融資を利用して不動産を購入するときに、融資特約というものを耳にすることがあります。この記事では融資特約に関する基本的な内容や、適用される条件、実際のトラブル例などを紹介していきます。本記事を参考に、不動産購入者として気を付けたい点を理解していきましょう。
【監修】弁護士 森田 雅也
【著者】水沢 ひろみ
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目次
融資特約(ローン特約)とは、金融機関から融資を受ける前提で不動産の売買契約を結んだものの、最終的に金融機関からの融資の承認が下りなかった場合に、その契約を解除できる特約のことです。
融資特約を付けずに売買契約を結ぶと、もしも融資が下りずに契約解除することになったら買主の都合による解除となってしまい、手付金の放棄による契約解除、さらには違約金や賠償金を請求される可能性も生じます。
このようなリスクを避けるためには、売買契約を締結する前に金融機関からの融資の承諾を得ておけばよいと考えられるかもしれません。しかし、金融機関が融資の最終決定をする際には売買契約書も判断の対象となるため、結局は融資の決定に先立って売買契約を結ばなくてはならないということになってしまいます。
とはいえ、融資の最終決定が得られるかまったく不確実な状態で契約を締結するのは売主にとってもリスクが大きくなります。そこで、最終決定のための本審査の前に事前審査を行い、融資決定のある程度の見通しがある状況で契約を結ぶのが一般的です。
ところが、事前審査には通っても本審査で落とされてしまうというケースも起り得ます。そのため、「希望通りの融資が下りなかった場合には契約を白紙に戻せる」という「融資特約」をつけておくことは、非常に重要なポイントとなるのです。この融資特約があれば、融資が下りなかった時には契約を解除できるので売買契約はなかったことになり、買主が支払った手付金や仲介手数料などはすべて返還されます。
このように融資特約をつけることで買主は安心して売買契約を結ぶことができる反面、売主は一定のリスクを背負うことになります。売買契約の成立を信じて売却のための行為を休止することになる売主に対して、その間の機会損失への補償はないからです。そのため、契約時に買主の属性をしっかりチェックするなど、売主自身も融資が却下される可能性を見定めることは必要なことだといえます。
融資特約はどういうときに適用されるのかについて説明します。
融資特約が適用されるのは、
の2ケースです。
融資特約によって解除できるのは、融資がまったく下りなかったというケースだけではなく、融資は下りるものの予定していた条件とは異なるというケースも含みます。ただし、希望する融資額より多めの融資が下りた場合など、予定よりも好条件となった場合には対象外です。ですから、融資特約をつける際には融資条件を詳細に記載しておくことが重要です。
また、融資特約で指定していたすべての金融機関に断られたときも、売買契約の解除が可能です。売主や仲介する不動産会社などから他の金融機関を紹介されるケースもありますが、買主側の意向に沿わなければ契約を解除することができます。そのためにも、融資特約には融資を希望する金融機関名を明確に記載しておくことが大切です。
ただし、融資契約のための申込書に虚偽の申請があり融資が見送られた場合には、買主側に過失があるとされ、融資特約の適用対象とはなりませんので注意が必要です。
融資特約(ローン特約)は、主に2種類に分かれます。融資が下りなかった際の特約の効果に違いがありますので、その特約の内容がどちらの種類なのか理解しておきましょう。不明な場合には、売主や仲介する不動産会社に確認して、当事者同士の認識を一致させる必要があります。
「解除条件型」の融資特約とは、定められた期日までに融資の承認が下りなかった場合、売買契約が自動的に解除される特約です。融資特約が解除条件型である場合、融資が下りずに定められた期日が経過すると、売買契約そのものが解除され、遡って消滅してしまうことになります。
そのため、もしも他の手段による支払い方法を検討したい場合には、定められた期日の経過前に売買契約変更の合意書を取り交わし、期限を延長するなどの対応をすることが必要です。
「解除権留保型」の融資特約とは、定められた期日までに融資の承認が下りなかった場合に、売買契約を解除できる権利がある特約です。融資特約がこの解除権留保型であった場合には、買主側が定められた期日までに契約解除の申し出をしない限り、売買契約の解除の効果は生じません。定められた期日を過ぎてしまうと、たとえ融資が下りなくても、契約の解除をする権利がなくなってしまいます。
そのため、解除権留保型の場合、融資が下りなかった時にはできる限り速やかに解除の意思表示をすることを忘れないようにしなければなりません。もう少し時間の猶予が必要であるといった場合には、期日延長合意書によって期日の延長をするとよいでしょう。
本章では、融資特約(ローン特約)に関するトラブル例を紹介していきます。
期日までに融資の承認が下りなかった場合に売買契約が自動的に解除されるのが解除条件型、買主側が期日までに契約解除の申し出をしない限り売買契約が解除できなくなるのが解除権留保型、と先に説明しました。
ところが、自動解約にはならない解除権留保型の融資特約を結んでいたのに、審査に落ちた際に自動解約になっていると思い込んで解約の意思表示をしなかった、というトラブルが起こることがあります。また、仲介業者に知らせたことで売主に伝わっていると思い込んでいたものの、肝心の仲介業者が相手方に伝えていなかった、というケースもあります。
その際に不利益を受けるのは解除権を失う買主ですので、解除権留保型の融資特約では定められた期日を過ぎると契約の解除をする権利がなくなってしまうことを理解しておきましょう。また、そのような事態にならないように、内容証明郵便など客観的に記録が残る書面で期日内に売主と仲介業者の両者へ通知することが大切です。
繰り返しになりますが、解除権留保型の融資特約は期日までに契約解除の申し出を行わない限り売買契約は解除できないため、融資特約で定められた期限までに取引の相手方である売主に契約解除の意思表示を到達させる必要があります。
その際、後から「言った」「言わない」のトラブルを避けるためにも、解除の意思表示は内容証明郵便など、確実に証拠が残る方法で行うことが必要です。この解除の通知の到達が解約期日を過ぎてしまうと、融資特約による解除権は消滅してしまいます。内容証明郵便などで解除の意思表示をするのであれば、相手方に確実に到着するよう、充分な余裕をもって手続きをしなくてはなりません。
もし解約期日を過ぎてしまった場合には、融資特約による解除ではなく、手付金を放棄して解除するという手付解除の方法になります。この場合には、仲介業者に支払った仲介手数料も返って来ないと覚悟したほうがいいでしょう。
この手付解除の期限も過ぎてしまった場合、解除するには売主に違約金の支払いが必要になり、売買価格の20%を上限として、売買契約時に定められたおおよそ10~20%の額が請求されることになります。
解除権留保型の融資特約をつけた場合、このような事態にならないように、解約期日までに解約の意思表示が確実に売主まで届くよう、手続きを行うようにしてください。
いったん売買契約を結んだものの、その後、自己都合で契約の解除をしたくなったというような場合に、融資特約による解除を利用することで手付解除による手付金の放棄を回避できるのではないかと考える人がいます。
しかし、融資申込をわざと遅らせる、融資審査に誠実に取り組まないなど、故意に融資審査に落ちるような悪質な行動が見られる場合には、特約による解約は認められません。融資特約は、予定していた金融機関からの融資を受けられなかった場合に買主の立場を保護することで、買主が安心して売買契約ができるようにするための制度ですので、融資特約を故意に利用しようとすることは止めましょう。
不動産購入には、土地や建物本体の費用以外にも、仲介手数料や融資の手数料、ローン保証料、税金、各種保険料などの諸費用がかかります。これらの諸費用も住宅ローンに組み込んで融資を受ける方法がありますが、諸費用までローンに組み込むと、その分返済の負担が大きくなりますので、融資の審査には通りにくくなります(このような、購入不動産の価格よりも借入金額が上回ることを「オーバーローン」といいます)。
また、オーバーローンを組める金融機関ばかりではありませんので、住宅ローンとは別に諸費用は現金で用意するというケースが一般的には多くなります。
この場合に、諸費用を現金で用意する予定で融資の申請をしたものの、現金の用意ができなかったという場合は、融資特約による解約は認められません。買主都合での解約とされ、手付金を放棄して解約するか、違約金を支払って契約の解除をしなくてはならなくなります。土地や建物本体以外の諸費用を現金で用意しなくてはならない場合、契約締結の際には慎重に検討してください。
本章では、融資特約に関する内容で必ず定めるべきことについて紹介します。
融資特約で定めた条件にて融資が下りなかった時、買主は解除して契約を白紙に戻すことができる反面、売主は契約成立への期待が裏切られることになります。このように、融資特約による解除の対象となるか否かは、両者にとって大変大きな影響を与えます。
融資特約で定めた内容によって解除の効果が生じるかどうかが決まりますので、融資特約に必要な内容が間違いなく記載されているか、必ず確認するようにしてください。
融資特約で定めるべき内容を以下に挙げます。
これらを明確に定めておかないと、想定した条件での融資が受けられなかったとしても、融資特約による無条件の解除が認められない可能性があります。くれぐれも注意してください。
融資特約があることで、買主は融資が下りなかった際のリスクを心配せずに売買契約を結ぶことができますが、売主側からみれば「融資特約がある=キャンセルになる可能性がある」ということでもあります。
売却代金を利用する予定があっても、その期待が裏切られるリスクを考えると、現金買いやローン特約無しの買主に比べて融資特約付きの買主は優先順位としては低くなる可能性が否めません。
どういうことかというと、不動産投資という点で考えるなら、融資特約をあえてつけないことも選択肢、ということです。その場合には、買主として融資のめどを確実にしておくこと、最悪のケースに備えて現金で補てんできるようにしておくこと、といった対策が必要になるでしょう。
融資特約に関する基本的な内容や適用条件、契約解除の方法、実際のトラブル例などを紹介しました。条件のよい物件の購入は、不動産投資の成功には欠かせません。不動産の購入には多額の資金が必要となりますが、金融機関からの融資を利用することによって、効率よく投資の規模を拡大していくことができるようになります。ぜひ本記事を参考に、融資特約についての理解を深めてみてください。
【監修者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。
経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所
著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。