日本人にとって馴染み深いイグサの畳は、独特の香りがリラックス効果を与えてくれます。近年はフローリングの物件が主流ですが、畳の部屋がある貸室も少なくありません。本記事では畳の表替えや費用相場について詳しく解説しますので、マンションなどの大家さんはぜひ参考にしてください。
【著者】矢口 美加子
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目次
まずは畳の構造について簡単に解説してきます。畳の構造はシンプルで、畳床(たたみどこ)・畳表(たたみおもて)・畳縁(たたみべり)の3つで構成されています。
畳床は表面からは見えませんが、畳の要となる部分です。以前は稲藁(いねわら)を何重にも重ねて作られた「藁床(わらどこ)」を使用していましたが、近年ではポリスチレンフォームを芯材とした軽量の畳床が普及しています。
畳表は畳の一番上の部分にイグサを織り込んで作られ、等級はイグサの質や色、長さなどにより決められます。丈夫な経糸を使用すると、多くのイグサを織り込んでいくことができるため、目の詰まった畳表を織ることができます。イグサの香りには人をリラックスさせる効果があり、日本古来の風情を楽しめるのが特長です。
畳縁とは、畳の角を補強するために畳につけられている材料で、無地のものと、柄の入った柄縁(がらべり)があります。畳のへりを踏まないことは和室のマナーとしてよく知られていますので、聞いたことがある人は多いでしょう。以前は綿糸で作られていましたが、近年では化学繊維を使ったものが主流です。畳縁にはさまざまな種類があるため、部屋の雰囲気に合わせて好きなものを選べるようになっています。
畳のメンテナンスの種類には3つあり、時系列では「裏返し」→「表替え」→「新調」の順となります。本章では、それぞれの違いについて詳しく解説します。
新品の畳を使い始めて数年経過すると、畳の表面が日に焼けたり、傷んできたりします。そうなったときに対処する方法として、畳の裏返しがあります。畳の裏返しとは、畳床の部分はそのままで、畳表の部分を裏にひっくり返して張り替えることです。この際、畳床と畳表はそのまま使いますが、畳縁は新しく取り換えます。なお、シミがあったり傷みの状態がひどかったりすると、裏返しが難しい場合もあります。
畳の表替えとは、畳床の部分はそのままで、畳表と畳縁を新しく張り替えることです。畳表が劣化して傷んできても、畳床に損傷がない場合は表替えするだけで新品のように生まれ変わります。畳床が傷んでいなければ何度でも行うことができるため、定期的に表替えをすれば畳を長く使えます。通常、畳店の作業場に運び込み、畳表を外してから新しく付け直す作業を依頼します。
畳の新調は、いわゆる「畳替え」で、古い畳を処分して新しい畳と交換することです。畳に隙間ができたり畳床が傷んでいたりすると、表替えや裏返しでは修復することができません。このように畳床が経年劣化で使用できない場合、畳を新調します。
畳の表替えの費用相場は、グレードによりますが、1畳あたり5,000円~20,000円程度です。たとえば、6畳間を1部屋だけ張り替える場合は30,000円~120,000円程度が相場です。国内産素材のイグサと海外産素材のイグサなど、素材の品質によって価格が変わるため、張り替える畳の数が多いほど費用が大幅に変わります。
表替え・裏返し・新調の費用相場は以下の通りです。
裏返し | 表替え | 新調 | |
---|---|---|---|
費用相場(1畳あたり) | 4,000円~9,000円 | 5,000円~20,000円 | 10,000円~35,000円 |
6畳1間の費用相場 | 24,000円~54,000円 | 30,000円~120,000円 | 60,000円~210,000円 |
3種類のメンテナンス方法でもっとも費用を抑えられるのは裏返しですので、畳を入れてから5年以内ならば裏返しでも良いかもしれません。5年以上経過したら表替えを定期的に行うようにし、なるべく畳を長持ちさせましょう。
畳を使い始めて3~5年程度すると、畳の表面の日焼けや擦り切れが気になってくる頃です。その際に裏返しを行っている場合、畳の表替えの目安は約4~8年です。もしも約4年で裏返しをしていたら、8年前後で表替えを行います。裏返しをせずに5年以上使用していた畳の場合は、そのまま表替えを行います。
表替えをすると見た目は新品のようですが、畳床は交換しないので畳の踏み心地は変わりません。畳の上を歩いたときに、へこみがあったり、へたっている箇所があったりしても、表替えでは直らないので注意しましょう。
なお、入居者の退去のタイミングで畳部屋に以下のような兆候が見られたら、表替え、もしくは新調を検討すると良いでしょう。
畳の裏返し、表替えにかかる日数はそれぞれ1日程度です。畳を新調する時期の目安は約20年となり、長ければ1週間程度かかります。
表替えは何回もできると先述しましたが、畳表や畳床が傷んでいる場合はその限りではありません。表替えできない畳の特徴として以下の内容に該当する場合、現在の畳を処分して新しい畳を設置する必要があります。
入居者が変わるたびに畳を新調するとなると、大家さんには高額な交換費用がのしかかってきます。なるべく現在の畳を長く使用することが理想ですので、本章では畳をできるだけ長持ちさせる方法について紹介します。畳の部屋をもつ賃貸物件を経営する大家さんは、普段のお手入れ方法を入居者さんへ周知しておくと良いでしょう。
畳は掃除機できちんと掃除することが大切です。普段のお手入れとしては、掃除機を使用し、畳の中に詰まっている埃やゴミを吸い取ります。掃除機をかけるときのポイントとして、畳の目(編みこみの方向)に沿って1列1列ていねいにかけることを意識します。畳の目とは反対の方向にかけたり、掃除機の吸引ヘッドを畳に強く押し付けたりすることは、畳の表面が傷む原因になります。
そのほか、月に1回程度は拭き掃除を行うと良いでしょう。畳は乾拭きが基本ですので、濡れた雑巾で拭かないようにします。汚れが気になる箇所は、固く絞った雑巾で拭き取るようにします。拭き掃除も畳の目に沿ってやさしくていねいに行い、固く絞った雑巾で拭き掃除をしたら、しばらく窓を開けて部屋の中を乾燥させるようにします。
洗濯物を室内干ししたり、畳の上からカーペットなどを敷いたりすることは、湿気がたまってカビ・ダニの発生原因となり、畳を劣化させる要因です。そのため、天気の良い日には窓を開けるなど、日頃からこまめに換気をして湿気を防ぐようにします。梅雨の時期はエアコンの除湿機能を活用するのも良いでしょう。
また、物件が空室で入居者が決定していないタイミングがあれば、その間を見計らって半年に1回程度は畳干しを行うと良いでしょう。カラッと晴れた日にベランダに立てて干し、4~5時間ほど日光を当ててしっかりと乾燥させます。
なお、畳を取り外す際は、必ず目印をつけておくようにします。畳は、置く位置を変えてしまうと、きちんとはまらないことがあるからです。畳が置かれていた位置に同じ番号を記しておけば、元の位置に戻せます。
昔ながらのイグサ以外に、近年では樹脂や和紙などの素材が使われた畳もあります。和室のイメージを一新したいときはもちろん、耐久性が良くて汚れにくい点からも大家さんにはおすすめできます。ここでは樹脂畳と和紙畳について紹介します。
ポリプロピレンなどの樹脂で作られた畳は機能性に優れており、中には素材に炭を混ぜ込んだ消臭機能付きの製品もあります。樹脂畳の主な特長として、耐久性が高いこと、カビやダニの発生を抑えられること、水や汚れに強いこと、デザインが豊富であることなどです。
イグサよりも表面の割れやささくれが出にくいため、ペット可物件やファミリー向け物件だと特に安心でしょう。樹脂製の畳表は自然成分でないため栄養分が含まれておらず、カビやダニが発生しにくいのもメリットです。カラーやデザインが豊富であるため、選ぶ種類によっては今どきの洋風な雰囲気を出すこともできます。
和紙畳は、和紙をこより状に巻き、樹脂でコーティングして作られています。一見、イグサの畳とあまり変わらないようですが、機能面などで違いがあります。和紙畳の主な特長として、変色しにくい、カラーが豊富、耐久性がある、カビやダニに強い、床暖房に対応している、などがあります。
和紙畳は紫外線で変色しにくく色もちが良いため、日当たりの良い和室の場合には特に重宝するでしょう。和紙畳も樹脂畳と同様に樹脂でコーティングされているため、水や汚れに強く耐久性が高いです。湿気を吸収しないのでカビやダニの発生を抑えられる、イグサよりも熱に強いため床暖房のある部屋でも問題なく設置できるなどもメリットです。ただし、値段が比較的高い点はデメリットといえます。
畳は消耗品のため、年月が経つと徐々に傷みが目立つようになります。ただ、定期的にメンテナンスをすると劣化を抑えられるため、入居者の退去のタイミングなどで忘れずに表替えを行うようにしましょう。畳の目に沿ってやさしく掃除機をかける、月1回程度は乾拭きをするなど、普段のお手入れ方法を入居者にはあらかじめ周知しておき、保有物件の畳部屋をできるだけ長持ちさせるようにしてみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。