不動産を売却して利益が出たときに発生するのが、譲渡所得です。譲渡所得税は、課税対象となる所得に対し、所有期間に応じた税率で課税されます。所有期間が5年を超えると長期譲渡所得になり、税率が半分程度低くなるので、税額を抑えられるのがメリットです。本記事では長期譲渡所得の控除内容や計算方法について解説しますので、これから不動産を売却する予定のある人は、ぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
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譲渡所得は、不動産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2つに分けられ、所有期間が5年を超えているかどうかで判断されます。ここでは長期譲渡所得の概要について解説します。
長期譲渡所得になるのか、それとも短期譲渡所得になるのかは、譲渡した年の1月1日時点の所有期間で判定されます。
たとえば、2018年10月10日に取得した不動産を2023年12月20日に売却したとします。2023年10月10日で所有期間が5年を超えますが、売却した年の2023年1月1日時点では5年未満なので長期譲渡所得には該当せず、短期譲渡所得となります。このケースで長期譲渡所得にするためには、2024年1月1日以降に売却することが必要です。
取得してから5年前後で不動産を売却する場合は、売り出す時期に注意するようにしてください。
続いて、長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率を紹介します。不動産を売却して利益が発生すると、譲渡所得税と住民税が課税されます。税金を納付する時期は不動産売却の翌年です。
所有期間 | 税率(※復興特別所得税の2.1%相当が上乗せされています) | |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315%(所得税:15.315% 住民税:5%) |
短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63%(所得税:30.63% 住民税:9%) |
長期譲渡所得は約20%ですが、短期譲渡所得は約40%となり、2倍近く差があることがわかります。所有期間が5年を超えれば譲渡所得税はおよそ半分に抑えられるため、不動産を売却する時期はよく考えてから実行することをおすすめします。
長期譲渡所得の計算方法について解説します。
最初に譲渡所得を計算します。譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得は、売上金がそのまま該当するわけではありません。売上金から経費と控除金額を差し引くことができます。経費とは、不動産を購入する際にかかった取得費と、不動産を売却するときに使った譲渡費用を合わせたものです。
経費にできる取得費は、不動産の購入代金や不動産会社に支払った仲介手数料、売買契約書の作成時に必要な収入印紙代や登記手数料などが挙げられます。
不動産の購入代金については、家屋が経年劣化することを考慮し、減価償却費を差し引いた金額を使用しましょう。ただし、相続などで取得費が不明な場合は「不動産の購入金額×5%」で算出します。
譲渡費用は、不動産売却時に支払った仲介手数料や収入印紙代、登記手数料、立ち退き料、建物解体費用などです。
居住用の住宅を売却する場合、要件に当てはまれば3,000万円の特別控除などを使用することができます。こちらの控除の詳細については後ほど紹介します。
先に説明した通り、取得費を算出するときは、減価償却費相当額を建物代金から差し引きます。しかし、居住用と事業用とでは建物の償却率に違いがあるため、同じ住宅でも減価償却費が異なることに注意しなければなりません。償却率は以下のように決まっています。
建物の構造 | 居住用建物 | 事業用建物 |
---|---|---|
木造 | 0.031 | 0.046 |
木造モルタル | 0.034 | 0.050 |
鉄骨鉄筋コンクリート | 0.015 | 0.022 |
減価償却費相当額の計算式は以下の通りです。
たとえば、4,000万円の木造住宅を購入し、15年経過した場合の取得費は以下のように計算します。
【事業用建物の場合】
4,000万円-(4,000万円 × 0.9 × 0.046 × 15)=1,516万円
【居住用建物の場合】
4,000万円-(4,000万円 × 0.9 × 0.031 × 15)=2,326万円
居住用建物は事業用建物よりも取得費が810万円高くなるため、その分譲渡所得から多く差し引けます。
譲渡所得を計算して、課税対象となる譲渡益があるかどうかを確認します。たとえば、自宅として使用していたマンションを売却して得た譲渡所得が3,000万円の場合、3,000万円の特別控除が適用されれば課税譲渡所得はゼロとなります。
しかし、事業で使用していた投資用マンションの場合は、居住用マンションのための特例を使用することはできません。事業用として使用している物件は、譲渡所得が発生する場合、該当する税率で課税されることになります。
課税対象となる譲渡所得に、所有期間に該当する税率を乗じて税額を計算します。
たとえば、投資用マンションの売却価格が6,000万円、取得費4,000万円・譲渡費用400万円で計算してみると、譲渡所得は【6,000万円-(4,000万円+400万円)=1,600万円】です。
所有期間が5年以上(長期譲渡所得)と5年以下(短期譲渡所得税)の場合では、税率が約2倍違うことは先に説明した通りです。計算結果は以下を確認してみてください。
譲渡所得税額の種類 | 納付する税額 |
---|---|
長期譲渡所得税額(所有期間が5年超え) | 1,600万円×20.315%=約325万円 |
短期譲渡所得税額(所有期間が5年以下) | 1,600万円×39.63%=約634万円 |
このように長期譲渡所得と短期譲渡所得では大きく納付する税額が変わるので、所有期間が5年前後の投資用マンションを売却するときは、売却する時期をよく検討することが大切です。
ここでは、長期譲渡所得の特例が利用できるケースについて解説します。
マイホームを令和5年12月31日までに売却して、代わりのマイホームに買い換えたときに、一定の要件を満たす場合は譲渡益に対する課税を将来に繰り延べられます。この特例が「特定の居住用財産の買換えの特例」です。所有期間が10年を超えるマイホームの売却時に使用できます。
買い換えたマイホームの取得金額のほうがマイホームを売った金額より高ければ、課税されません。ただし課税が免除されるのではなく、買い換え先の住宅を売るときまで課税が先送りされるということです。
参考:国税庁 – No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
売却したマイホームの所有期間が10年を超えていれば、通常の長期譲渡所得よりも低い税率で課税されるのが、「10年超所有軽減税率の特例」です。譲渡所得が6,000万円以下の部分は、譲渡所得税率14.21%となります。6,000万円を超える部分は、長期譲渡所得の税率が適用されます。
譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
---|---|---|---|
6,000万円以下 | 10.21% | 4% | 14.21% |
6,000万円超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
こちらは3,000万円の特別控除の特例と併せて利用できますが、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売ることなど、細かい要件を満たす必要があります。
参考:国税庁 – No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
親の実家などを相続した日から3年が経過した日の年の12月31日までに譲渡したときに利用できるのが、「空き家の3,000万円特別控除」です。空き家を売却したときの譲渡益から3,000万円を控除できます。
令和5年度税制改正要望の結果、2027年12月31日まで延長されることになりました。
「昭和56年5月31日以前に建築された住宅」「区分所有建物登記がされている建物(分譲マンションなど)でない」「相続開始の直前において被相続人が一人で居住」など、細かい要件があります。譲渡対価額の合計額が1億円以下の住宅が該当します。
国税庁 – No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
長期譲渡所得の税額のシミュレーションをしてみましょう。空き家の3,000万円特別控除の特例を利用した場合で計算します。マンションは空き家特例を利用することができないため、戸建て住宅が対象となります。
条件は以下の通りです。
譲渡所得の金額を算出します。
譲渡所得=5,000万円(譲渡価額)-3,000万円(取得費)-200万円(譲渡費用)
=1800万円
計算すると、譲渡所得は1,800万円となりました。この金額から3,000万円を控除するとマイナス1200万円であるため、譲渡所得税は課税されません。3,000万円という比較的大きい金額を控除できるので、一般的な空き家だと譲渡所得税が課税されないケースはよくみられます。
長期譲渡所得を活用すると、譲渡所得税を大幅に抑えられるようになります。不動産を取得した後、売却する時期が5年前後になる場合は、時期をよく確認してから実行しましょう。また、マイホームや相続した空き家を売却するときは、3,000万円の特別控除などを利用すると譲渡所得税が発生しないケースもあります。不動産を売却するときは、売る時期と活用できる特例をよく調査したうえで実行してみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。