不動産投資には多額の資金が必要になるため、金融機関等から融資を受けてはじめる人がほとんどを占めるといえます。不動産投資において融資を利用することは多くのメリットがある反面、融資額が多額になるほどリスクも大きくなっていきます。
この記事では、不動産投資の融資についての解説やメリット、注意点、必要書類、利用の流れ、融資金額が決まる基準等について解説します。できるだけ有利な条件で融資を受けることで収益性を高め、不動産投資を成功に導いていきましょう。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
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目次
不動産投資の融資とは、不動産投資に必要な資金を銀行などの金融機関から借り入れることです。不動産を購入するための資金の借り入れという点で住宅ローンと混同する人も多いですが、不動産投資のための融資と住宅ローンとでは融資の性質が異なります。両者の特徴を、融資の目的や審査内容、金利、融資額に分けて以下に説明しますので、違いを理解していきましょう。
住宅ローン | 不動産投資の融資 | |
---|---|---|
融資の目的 | 契約者の居住用不動産の購入 | 賃貸用不動産の購入 |
審査内容 | ローン申込者の属性重視 | ローン申込者の属性+物件の収益性 |
金利 | 約0.4%~2% | 約2~5% |
融資額 | 年収の5~7倍程が目安 | 住宅ローンより多額の融資が可能 |
住宅ローンは、ローンの申込者自身が住むための住居の購入資金を融資することを目的としています。それに対して、不動産投資の融資は賃貸物件を購入するための資金を貸し出すことが目的です。
同じ不動産の購入費用ではありますが、購入した不動産の利用目的によって資金の回収等のリスクの大きさが異なることから、融資のための条件に違いが生じます。
ローンの融資を行う際の審査内容は、住宅ローンの申し込みでは、収入や職業、勤務先、勤続年数等、申込者の属性が重視されます。住宅ローンの返済は契約者の給与等からなされることが一般的なので、ローンの申込者に十分な返済能力があるのかを判断する必要があるからです。
しかし不動産投資の融資では、物件から得られた収益が主な返済原資となることから、申込者の属性に加えて、物件から得られる収益の利回りや、物件自体の資産価値等、事業としての収益性に重点を置いて審査されます。
住宅ローンにおいても、貸し倒れが生じた際には抵当権を設定した不動産を処分して資金の回収に充てるため、不動産の資産価値も評価の対象にはなりますが、不動産投資の融資では不動産の資産価値に対する審査の比重がより一層高くなります。
住宅ローンの金利に比べて、不動産投資ローンの金利は高くなるのが一般的です。金利の高さは資金の回収に対するリスクの高さに比例しています。不動産投資ローンの金利が高くなるのは、住宅ローンの借入額より高額になるケースが多いことや、空室リスク等、賃貸経営のリスクを反映しているからです。
また、不動産投資ローンであるか住宅ローンであるかという違いだけではなく、金融機関の方針によっても金利水準に差がありますので、融資を行っている金融機関の中でもできるだけ低い金利で融資してくれる融資先を探すことをおすすめします。
さらに、金利の種類には固定金利タイプと変動金利タイプがあります。固定金利タイプは、契約期間の金利が固定され返済総額が変わらないことから、返済計画が立てやすいのというメリットがあります。
一方、変動金利タイプは経済環境の変化に応じて金利が変動しますので、金利が安くなれば返済総額が少なくなりますが、金利が上昇すれば返済総額が増えていきます。返済計画が立てづらいというデメリットはありますが、同様の条件下では固定金利よりも低い金利が適用されるので、金利水準が変わらないのであれば有利になる可能性があります。
金利が低下傾向であれば変動タイプが、上昇傾向であれば固定タイプが有利であると考えられますが、長期的な要因を考慮して判断することが必要だといえます。
住宅ローンの融資額は年収の5~7倍程が目安になるのに対して、不動産投資の融資額は年収の7~10倍程度は可能であり、場合によっては20倍以上の額の融資も可能というケースもあります。
住宅ローンの融資では、ローンの契約者の給与等から返済されることを想定して融資額が決められます。
一方、不動産投資の融資では、契約者の給与等に加えて不動産を賃貸した収入も返済のための原資に充てることができます。多額の融資を行っても返済可能であると考えられることから、不動産投資の融資額は住宅ローンよりも高額になるのです。
本章では、不動産投資で融資を利用するメリットを解説します。ぜひ融資を利用するかどうかの判断の参考にしてみてください。
不動産の購入には多額の資金が必要となりますので、自己資金だけで投資をしなくてはならないとすると、限られた投資家しか不動産投資に参入できないという事態になることが考えられます。
ですが、不動産投資において融資を利用すると、少ない自己資金でも投資を始めることができるようになります。すでに説明したとおり、不動産投資の融資では、条件によっては年収の10倍ほど、場合によってはそれ以上の融資も可能です。自己資金が少なくても返済計画がしっかりしていれば、500万円の年収の人が5,000万円の物件に投資できる可能性があります。
また、不動産投資には空室リスク等の不確実な側面も多いので、予期せぬ事態にも対応できるように、ある程度の手持ち資金は用意しておく必要があります。融資を利用することで、手持ち資金に余裕を残せることもメリットといえるでしょう。
不動産投資で融資を利用することで、投資のスピードを速くできるというメリットもあります。
不動産投資は、投資した資金の大きさと収益が比例する傾向があります。多額の資金を投資して高額な不動産を購入すれば、それだけ多くの賃料を回収でき、ローンを返済しても多くの現金が手元に残ります。
その現金と投資した不動産を元手に、さらに融資を受けて不動産投資の規模を拡大していけば、自己資金だけで不動産投資を行っている場合と比べて不動産投資のスピードを格段に速くすることが可能になります。
不動産投資では、家賃収入を返済に充てることができるのも大きなメリットです。
融資の返済は購入した物件から得られる家賃から行えばよいので、適切な家賃の設定と無理のない返済計画を立てることができれば、月々の家賃から返済額を差し引いた残額が毎月の収入になります。うまく軌道に乗れば、お金が働いて勝手に収入を生み出してくれる仕組みを作ることができるでしょう。
不動産投資で融資を利用することには多くのメリットがあるのは事実ですが、生じるのはメリットだけではありません。
空室が続くと家賃収入を得ることができませんので、その際には家賃以外の収入や手持ちの資金から返済しなくてはなりません。もしも賃料以外に返済原資がない場合には、ローンを返済できなくなる可能性があります。
場合によっては、せっかく手に入れた物件を手放して、借金だけが残る可能性もあります。そのような事態に陥らないためには、金利と返済年数をもとに収入と支出を想定して、キャッシュの流れをシミュレーションしてみることをおすすめします。
具体的には、以下のポイントに注意して綿密な返済計画を立てる必要があります。
・一定の空室リスクを見積もる
・設備等の修繕費用等に充てるため、余裕をもって手持ち資金を用意しておく
・年数の経過と共に、家賃が減少していくことを想定して返済計画を立てる
・今後の金利上昇のリスクも返済計画に織り込む
・固定資産税等の税金が発生することも忘れない
不動産投資の融資を受ける場合、必要になる書類は多数あります。取得するために時間がかかる書類もありますので、どのような書類を準備すればよいのか事前に心得ておくと手続きをスムーズに進めることができるでしょう。
具体的には金融機関ごとに必要書類が異なりますので、申し込む融資先が決まった際に、融資の申し込みをする金融機関に問い合わせて確認してください。
物件概要書 | 物件の名称や所在地、土地建物の面積、法律上どのような規制があるか等、物件に関する概要が記載された書面のことで、不動産会社に請求すれば作成してくれます。 |
レントロール(※) | 契約日や契約期間、家賃、管理費、共益費、敷金、賃借人に関する情報等、賃貸借契約に関する情報が把握できる資料で、こちらも不動産会社が作成してくれます。 |
売買契約書 | 売買契約の当事者である売主と買主の間で交わされる書面で、物件の概要、売買代金に関する内容、引き渡しに関する内容、契約の解除や違約金に関する内容等、契約内容が記載されているものです。両者が署名・捺印することで、契約内容に同意したことになります。 |
重要事項説明書 | 宅地建物取引業法において、宅建取引士が物件に関して買主に必ず説明しなければならないと定められている、重要な事項が記載されている書面です。宅建取引士が口頭で説明を行う際に渡されるものです。 |
登記簿謄本または登記事項証明書 | 物件を特定するために必要な事項が記載された「表題部」と、物件の権利関係に関する事項が記載された「権利部」から成る、登記内容が記載されている書類です。法務局で取得できます。 |
公図 | 土地の形状や地番、道路等が確認できる図面で、法務局が管理しているものです。 |
建築確認済証 | 建物が建築基準法等の法令に従って建築されていることを証明するための書類です。 |
本人確認書類 | マイナンバーカードや運転免許証、パスポート等、顔写真付きの身分証明書が必要です。これらを持っていない場合には、複数の書類を用意して組み合わせます。 |
所得を証明する書類 | 前年分の源泉徴収票や、直近3年分の確定申告書等です。 |
納税証明書 | 給与所得以外の所得がある時には、直近3年分の納税証明書も必要です。 |
金融資産を確認できる書類 | 預貯金通帳、有価証券、生命保険証書等の写しのことで、どの程度の金融資産があるのかを確認するためのものです。 |
他の借り入れに関する書類 | 他にも借り入れがある場合には、他の借り入れに関するローン償還予定表等の提出が必要となります。 |
資格等証明書 | 宅地建物取引士等不動産関連の国家資格等を有しているのであれば、それを証明する書類を添付するとよいでしょう。 |
勤務先の会社概要等 | 現在の勤務先の概要について説明するために、自分で作成する書類です。特に決まった書式はありません。 |
団体信用生命保険申込のための書類 | ローンの契約者が残債を支払うことが不可能になるような事態に備えて、融資を受ける際に加入するのが団体信用生命保険です。必要書類は銀行側が用意します。 |
不動産投資の融資にはリスクもありますが、慎重な返済計画を立てて利用することで、大きなメリットを得ることができるのも事実です。そこで、不動産投資の融資を利用する流れについて以下で簡単に解説します。
まず、融資の申し込みに必要となる書類を、上記を参考にして準備しましょう。融資の条件はどこの金融機関も同じというわけではありません。金融機関の下調べを行い、自分の希望条件にマッチする融資条件の金融機関を探すことが必要です。
融資を希望する金融機関が定まったら、融資相談のためのアポイントを取ります。相談のための必要書類を確認して持参し、物件の概要や自分の属性、不動産投資の事業計画等について伝え、融資が可能であるのかを相談しましょう。
融資相談の結果、検討の余地があると金融機関に判断されれば、正式に金融機関の融資の審査を受けることになります。
金融機関は提出した資料を基に、融資した資金が確実に回収できるのかという回収の可能性について慎重に判断して、融資の可否を決定します。融資実行の判断には、10日から1カ月ほどかかることもあります。
融資審査に通ったら、融資手続きを行い、いよいよ不動産投資への第一歩を踏み出すことになります。
不動産投資の融資には、融資対象となる物件の収益性や資産価値が大きく影響しますが、金融機関が判断の参考にするポイントはそれだけではありません。融資を有利にするポイントとして「申込者の属性」が非常に重要となります。
申込者の属性とは、収入や資産その他、融資した資金の返済能力を判断するために必要な「申込者個人の情報」のことです。不動産投資の融資の際に重視される主なものを以下にまとめます。
職業に関する情報 | 医師や弁護士、会計士等の一定の資格を必要とする職業や公務員等は、属性が高いと判断されます。 |
勤務先に関する属性 | 会社の名称や規模、業種、勤続年数、雇用形態、担当している職種等です。上場企業勤務で正社員であれば、属性が高いと評価されるのが一般的です。 |
年収に関する情報 | 申込者の年収のほか、配偶者にも収入がある時には世帯年収も評価の対象になります。 |
資産の有無に関する情報 | 預貯金や株、そのほかに所有する不動産等、資産が多いことも返済能力が高いと評価されることになりますので、属性を高めます。 |
負債の有無に関する情報 | ほかに借り入れがある時には、借り入れの内容と残債の額、返済計画等を伝えることで、返済能力に問題がないことを理解してもらう必要があります。 |
家族構成に関する情報 | 配偶者や子供の有無等、同居している家族に関する情報や、扶養義務に関する情報等です。 |
現在の住居に関する情報 | 現在の住居は持ち家か賃貸かについてです。持ち家であれば、不動産としての評価額等に関する情報や居住年数等も参考にされます。 |
これらの属性が高ければ、より有利な条件で融資を受けられる可能性が高くなりますので、融資の条件を有利にしたい場合はこういった属性を改善することを考えてみるとよいでしょう。
ちなみに、転職して年収を上げるという方法がありますが、勤続年数が振り出しに戻ることで属性が下がる可能性があります。また、正社員からフリーランスになる場合など、年収が上がったとしても収入が不安定になる可能性があることから、属性が下がるリスクがあります。このようなことも総合的に考慮して、いかに属性を上げることができるかを考えてみる必要があります。
融資をいかに効果的に利用するかは、不動産投資の成功のカギを握る重要なポイントといえます。融資を利用した不動産投資は、少ない自己資金でも始めることでき、短期間で効率的に収益を上げることが可能であるというメリットがあります。
しかし、空室が発生して賃料が回収できなくなるリスクや、金利上昇による返済額増加のリスク等、さまざまなリスクがあることを踏まえて慎重な返済計画を立てなくてはなりません。
不動産投資の融資に関する正確な知識を身につけることは、リスクに対する有効な対策を事前に立てることにつながりますので、ぜひこの記事を参考にして後悔しない不動産投資を行ってみてはいかがでしょうか。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。