仮に同じ物件を2つ購入するとしても、その目的が違えば利用できるローンは異なります。マイホーム購入のための利用なら「住宅ローン」、第三者に貸し出して家賃収入を得る場合はアパートローンなどの「不動産投資ローン」となり、投資用物件を購入する際に住宅ローンを利用することは認められていません。この記事では、住宅ローンと不動産投資ローンの違い、また併用について解説します。
【著者】矢口 美加子
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目次
冒頭で述べましたが、住宅ローンを利用して不動産投資を行うことはできません。ここでは、住宅ローンで不動産投資をすることが認められない理由や、もしもそのような使い方が発覚した場合にはどうなるのかについて解説します。
住宅ローンで不動産投資をすることは「不正利用」に該当します。そもそも住宅ローンとは、居住用の住宅を購入する際に受けられる金利の安い融資であり、事業用の建物を購入する際に受けられるローンではありません。居住用と事業用では金融機関の審査基準や金利が異なるため、住宅ローンを利用した不動産投資は不正利用にあたります。
たとえば、住宅ローンの商品の1つに「フラット35」がありますが、住宅ローンの金利が安いことに目をつけて、このフラット35を不正利用するケースが後を絶ちません。具体的には、居住用ではなく投資用マンションの購入に利用したり、マイカーの購入費用を上乗せしたりなど、本来の趣旨とは違った利用をしているケースが問題となっています。
事業者の中には、「フラット35は投資用物件にも利用できる」「金融機関には居住用と説明すればいい」などと甘い言葉をささやき、不正利用であることを隠して住宅ローンを利用させようとする悪質なケースも存在します。事業者が全ての手続きをしていたとしても、虚偽の内容で融資を受けることは詐欺罪という犯罪行為です。最終的に借りた本人が責任を問われることになるので注意しましょう。
住宅ローンを利用した投資用物件の購入は犯罪行為です。そのため、発覚した場合はペナルティを課されることになります。たとえば、住宅金融支援機構は不正利用が発覚した場合には以下のように厳しい対応を行っています。
(1) 不正が判明した融資の残債務の一括返済請求
(2) 不正事案の警察への通報
(3) 不正に関与した事業者の監督官庁への通報
(4) 不正を行った者に対する損害賠償請求
(5) 不正に関与した取扱金融機関に対する処分
引用:住宅金融支援機構 – 【フラット35】の不正利用に巻き込まれないために
繰り返しますが、住宅ローンはあくまでも「自分が住むための住宅」を購入するときに利用できるローンです。くれぐれも間違った利用をしないようにしましょう。
住宅ローンで不動産投資を行うのは犯罪行為だと述べましたが、例外的に不動産投資が目的でも住宅ローンを利用できるケースがあります。それは「賃貸併用住宅」の場合です。
賃貸併用住宅とは戸建て住宅の一部を賃貸住宅にしたもので、マイホームでありながら投資物件としても稼働し、所有者に利益をもたらしてくれる建物です。家賃収入で住宅ローンの返済を行うことができます。
賃貸併用住宅はマイホームでもあるため、住宅ローンを適用できます。ただし、賃貸併用住宅で住宅ローンを利用するには、50%以上を自宅スペースにするという条件があります。居住用スペースが全体の50%未満の場合は収益性が高くなり、事業用の住宅として扱われますので注意しなければなりません。その場合、住宅ローンでの借入れはできませんから、アパートローンを利用することになります。
本章では、住宅ローンと不動産投資ローンの違いについて具体的に解説していきます。
住宅ローンと不動産投資ローンでは、借りる目的が違います。たとえば3LDKのマンションを購入してマイホームとして住む場合と、第三者に貸し出す場合では、同じ物件でも目的が違うために利用できるローンの種類は異なります。
マイホームは自分や家族が住むための生活の基盤となる住宅ですので、当然ながら収益は発生しません。フラット35を提供している住宅金融支援機構は国の政策金融機関ですが、民間金融機関が国民に長期固定金利の住宅ローンを提供しやすいように、住宅ローン債権を証券化する事業を行っています。国民に安定した住宅を供給するという国の政策により、現実的に住宅ローンは事業用よりも低い金利で借りることができます。
一方、投資用物件は人に貸し出して収益を上げるという事業目的の住宅のため、個人や法人のビジネスとして成り立っています。そのため「事業用」として金融機関から融資を受けることになります。
返済原資とは、借入金などの返済に充てられる確実な資金のことです。金融機関に返済するお金の出所も居住用と事業用では違いがあり、居住用の場合は給与など個人的な収入から毎月返済していきます。
一方、事業用の場合はアパートやマンションなどの投資用物件から家賃収入を得ることができますので、これが返済原資となります。そのため、万が一入居者が家賃滞納をしてしまうと返済するのが困難になるというリスクがあります。
融資金額も居住用と事業用では違います。居住用の場合、借入限度額は「返済負担率」をもとに算出するのが一般的です。返済負担率とは、年収に占める年間のローン返済額の割合を示すものです。仮にフラット35を利用する場合、年収400万円未満だと30%以下、400万円以上なら35%以下となります。
フラット35の公式サイトでは年収から借入可能額を計算できるので、シミュレーションするのも良いでしょう。
▶シミュレーションができるページはこちら
具体的に計算すると、たとえば年収は500万円、融資金利は1.740%、返済期間は35年で元利均等返済(※)を選んだ場合、概算借入可能額は4,584万円です(他社からの返済なしと仮定した場合)。
一方、事業用の融資金額は物件の収益性や資産価値、個人の資産状況などによって変わるのが特徴です。そのため、家賃収入が多く見込める収益性の高い物件や、多額の資産を保有する人の場合は、融資限度額が高額になります。
居住用の金利は事業用よりも低いのが一般的です。2022年10月時点のフラット35の借入金利は、年1.480%〜年1.740%がもっとも多い金利となっています(※)。
一方、事業用で利用するアパートローンの金利は、金融機関により異なります。たとえば、三井住友信託銀行では、固定金利コースの場合だと年3.45%〜年4.65%です。 フラット35と比較すると、両者の金利にはおよそ倍程度の差があります。金利が高いと総返済額は高額になるため、先述のように住宅ローンを不正利用するケースが後を絶ちません。
※参考:住宅金融支援機構 – 金利情報
金融機関が審査をする際、住宅ローンの融資の場合はローン利用者の給与から返済されるため、安定した収入があるかが重要視されます。確認される主なポイントは年収と勤続年数です。そのうえ、他社からの借入総額や返済の実績なども審査されます。
事業用の場合は事業としての計画性や収益性が審査の対象となり、主に家賃収入が大きなポイントとなります。家賃収入から必要経費を差し引いても返済できるかどうかを評価する「収益評価」を重視しています。
マイホームを購入する時期と不動産投資を始める時期が重なる場合、2つのローンを併用できるか気になるケースもあるでしょう。ここでは、住宅ローンと不動産投資ローンの併用について解説します。
基本的には、不動産投資ローンを先に組むのをおすすめします。理由としては、不動産投資ローンは事業としての活用であり、返済金は原則として家賃収入で賄われるからです。資産性も考慮されるため、全てが負債として審査されるわけではありません。
住宅ローンの場合は収益性がないためそのまま負債となり、個人の年収や勤続年数なども含んだ上で審査されることになります。
不動産投資ローンを先に借りた場合、購入した物件の収益性が高ければ資産価値が上がるとみなされる場合もあり、住宅ローンを後で組んでもマイナスの影響が出ない可能性があります。
住宅ローンと不動産投資ローンを併用することは可能ですが、その場合は万が一を考えて慎重に利用しなければなりません。なぜなら、不動産投資がうまくいけば住宅ローン審査に有利になりますが、うまくいかなければ住宅ローン自体が厳しくなる可能性があるからです。
また、そもそもどちらも借りたら総借入額は大きくなりますから、キャッシュフロー全体が厳しくなるという点もあります。
ただし、不動産投資よりもマイホームの購入を優先したいという場合、住宅ローンを先に組むほうが安全ともいえます。もしも不動産投資で失敗すると住宅ローンを組めない可能性が出てくるので、じっくり検討してから不動産投資をすることをおすすめします。
住宅ローンと不動産投資ローンは、どちらも高額な借入れです。同じ物件でも目的が違うと利用できるローンの種類は違ってくるため、最終的に支払うことになる金利も大幅に変わることになります。住宅ローンを悪用した不正行為を進めてくる業者も少なからず存在しますので、十分に注意しましょう。
また、住宅ローンと不動産投資ローンは併用することも可能ですが、全体の返済額が多くなるため、キャッシュフローをきちんとシミュレーションし、把握することが必要です。不動産投資に失敗するとマイホームを売却しなければならないこともあるため、併用する際にはくれぐれも慎重に判断しましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。