不動産の売買契約をする際に重要なのが、建物や設備に関する情報です。購入後のトラブルを防ぐためには、実際の物件の状態を知っておく必要があります。本記事では、不動産売買による「付帯設備表」と、「物件状況確認書」について解説しますので、特に不動産売買を考えている人はぜひ参考にしてください。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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目次
不動産の売買契約をする場合、さまざまな書類が必要となります。売買契約のために必要な書類はもちろんですが、物件の状態を知るために必要な書類もあります。前者の不動産の売買契約において必要な書類となるのは、「売買契約書」と「重要事項説明書」の2種類です。双方とも宅地建物取引業法(宅建業法)で定められた手続きであり、不動産売買をするときには必ず作成しなければなりません。
売買契約書とは、売買取引の対象となる不動産を、契約書に記載された金額で買主が買い受けることを定めている契約書です。不動産は高額ですので、万が一のトラブルを避けるために契約内容を書面に明記する必要があります。おもな記載内容は以下の通りです。
マンションの場合は、区分所有建物(専有部分)の面積や、敷地権の目的である土地の詳細情報などが記載されます。
また、不動産の売買契約をするためには重要事項説明書も必要です。重要事項説明書とは、契約前に必ず買主に対して交付しなければならない書面で、宅建士が対面で説明するものとなります。目的は買主の保護となり、物件に関する事項や取引条件などについて記載されています。おもな記載内容は以下の通りです。
重要事項の内容を十分に検討してから、契約交渉を行います。
ただし、これまで説明した売買契約書や重要事項説明書だけでは、実際の物件の状態はよくわかりません。この2つの書類では伝えきれない、物件設備やその状態などが明記された書類が、冒頭で紹介した「付帯設備表」と「物件状況確認書」の2つとなります。
付帯設備表には給湯器や水回り設備といった建物にある設備の状態が明記され、物件状況確認書には給排水管の状態などといった物件そのものに関する状況が明記されています。つまり、建物に関する状態はこの2つの書類を見ることで確認することができます。特に中古物件の売買を検討している人にとって重要なものとなりますので、必ず確認しましょう。
付帯設備表と物件状況確認書について、それぞれ詳しく解説します。
付帯設備表とは、「売買対象の不動産に置かれている設備には何があるのか」「故障や不具合のある箇所はないか」といった、建物にある設備の状態を買主へ知らせる書類です。
新築の場合はすべてが新しいうえ、最初から完備されているため、特に設備に関して確認することはありません。しかし、中古物件を購入するにあたって内覧をするときには、売主が住んでいる状態で買主が部屋の中を確認するケースがあります。そのため、残置物と撤去物の認識をはっきりさせるためにも付帯設備表は必要な書類となります。
給湯器や流し台などの住設機器は、少し見ただけでは故障や不具合があるのかを確認することはできません。その場ではわからなくても、後になって不具合が出てくる場合もあります。そのようなトラブルを避けるため、故障や不具合がある場合は付帯設備表にきちんとその内容について記載しておくことが必要です。
故障や不具合があることを売主が知りながら、買主にその旨を伝えないで契約をしてしまうと、売主は「契約不適合責任(2020年4月1日の民法改正前は瑕疵担保責任)」に問われ、損害賠償請求をされることがあります。
付帯設備表に記載されている項目は、大まかに分けると➀水回り、②居住空間、③玄関・窓・その他となります。それぞれの内容については下表をご覧ください。
付帯設備表に記載されている項目 | |
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➀水回り | ・キッチン設備 ・浴室設備 ・洗面設備 ・トイレ設備 ・給湯器 |
②居住空間 | ・冷暖房設備 ・床暖房設備 ・換気機 ・屋内(屋外)照明設備 ・床下収納 |
③玄関・窓・その他 | ・網戸 ・雨戸 ・障子 ・畳 ・扉 ・下駄箱 ・カーテン、カーテンレール ・テレビアンテナ ・物置 ・庭木 ・門塀 ・車庫 |
参考:沖縄県宅地建物取引業協会 – 「付帯設備表」のご記入にあたって
付帯設備表には「設備の有無」の項目欄が設けてあり、「有・無」の2つ、または「有・無・撤去」の3つのうち、いずれかにチェックを付けることになります。故障や不具合がある場合、備考欄に「作動しない」などと設備の状態を記入します。以下のような書式に記入をしていきます。
出典:沖縄県宅地建物取引業協会 – 「付帯設備表」のご記入にあたって
物件状況確認書とは、売買対象不動産がどのような状態であるか、どのような状態で買主に引き渡しをするのかを明記する書類です。中古物件の場合は一般的に経年による劣化もあるため、その状態を買主にきちんと知ってもらう必要があります。買主はその状態を了解したうえで取引をするのが通常です。
万が一、売主が事前に知りながら買主に告げず契約をした場合、こちらも買主から損害賠償を申し立てられてトラブルへと発展する場合があります。売主が瑕疵担保責任を負わないという取り決めをしていた場合でも同様です。ただし例外として、売主が事前に不具合を伝えており、買主がそれで了承して契約をした場合は、契約後に不具合が発生しても売主は責任を負うことはありません。
無用なトラブルを防ぐためにも、売主はあらかじめ知っている不具合に関しては買主に正確に伝えておくことが重要です。将来的に売主にとってメリットとなります。
なお、物件状況確認書には建物本体の瑕疵だけでなく心理的瑕疵も記入するのが一般的です。記入するのは「他殺、自死、事故死、その他原因が明らかでない死亡が発生した場合」が該当し、自然死や日常生活の中での不慮の死(自宅階段からの転落死、入浴中の転落死など)は原則として告知する必要はありません。
物件状況確認書に記載されている項目については下表にまとめましたので、参考にしてみてください。
物件状況確認書に記載する項目 | |
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雨漏り | 天井だけでなくサッシや外壁から吹き込む場合も記入する |
シロアリの被害 | 建物だけでなく敷地内の物置や庭木についても記入する |
腐食 | 木部の腐食のほか、目立つサビがある場合は記入する(特に水回り周辺) |
給排水管の故障 | 配管などの漏れ、割れ、赤サビ水、濁り、詰まりなどがあったら記入する |
建物の傾き | 建物全体だけでなく、部分的な傾きも記入する |
増改築 | 壁や柱の撤去など大規模な間取り変更を行っている場合は体力構造に関わるため、特に留意 |
火災などの被害 | ボヤ程度でも記入する |
境界・越境について | 境界線の設置状況を確認して記入する |
配管の状況 | 売買物件の配管が他人の敷地を経由しているか、他人の配管が敷地内に埋設されていないかを記入する |
地盤の沈下・軟弱など | 地盤が弱い場合、現実に沈下している場合は記入する |
敷地内残存物など | 以前の建物の基礎や浄化槽などがある場合は記入する |
土壌汚染などに関する情報 | 過去に有害物質を排出する工場などの跡地の場合は記入する |
浸水など | 過去に床上浸水・床下浸水があった場合は記入する |
近隣の建築計画 | 売買物件に影響を及ぼしそうな建築計画がある場合は記入する |
騒音・臭気・振動など | 道路・電車・飛行機・工場などが近くにある場合は記入する |
電波障害 | テレビなどの受信に障害がある場合は記入する |
周辺環境に影響を及ぼしそうな施設 | ごみ焼却施設、暴力団事務所、火葬場など一般的な観念から気になりそうな施設があったら記入する |
近隣との申し合わせ事項 | 近隣地域(町内会など)との取り決めや協定(ゴミ集積所・町内会費など) |
その他 | 心理的瑕疵や近隣トラブルなどがある場合は記入する |
参考:国土交通省 – 物件情報等報告書 記入上のご注意(P1-2)
付帯設備表と物件状況確認書の書類は売主が作成します。日頃から実際に物件を使用している人でないと、物件に関する詳細や不具合などがわからないからです。売主が各項目を記入して売買契約時に買主に渡すことになります。
重要事項説明書の説明が終わったタイミングで売主から書面を提示するのが一般的ですが、契約前にメールで送っておき、内容を買主にあらかじめ確認してもらうのもおすすめです。
作成時期については、不動産の売却を仲介会社に依頼した時点で作成できている状態が望ましいでしょう。契約日付近になって慌てて作成するのでは、いくら所有者とはいえ間違えることも考えられます。わざとではないとしても、現状では不具合がみられるものを「ない」と記入してしまうと、後々でトラブルになってしまう可能性が高くなります。
正確に記入するためには、販売活動を始めたときから設備の状態をきちんと確認しておくのが理想です。仲介会社にサポートしてもらいながら作成するのも良い方法です。
買主はこれらの書類を判断材料にして不動産の購入を決めるため、万が一、記載内容に事実と違うことを書いたり、重要事項を記載しなかったりした場合、売主は買主に損害賠償請求をされる可能性があります。付帯設備表の備考欄が空欄の場合は、その場所に不具合や故障がないとみなされるので、記入漏れにはくれぐれも気を付けなければなりません。
付帯設備には保証期間などが法律で決められているわけではありません。そのため、通常は契約書内で保証期間を定めます。売主が個人の場合だと、引き渡しを受けてから1週間以内というのが一般的です。
そのため、買主が物件の引き渡しを受けてから1週間以内に発覚した故障や不具合ならば、売主が補償することになります。引っ越し後の1週間はすぐに過ぎますので、買主は付帯設備表を受け取ったら、それをもとに隅々まで点検することが重要です。床暖房など、引っ越し時期によってはあえて使ってみないと分からないものもありますが、一通り動作確認を行ってみて不具合がないかを確認するようにしましょう。
なお、売主が不動産仲介業者やハウスメーカーの場合は、業者ごとに保証期間が定められています。
ここでは、売主・買主別による、付帯設備表の注意点について解説します。
売主側が注意する点は以下の2点です。
繰り返しとなりますが、正確な情報を書き込むために、必ず動作確認をしてから付帯設備表を作成する必要があります。できれば仲介会社と一緒にすべての設備の動作確認を行うようにすると安心です。動作確認をする箇所は、具体的には以下のようなものがあります。
また、もしも撤去するかどうかの判断に迷うときは、買主側に相談するのをおすすめします。買主から不要と言われたものについては、あらかじめきちんと撤去しておきましょう。
買主側が注意する点は以下の2点です。
上でも説明しましたが、引き渡し後に故障や不具合が発生しても、契約書に記載されている保証期間内でなければ売主に補償をしてもらうことはできません。売主が個人の場合だと保証期間は1週間以内とされることが多いため、この期間内に必ず設備の確認をするようにしましょう。
また、付帯設備表を見たときに、不要であるものが設備の欄に「有」となっている場合、撤去しようとすると買主側に費用負担が発生してしまいます。そのため、買主は契約をする前に売主へ処分を依頼しておくようにしましょう。
買主が利用できる残置物ならば問題ありませんが、不要な場合は買主側に撤去費用や片付けの手間がかかるため、しばしばトラブルのもとになるケースがあります。そのため、こういったトラブルを避けるためにも残置物は残さないことが原則です。
たとえば、残置物として残した古いタイプのエアコンがあり、それを買主が利用していたところ故障してしまった場合、修理費用をめぐってトラブルになることがあります。また、経年劣化したウッドデッキなど、見た目に問題がある場合も買主に嫌がられる原因となります。
なお、買主が残置物に同意していれば置いていくことができるものもあり、たとえば庭にある物置などはそのまま活用されることもあります。残置物を残す場合には付帯設備表に状態の詳細を明記して、合意書や覚書書を必ず作成するようにしましょう。仮にトラブルへと発展した場合は証拠となるからです。
不動産の売買契約を締結する前に、買主は付帯設備表と物件状況確認書で物件に関する状況を調べておく必要があります。また、売主側も、買主が状況に関して了承しているならば問題になりにくいですが、契約後に買主へ告げていなかった不具合が発覚した場合は大きなトラブルへと発展することがあります。売主は正確な情報を買主に知らせるようにする、買主は渡された情報をしっかり吟味することが大切です。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。