2023.08.02
賃貸経営

減価償却の任意償却|個人と法人の税法上の違い、注意点など

減価償却は節税するうえで欠かせない会計処理ですが、減価償却の任意償却をする場合は、よく考えてから実行することをおすすめします。なぜなら、本来、減価償却費はその期ごとに一定の金額を計上して、正しい決算書を作成するものだからです。本記事では、法人だけに認められている減価償却の任意償却とは何か、メリット・デメリットなどを紹介します。賃貸経営者の人はぜひ参考にしてみてください。

【著者】矢口 美加子

 

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減価償却の「任意償却」とは

事業所得にかかる所得税を節税する方法のひとつに、減価償却があります。任意償却とは、減価償却するうえで、文字通り「任意に」「償却できる」会計処理のことです。本章では、最初に減価償却について解説し、続いて任意償却について解説します。

そもそも減価償却とは

減価償却とは、固定資産の使用期間に費用として配分するとともに、その固定資産の帳簿価額を減額していく手続きのことです。固定資産の取得に要した費用の全額をその年の費用とせず、耐用年数に応じて配分し、減価償却費としてその期に相当する金額を計上します。

たとえば、Aを購入した年度に100万円の支出があったとします。実際のお金の流れとしては、翌年度以降はAに関する支出はありません。

しかし、会計上の流れ(減価償却)としては、購入年度に100万円の資産を計上したら、購入年度末には資産を20万円減らして、20万円を費用として計上します。購入年度以降は耐用年数に達するまで資産を20万円減らし、20万円を費用として計上できます。

このように、減価償却は実際のお金の流れと違う動きをするのが特徴です。減価償却は購入代金を少しずつ経費としていくことで、毎年の利益を正確に把握することを目的としています。減価償却によって固定資産の価値は毎年減少していきますが、最終的には0円ではなく1円になります。

任意償却は法人だけに認められている制度

任意償却とは、法人だけに認められている制度で、「償却期間内(耐用年数期間内)であればいつ減価償却してもよい」というものです。したがって、個人事業主には認められていません。

法人の判断により任意で償却できるため、たとえば償却限度額が10万円であれば、今期は3万円だけ償却して損金として計上する、ということが可能です。そのため、法人であっても損金処理をせず、減価償却費を計上しない、ということも問題ありません。

法人税法では以下のように規定されています。

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第三十一条 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

出典:法人税法(第三十一条)

この条文の中で、「償却費として損金経理をした金額のうち」と限定されているところがポイントです。この金額はいわば法人が上限を決めるものであり、この範囲の中で、償却費とした分だけを経費として計上することを認めています。このことから、その償却費を損金として計上するかしないかの判断は企業に任せている、と捉えることができるでしょう。

個人事業主は強制償却となり先送りできない

すでにお伝えしたように、個人事業主の場合は、個人の判断で償却する金額を決めることはできません。所得税における減価償却費の条文要約では、以下のように規定されています。

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第四十九条 居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。

出典:所得税法(第四十九条)

このように償却費の計上が決められています。個人事業主はその年の償却費として算出される金額はその年の経費として計上しなければならず、先送りは認められていないため、「今年は赤字だから減価償却費の計上をやめる」といったことができません。確定申告でうっかり減価償却費を計上し忘れてしまった場合、更正の請求をすることになります。

任意償却のメリット・デメリット

法人が任意償却を行うメリットとデメリットについて解説します。

任意償却のメリット

任意償却のメリットは、いつでも好きなときに任意の金額を減価償却費として計上できることです。償却期間内(耐用年数期間内)であれば、いつ減価償却してもよいとされているため、好きなタイミングで経費として計上できます。赤字を回避したい場合は、あえて計上しないということも可能です。減価償却費の調整を行えるということは、会社の業績をよく見せられるということでもあります。

任意償却のデメリット

任意償却のデメリットは、適正な決算として認められないケースがあることです。任意償却は各事業年度に減価償却費を配分する方法ではないことから、「企業会計原則に反している」といえます。会計上では任意償却は認められていないため、適正な決算として認められない可能性があり、銀行からの評価が高まらない可能性があるのです。

銀行の融資審査に通りやすいように、あえて黒字に見せるなどといった悪質なケースは粉飾決算と判断されることもあるので注意しましょう。

借り入れがある場合は銀行からのイメージが悪くなる可能性がある

任意償却は企業の好きな時期に償却費を計上できるため、銀行からは「利益操作をしている」と思われる可能性があります。したがって、借り入れがある場合は銀行からのイメージが悪くなる可能性があり、新規で融資を受けたい時には審査が不利になる場合がある点に注意しなければなりません。

法的には問題ないとはいえ、任意償却を使って決算対策をしていると、「正しい決算書を作成しない経営者」という印象を与えてしまいかねません。

減価償却費の任意償却は、よく検討してから実行しよう

任意償却をすると決算書で利益を出すことが可能ですが、銀行と取引をしている場合は注意しなければなりません。減価償却費は本来、期ごとに一定の償却費を計上していくものであるため、任意で償却していくとその期の正しい決算結果が判断しにくい可能性があります。任意償却の使い方によっては、銀行から信用されなくなるケースもある点には注意をしなければなりません。減価償却費を任意償却するときは、粉飾決算にならないよう十分に検討してから実行しましょう。

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