2022.10.17
空室対策

不動産賃貸仲介のADとは?効果と出すタイミングについて

不動産賃貸経営の収益性を高めるには適切な空室対策が重要なポイントですが、賃貸仲介の場ではAD(広告料)を活用して空室対策を行う例があります。本記事では、不動産賃貸仲介で使われるADとは何か、ADの効果、どのようなケースで利用するのが効果的なのかなどを解説します。費用対効果を勘案しながら、常に最適な意思決定が必要となる賃貸経営を行うオーナーはぜひ参考にしてみてください。

【著者】水沢 ひろみ

 

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不動産賃貸仲介の現場でADという用語が聞かれることがあります。ここで言われるADとは、広告・宣伝という意味の「advertisement」の最初の2文字を取ったもので、客付けのために支出する広告料を指す言葉として使用されています。

一般には聞きなれない言葉ですが、賃貸物件のオーナーが空室対策を検討する際には知っておきたい仕組みのひとつです。この章では、具体的にはADとはどのような仕組みで、相場はどれくらいの金額なのかなどについて解説します。

ADの仕組みについて

不動産賃貸仲介の現場では、賃貸物件のオーナーが広告宣伝費の名目で仲介業者に対してADを支払うというケースがあります。賃貸契約が成立すると、仲介業者は仲介手数料を受け取りますが、ADはこの仲介手数料とは別に支払われるものになります。

仲介手数料は宅地建物取引業法46条によって家賃1カ月分が上限と定められ、入居者と物件のオーナーが家賃の半月分ずつを支払うのが原則とされています。ただし、依頼者である入居者と物件オーナー両方の承諾を得ている場合には、一方から1カ月分を受け取り、他方からは受け取らないということも認められています。

国土交通省の報酬に関する告示では、宅地建物取引業者は仲介手数料以外の報酬を受けることができないとされていますが、「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」については例外としています。

広告宣伝を行うために通常必要と考えられる費用は、宅建業法で定められている報酬の中から経費として支出するのが通常です。例外として認められている「依頼者の依頼によって行う広告の料金」とは、「報酬の範囲内で賄うことが難しいほどの多額の費用が必要となる特別な広告の料金」を意味し、仲介業者に支払われるのは広告の料金に相当する額のみであるのが国土交通省の告示の内容です。

これに対して、実務上は広告費という名目でADを報酬として受け取るケースが多くみられますが、本来、法律上で認められている広告料は報酬としての性格のものではありません。現行のADとして行われている仕組みは宅建業法違反だという考え方も一部ありますが、現実の必要性から行われているのが実状と考えられます。

ADの表記について

賃料や間取り、周辺情報など、物件の詳細を記載してある入居者募集用の資料を「マイソク」と呼びます。

不動産の仲介業者は、このマイソクから物件に関する必要な情報を得て仲介を行います。AD付き物件の場合には、マイソクの右下あたりに「AD100」、「AD1」というような記載がされており、これはADとして家賃1カ月分を支払うというのを意味します。家賃2カ月分であれば、「AD200」、「AD2」となります。

仲介業者はこの表記を見て物件の紹介を行う際の参考にします。1カ月の家賃が上限とされる仲介手数料以外に、広告費という名目で+アルファの報酬が入るAD付の物件は、仲介業者にとっては優先的に紹介したい物件となることがあるからです。

ADの相場

ADの相場は、物件募集の時期や立地など、客付けの難しさや、どれだけ早く空室を埋めたいかというオーナーの希望などによって一律ではありませんが、家賃の1~2カ月ほどが多くみられます。

就職や転職、新入学など、多くの人が新生活のための部屋探しをする1月~3月の時期だと、物件が活発に動くためADを付ける必要性は少なくなります。また、立地条件に恵まれていて需要が見込まれる物件なら、ADを付けなくても比較的早く入居者が決まると予測できます。

反対に、新たな入居者が見つかりにくい閑散期の場合や、立地条件の良くない物件などで、できるだけ早く空室を埋めたいと考えるのであれば、相場より高めのADを付けることを検討する余地もあるでしょう。

ADを出すことの効果とは?

新聞広告に掲載するなど、特別多額の宣伝費をかけることで通常以上の宣伝効果を狙うのが、宅建業法で定められた広告宣伝費の本来の効果でした。

ところが、不動産賃貸仲介の現場では宅建業法の規定が拡大解釈され、「仲介手数料+アルファのインセンティブが得られるのがAD付の物件」と理解されています。そのため、ADの効果として、ADを出すことによって物件の紹介率が上がり、それによって成約率が上がると認識されています。このことから、仲介業者が仲介手数料以外に広告費としてそのまま収入が増える物件を優先的に制約させたいと考えるのは当然といえるでしょう。

ADを検討したいケースとタイミングについて

ADの効果として物件の成約率が上がるのであれば、特にADを検討したいケースやタイミングはどのような時でしょうか?

物件の閑散期や、内見者が2カ月以上いない場合、地方エリアの賃貸物件などが考えられます。オーナーにとっては追加的な支出となるADですから、必要なケースに効果的なタイミングで利用したいものです。

物件の閑散期

人の移動が多い繁忙期に空室が生じるのであれば、特にADを付けなくても入居者が決まる可能性は高いです。しかし、閑散期になると人の移動が少なくなるため、物件を探す人は少なくなります。このような時期に優先的に自分の物件を紹介してもらうためには、AD付の物件が有利になると考えられます。

内見者が2カ月以上いない場合

内見者が2カ月以上いないという場合、ADを検討する余地があるかもしれません。同様の条件の物件が多数競合していて、部屋を探している人の決め手に欠けるようなケースでは、ADを付けることで仲介業者のインセンティブとなり、優先的に最後の一押しをしてもらえる可能性が高まることが期待できるからです。

しかし、内見者はいるのに決まらないという場合では、そもそも物件の設備などに問題があるケースや、価格設定が適切でないケースなど、賃貸契約の条件の見直しやリフォームの検討が必要なこともあります。このような場合には、ADによる効果とその他の手段との費用対効果を勘案して、より適切な方法を見極めることが必要となります。

地方エリアの賃貸物件

地方エリアの賃貸物件の入居者を募集する際にも、ADを付けることが効果的であると考えられるケースがあります。都心部とは異なり、地方は賃貸需要自体が弱いところが多いです。一旦空室になるとなかなか埋まらないケースもあるので、ADを付けることでできるだけ優先的に入居者を紹介してもらうことは必要な対策のひとつといえます。

また、地方は1室あたりの家賃が安いことから、仲介手数料が安くなる傾向にある地方エリアの仲介業者にとってはADのついている物件は魅力が大きいものです。積極的に紹介したいと考える動機付けとなることが期待できます。

ADを出す前に考えておきたいこと

これまでの内容のように、ADを出すことで一定の効果は見込まれると考えられます。しかし、ADを出せば必ず決まるというものではないため、ADを出す前には周辺の相場と比べて家賃の設定は適切か、入居者の目線で物件を見た時に住みたいと思える物件かなど、さまざまな角度から見直してみることも大切です。

築年数が経っている物件であっても、リフォームを行い、壁紙やフローリングなどを新しくするだけで、見違えるようにきれいになります。キッチンや浴室などの水回りが老朽化している場合には、思い切って新しい設備に変えることで、家賃を下げずに入居者が見つかるかもしれません。

そこまで費用をかけたくない場合には、壊れている箇所がないかを確認して必要な修繕をし、清掃して清潔な状態を維持することでも十分な場合もあります。部屋の中だけではなく、庭のエクステリアにちょっと工夫してみるだけでも、アパート全体をおしゃれな印象にすることができます。

また、一人暮らしをする際に、いろいろな設備を自前で揃えなくてはならないのは結構負担になるものです。このようなときに、照明やクーラー付きの物件、インターネット回線付きの物件などは魅力的に映ります。そのほか、防犯の観点からはテレビモニター付きのインターホンが人気です。

このように、ADとして支出する分の費用で、物件自体の魅力を高める工夫をしてみることも考えてみるとよいでしょう。

◆こちらの記事では、空室対策としてすぐにできる22のアイデアを紹介しています。あわせてご覧ください。
賃貸経営の空室対策アイデア22選!空室の原因8つも検証

 

空室対策としてフリーレントも検討しよう

空室対策としては、フリーレントを検討するという方法もおすすめです。

フリーレントとは、最初の1カ月もしくは数か月分の家賃を無料にし、入居を検討している人へアピールして入居を勧誘する方法です。空室対策として家賃を下げる場合、入居者の入居期間中一定額の減収が続くことになりますが、フリーレントであれば家賃1カ月分ほどの費用負担で済むことになります。

フリーレント付きの物件だと、入居者は何かと費用がかかる引っ越しの際の経済的な負担を減らすことができるため、予算の少ない入居者でも入居が可能になるというメリットがあります。

ADは業者向けの支出となりますが、フリーレントは借主向けの支出となります。オーナーにとってはADの1カ月もフリーレントの1カ月も同じ支出額ですから、どちらが空室対策につながるかを考えることも重要な視点ではないでしょうか。

不動産賃貸仲介のADを理解して、最適な空室対策をしよう!

不動産賃貸仲介の現場で必要に応じて利用されているADの仕組みは、家賃1カ月分の報酬が上限という宅建業法には反することになります。しかし、宅建業法の決まりに従うと、家賃の低い物件の案内は宅建業者にとって割に合わないケースが生じます。宅建業者にとっては、家賃の高い物件の成約も家賃の低い物件の成約もかかる手間は変わらないにも関わらず、家賃の低い物件の場合には得られる報酬が少なくなってしまうからです。

そういった場合に、ADとしてオーナーが追加の支出をすることで、より積極的に物件を紹介してもらえるのであれば、両者にとってメリットとなる可能性はあります。

しかし、ADを付けたからといって必ずしも入居者が決まるとは限らないこと、物件の魅力を高めることでADが不要となる可能性もあることも忘れないようにしましょう。入居者が住み続けたいと感じる良好な環境を提供し続けることも、空室対策には重要なポイントといえるでしょう。

◆こちらの記事もぜひあわせてご覧ください。
媒介契約3種類の選び方、メリットデメリットをやさしく解説

 

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