者がいる状態で購入することになるオーナーチェンジ物件には、どのようなメリットとデメリット、注意点があるのでしょうか。本記事を参考にオーナーチェンジ物件の特徴をよく理解して、投資用物件を購入する際に役立ててみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
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目次
オーナーチェンジ物件とは、元のオーナーと入居者との間で結ばれた賃貸借契約を引き継いだ状態で売買される物件のことを指します。区分マンションや戸建て物件の場合には、いわゆる「空室物件」(入居者がいない物件)のケースもありますが、中古のアパートやマンション一棟投資では、ほとんどのケースでオーナーチェンジ物件に該当することになります。
賃貸物件の入居者は、賃貸契約にあたって物件の所有者との間で賃貸借契約を結びますが、契約とは本来であれば契約の当事者間でのみ効果を主張できるはずのものです。
しかし、建物の賃借権の場合には賃借人の権利を守る必要性があるため、建物の引渡しがあれば、賃貸借契約を結んだ後に物件を取得したオーナーに対しても賃借人は契約の効果を主張できるとされています。
そのため、すでに入居者がいる物件の売買の場合には、賃借人Aと元のオーナーBとの間で結ばれた賃貸借契約は物件を買い受けたオーナーCにそのまま引き継がれ、賃借人Aと新しいオーナーCとの間で契約が成立することになります。
従来の契約の内容はそのままで、形式上はオーナーだけが変わることになるので、オーナーチェンジ物件と呼ばれているのです。
従来の契約の内容が新しいオーナーに引き継がれますので、新しいオーナーは賃借人に対して契約に定められた権利と義務を負うことになります。新しいオーナーが賃借人に対して負う義務として、主なものには以下の3つがあります。
反対に、新しいオーナーは賃借人に対して以下のような権利を引き継ぐことができます。
ですから、オーナーチェンジ物件の取得に際しては、賃借人と元のオーナーとの契約関係についてしっかり把握しておく必要があるといえるでしょう。
入居者がおり、継続的に賃貸収入が入ってくる物件を、なぜ売主は売却するのでしょうか?オーナーチェンジ物件になる理由が気になる人という人は少なくないでしょう。
売主が物件を売却する理由としては、主に以下の3つに分けられます。
➀まとまった資金を用意する必要がある
②他にもっと有利な投資対象がある
③赤字が続いており、収益性改善の見込みがない
オーナーチェンジ物件を購入する際の判断において、売主の売却理由は非常に重要な要素と考えられます。この点については、本記事後半の「オーナーチェンジ物件を購入する際に確認したいこと」章の5番目、「物件が売り出されている理由を確認する」にて詳しく解説します。
オーナーチェンジ物件では、先述のようにすでに入居者がいるという状況から多くのメリットを得られる可能性があります。本章ではオーナーチェンジ物件の主なメリットとして以下4点を紹介します。
前のオーナーと入居者との賃貸借契約をそのまま引き継ぐことになるオーナーチェンジ物件では、物件購入後すぐに家賃を得ることができるという大きなメリットがあります。
投資用不動産の購入後は、家賃収入が入らなくても、管理費・修繕積立金・固定資産税などの経費やローンの支払いなど、継続的にキャッシュアウトが発生します。物件が空室だとキャッシュアウトだけが続くので、早めに入居者を見つけないと全体の収益性はどんどん悪化していきます。
その点、すぐに家賃を得ることができるオーナーチェンジ物件は、ある程度安心して賃貸経営を始められる物件であるといえます。
不動産投資においては物件の選定が重要であることはいうまでもありませんが、できるだけ早く入居者を見つけることもそれと同じ程度に重要です。オーナーチェンジ物件の場合、満室とまではいかなくても、すでにある程度の入居者がいる状態で不動産投資をはじめられるので、それにかかる入居者募集の負担を省けます。
一般的に入居者募集には、不動産会社に依頼して広告宣伝を行ったり、新たな入居者のために部屋のリフォームを行ったりする手間にくわえ、賃貸契約に関わる仲介手数料も費用負担として発生します。それでも入居者が決まらない場合には、フリーレント期間を設けるなどの対策も考えていく必要があります。
不動産投資をはじめる際にこのような入居者募集の手間が必要ないのは、実は大きなメリットといえるのです。
オーナーチェンジ物件であるがゆえに、物件を安く購入できる可能性もあります。投資目的で購入するのであれば入居者がいることはメリットが大きいと考えられますが、オーナー自らで使用できない点がデメリットとなる場合があり、物件の価格が安く設定されるケースもあるからです。
また、物件価格の評価方法のひとつに「直接還元法」があります。この評価法では、家賃が低く設定されていると物件価格の評価が低く算定される、とされています。ですから、家賃が相場より安く設定されている物件の場合には、割安で購入できる可能性があるのもオーナーチェンジ物件のメリットと考えられます。
オーナーチェンジ物件は、投資計画を立てやすく、融資が通りやすいのも特徴です。すでに入居者がいるため適切な家賃設定の程度を把握しやすいこと、維持管理のコストや空室率などの過去のデータをふまえて将来の収支計画を立てやすいことから、金融機関からの融資は下りやすい傾向にあります。
その反面、空室が多く過去の収益性が低い物件では金融機関の評価が低くなるので、融資を受けるのは難しくなるケースもあります。オーナーチェンジ物件の購入を検討する際には、融資の通りやすさという点を考慮するなら、過去の収益性の高さも重要なポイントになることを覚えておきましょう。
メリットが大きいオーナーチェンジ物件の購入ですが、すでに入居者がいるということがデメリットにつながる場面もあるので注意が必要です。ここでは、主なデメリットや注意点として以下4点を紹介しますので、よく理解した上で慎重に判断することをおすすめします。
オーナーチェンジ物件にはすでに入居者がいるため、室内の状況を確認することが難しいのはデメリットといえます。室内の構造や設備の状態を目視で確認できず、今後の修繕やリフォームの必要性を予測することが困難であるためです。
さらに、引き渡された建物に欠陥があった際、売主が負担する「契約不適合責任による損害賠償請求」を行える期間が入居者の入居期間中に過ぎていたために、売主の責任を問えなくなる可能性もあります。
オーナーチェンジ物件では、現行の契約を変更できないという点にも注意が必要です。すでに入居している入居者に対しては、今までと同様の条件で部屋を貸し出さなくてはなりません。
相場よりも安い賃料設定や、ペットの飼育やリフォーム可など、現行の契約の条件を変更したい場合には、現在の入居者との契約が終了した後、新たな入居者と契約を結ぶ際に変更することになります。
オーナーチェンジ物件で入居者の情報を確認する際には、入居者が退去してしまう可能性についても考えておく必要があります。
レントロールで各入居者の賃料を比べたときに、ある入居者の入居期間が特に長いケースがあるとします。この入居者は入居時の賃料で更新し続けているために、ほかの入居者に比べ賃料が割高です。これは一見するとオーナー側に有利に映るかもしれませんが、この入居者はより割安な部屋に転居してしまう可能性がありますし、その後の入居者の賃料は大幅に下がる可能性も高くなります。
加えて、新入学や転勤のタイミングで退去する可能性のある入居者も、チェックしておかなくてはなりません。
なお、入居率が高く収益性の高い物件は需要が大きいため、「サクラ」と呼ばれるみせかけの入居者を用意して、満室であるかのように見せかけて売買する業者がいることにも注意してください。物件の現状と入居者の入居条件を慎重に照らし合わせて、不審な点があればより詳細なチェックをすることをおすすめします。
入居者の情報を把握することが難しいのも、オーナーチェンジ物件の大きなデメリットといえます。オーナーが新たに入居者の募集をするのであれば、どのような人を入居させるかといった入居者の属性はオーナーが判断して決められます。しかし、オーナーチェンジ物件ではすでに入居中の人の詳しい情報を今から把握するのは困難です。
入居者に長く入居してもらうことは非常に大切ですが、家賃を滞納したり、近隣トラブルを起こしたりするような入居者であれば、その後のトラブル解決にかかる労力を考えるとできる限り避けたいものです。
中には、前のオーナーが部屋を埋めることを優先するあまりに入居者の審査の基準を甘くしていたといったケースもあるので、入居者の情報が得られないことは大きなリスクにつながる可能性があるのも考えておく必要があるでしょう。
メリットもデメリットもあるオーナーチェンジ物件ですが、購入する際に確認したいこととして以下5点を説明していきます。
オーナーチェンジ物件では、前のオーナーと入居者との契約内容をそのまま引き継ぐことはすでに説明した通りです。そのため、物件の購入に際しては、入居者との契約内容を慎重に調べることが重要です。
特にこのような点などについてしっかり確認することは、将来発生するトラブルを減らすことにつながるといえます。
オーナーチェンジ物件の購入の際には、過去の経営状況を調べることも忘れてはならないポイントです。過去の経営状況を調べることで、将来的な収支の予測をある程度立てることが可能になるからです。
マンションの場合には、不動産会社から重要事項調査報告書を入手することで、管理や修繕の内容に関する情報や、管理費や修繕積立金などに滞納がないかという情報を確認できます。過去に滞納があれば物件を引き継いだオーナーが責任を引き継がなくてはならないため、予想外のキャッシュアウトが生じることになります。
大規模修繕が適切に行われているかを調べることは、物件の資産価値を維持するために重要な事項であるのはいうまでもありません。もしもこれから大規模修繕が行われる予定であれば、追加的に修繕費用を負担する可能性も覚悟しておく必要があります。
中古戸建てやマンション・アパートの一棟投資の場合には、オーナーの判断で修繕やリフォームを行うことになります。適時に必要な修繕やリフォームを行っている物件は、傷みが少なく耐用年数も長くなります。
一方、外壁塗装など、一定期間ごとに必要な修繕を怠っている物件は、耐用年数が短く資産価値も低くなっており、物件購入後に多額の修繕費用がかかる可能性が高くなるので注意が必要です。過去の修繕履歴、修繕積立金についての調査をすることで、これらの出費の可能性を事前に把握しておくことが重要です。
満室の場合には部屋の内部の状況を確認することはできませんが、以下のポイントに気をつけて現地確認を行うことで、建物の状態、入居者の情報、立地や環境の情報などをある程度知ることはできます。この際、時間帯や日を変えて何回か現地へ足を運ぶと、より実態が見えてくる可能性が高くなるでしょう。
➀建物の状態
②入居者の情報
③立地や環境の情報
空いている部屋がある場合には、その部屋の状況を確認することで他の部屋の状況をある程度推測できるため、必ずチェックすることが大切です。同じ間取りの部屋であっても、過去の修繕歴によって設備の状態が異なるケースもあるので、空いている部屋は全部チェックすることをおすすめします。
オーナーチェンジ物件を購入する際には、レントロール(※)を確認することも重要です。レントロールとは、賃貸物件の賃貸借に関する情報が詳しく書かれている資料のことで、レントロールを見れば各入居者の入居時期・家賃・部屋の占有面積などが分かります。
先程述べたように、入居期間が長く古くから入居しているために賃料が割高になっているケースや、不当に高い家賃で最近入居した入居者がいるケースなど、家賃のばらつきを中心に確認することで入居者に関する情報がどの程度適正であるかを判断できます。
家賃と周辺相場を確認し、違和感があるようであれば納得できるまで原因について調べてみることも大切です。
物件を維持していれば継続的に一定の賃貸収入が入ってくるはずですから、特に大きなトラブルもなく収益性にも問題がない物件であれば、あえて物件を売りに出す必要性はないはずです。ですから、なぜ物件が売り出されているのかという理由を確認するのは、非常に重要なことです。
物件が売り出されている代表的なケースとしては、以下のような理由が考えられます。
① 相続が発生し、相続税の支払いのために売却を希望している
② 所有期間が5年を超えており長期譲渡に該当するため、譲渡所得税が安くなったタイミングで売却を検討している
③ 他の物件を購入するための資金が必要
④ 他の事業の失敗や離婚など、一時的にまとまった現金を用意する必要がある
⑤ 入居者との間に何らかのトラブルを抱えている
⑥ 立地や建物の構造、築年数など何らかの理由で空室が多く、入居率の改善が見込めない
⑦ 入居者がいても収益性が低いため、ローン返済後の収支が赤字になってしまう
①~④のような理由であれば特に大きな問題はないと考えられますが、売主が⑤~⑦のような理由で売却したいと考えているのであれば、購入には慎重になる必要があります。
ただし、現在赤字の状態であっても、経営方針を変えることで収益改善が見込めると判断できる場合には、交渉次第で安く譲り受けて収益を上げていける可能性もあるでしょう。
また、不動産会社を通じて売却の主な理由をオーナーに確認してもらうことはできても、物件自体のマイナス情報が理由である場合には、オーナーが正直に回答することは期待できないでしょう。物件が売り出されている理由を推測するには、レントロールや登記簿、修繕履歴などをチェックするとともに、現地の状況を確認して多角的な視点から考えてみる必要があります。
オーナーチェンジ物件の購入にあたり、売主がなぜ売却しようとしているのかという理由を探ることは、今後の投資判断に大きく影響する重要な要素といえるでしょう。
オーナーチェンジ物件の特徴を理解することは、物件選びの際の投資判断に役立ち、長期的に収益性の高い不動産投資を行うことにつながります。不動産投資にはまとまった資金の投入が必要であるため、得られる利益は大きくなりますが、少しの判断の誤りが大きな損失につながるリスクをはらんでいます。
リスクを押さえながら収益性の高い投資方針を選択する際の参考として、この記事を役に立ててみてください。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。