2021.08.31
賃貸管理

孤独死発生時の残置物撤去|国交省発表の「モデル条項」とは

入居者によるトラブルや問題は賃貸経営において避けては通れませんが、その中でも入居者の「孤独死」はオーナー負担が特に大きいものとして知られています。オーナーの中には孤独死の発生を恐れるあまり、高齢者の受け入れを躊躇してしまう人もいるのではないでしょうか。

政府はこのような状況の解決策の一つとして、2021年6月に残置物(賃借人の遺品)の処理等に関するモデル契約条項を発表しました。このモデル条項がどのように活用できるものなのか、孤独死問題の現状と合わせて解説します。

孤独死は年々増加傾向にある

高齢人口の増加に伴い、孤独死の発生件数は年々増加傾向にあります。

総務省統計局(※)が発表した資料では、2020年における65歳以上の高齢者は3,617万人と過去最多となっており、実に総人口の28.7%が高齢者であることがまとめられています。高齢者人口は今後も増加していき、2040年には人口の35.3%が高齢者となると試算されています。

このように、高齢化が進む日本においてオーナーが高齢者の受け入れを避けることは今後ますます難しくなることが予想され、孤独死の問題は全てのオーナーにとって身近な問題になってきているといえます。

総務省統計局 – 統計からみた我が国の高齢者

孤独死が発生した場合に知っておきたいこと

賃貸借契約および遺品は法定相続人に承継される

孤独死の発生時に知っておきたいことのひとつは、賃借人が死亡したとしても賃貸借契約は解除にはならず、賃借人としての地位は相続人に承継されることです。

また、賃貸物件内に残された賃借人の遺品(以下、「残置物」と統一)の所有権も相続人に承継されます。そのため、オーナーといえども勝手に部屋に入って残置物を片付けることはできません。仮に片付けてしまった場合、トラブルにつながるばかりか、損害賠償請求を起こされてしまうリスクもあります。

したがって、賃貸借契約を解除したり、残置物を片付けたりするためには、相続人と連絡を取って手続きを進めていく必要があります。

孤独死が発生した後の流れ

オーナーは孤独死が発生した後の具体的な流れ、手続きについても知っておく必要があります。孤独死が発生したら、一般的には以下の手続きがとられます。

相続人と連絡を取る、あるいは相続人にあたる人を見つける
  ↓
相続人に残置物の取り扱いを決めてもらう
  ↓
残置物の処理を行う

相続人が見つからない場合/相続放棄をされた場合

孤独死の場合には、相続人が見つからない、見つかっても相続放棄をされてしまうといったことが起こる可能性があります。このような場合には家庭裁判所によって「相続財産管理人」を選定して手続きを進めることになります。この手続きには多大な費用(「予納金」として数十万円の支払いがオーナー側に発生)と時間がかかる可能性が高いです。

孤独死発生時の残置物撤去などの具体的費用と費用負担

孤独死が発生した場合の残置物撤去費用と原状回復費用、またそれぞれの費用負担について説明します。

孤独死による残置物撤去費用

孤独死が発生した場合、賃借人の残置物を撤去するための費用が発生します。部屋の状態にもよりますが30万円程度の費用が必要となり、基本的には相続人へ請求します。

仮に相続放棄をされてしまった場合には、「相続財産管理人」を選定して残置物撤去費用を含むすべての費用を生産する手続きを進めることになります。ただし相続財産が不足すると見込まれる場合、いったん申請者(この件に関してはオーナー)が「予納金」を申請時に支払うことになります。予納金は、相続財産が十分にあり必要な費用をすべてそこから賄えるならば申請者のもとへ返ってくる可能性がありますが、相続放棄という状況から考えるとオーナーに予納金が戻ってくる見込みは低いといえるでしょう。

孤独死による原状回復費用

原状回復費用に関しては多くの場合でオーナーの負担となります。これは、原状回復については賃借人の故意、過失によるのもののみが賃借人負担となり、通常の利用における損失はオーナーの負担となると考えられているためです。孤独死の状況・経過時間によっては部屋の汚損が進んでしまい、室内の清掃や原状回復工事の費用が大きくなることもあり、ケースによっては100万円以上の工事費用が必要になる場合もあります。

ただし例外として、自殺などといった特別の事情がある場合には賃借人の責任として請求が可能なケースもあります。しかし、事故などを含む通常のケースにおいては原状回復費用を相続人へ請求することはできません。

国交省発表の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは

このように、残置物の撤去には相続人の協力が不可欠です。しかしながら、孤独死の場合には、相続人が見つからなかったり、見つかったとしても疎遠であるためになかなか手続きが進まなかったりする場合が少なくありません。相続放棄をされてしまうこともあります。

当然、撤去が完了するまでは部屋の貸し出しをすることはできないため、賃貸借契約の終了だけでなく部屋に残された遺品の整理などを進めにくかったこれまでの状況はオーナーにとって大きな負担となっていました。

このような背景から、孤独死が発生したときの残置物処理を進めやすくしてオーナーの不安を払拭することを目的に、2021年6月に国交省から円滑な契約の解除や残置物の処理が可能となるモデル条項が発表されました。

これは、賃借人の死亡時に備え、あらかじめ①賃貸借契約の解除や②残置物の取り扱いに関する事務処理を賃借人が第三者(受任者)に委任することを定めておく、という内容です。つまり、賃借人と受任者との間で①と②における事務処理の委任契約を締結することができるようになります。

① に関する実際の条文は以下のとおりです(解除関係事務委任契約のモデル契約条項第1条「本賃貸借契約の解除に係る代理権」)。

委任者は、受任者に対して、委任者を賃借人とする別紙賃貸借契約目録記載の賃貸借契約(以下「本賃貸借契約」という。)が終了するまでに賃借人である委任者が死亡したことを停止条件として、①本賃貸借契約を賃貸人との合意により解除する代理権及び②本賃貸借契約を解除する旨の賃貸人の意思表示を受領する代理権を授与する。

② については以下のとおりです(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第2条「残置物処分に係る事務の委託」)。

委任者は,受任者に対して,本賃貸借契約が終了するまでに委任者が死亡したことを停止条件として,次に掲げる事務を委託する。
① 第6条の規定に従い,非指定残置物を廃棄し,又は換価する事務
② 第7条の規定に従い,指定残置物を指定された送付先に送付し,換価し,又は廃棄する事務
③ 第8条の規定に従い,指定残置物又は非指定残置物の換価によって得た金銭及び本物件内に存した金銭を委任者の相続人に返還する事務

出典:国土交通省 – 残置物の処理等に関するモデル契約条項

誰が「受任者」になることができる?

事務委任先を定めておくことで、孤独死が発生してしまった場合も円滑に契約の解除や残置物の撤去を行うことができるようになります。ただしこの条項はどのような場合でも有効なわけではなく、あくまで円滑な事務手続きを実現するためのものであるため、賃借人や相続人の利益を一方的に害するような人を受任者とすることは無効となる恐れがあります。

具体的には、受任者をオーナー自身にすることは望ましくないとされています。これは、できるだけ早期に空室状態を解消しようとするオーナー側の事情が強く反映される可能性があることから、賃借人や相続人の利益を害する形で手続を進めてしまう恐れがあると考えられているためです。

そのため、最も望ましいのは相続人の誰かが受任者となることです。ただし、どうしても入居時に適切な受任者が見つからない・手続きへの協力が得られない場合は、保証会社や管理会社を受任者として定めることが可能です。

注意点として、保証会社や管理会社にする場合であっても状況によっては賃借人・相続人の利益を一方的に害すると判断され、条項自体が無効とされる可能性があります。そのため、オーナーはあくまでもリスクのない条項にできているのかを個別に確認しておくこと、賃借人や相続人の利益のために誠実に対応してくれるかを確認しておくことが重要です。

孤独死が発生しても安心!オーナーのための家賃保証「家主ダイレクト」

これまで孤独死発生時の残置物撤去や国交省のモデル条項に関してお伝えしましたが、オーナーは「家賃保証サービス」に加入しておくことで手続きなどの負担を軽減させることができます。

家賃保証を提供する会社はいくつかありますが、中でも「家主ダイレクト」はオーナーが直接使える家賃保証サービスです。滞納時の保証はもちろん、孤独死保険も自動で付帯されており、万一の事故発生時のリスクに対応することができます。

賃借人が入居している間は、家主ダイレクトが一括して賃借人の口座から家賃を引き落とし、オーナーの口座へ振り込むシステムとなっており、月末には必ず入金されるようになります。

入居中の賃料を100%保証してもらえるため、家賃滞納があってもオーナー側は未収のリスクを心配する必要はありません。このように、オーナーは家主ダイレクトを利用することで万が一の場合の残置物処理等を委任できるだけでなく、賃貸経営においてのお金のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。

高齢化社会に備えて孤独死への対応をふくめ万全の賃貸運営を目指そう

日本の少子高齢化は今後ますます進んでいき、賃貸経営においての高齢者による事故やトラブル増加していくと考えられます。一方で、今回紹介した残置物の処理等に関するモデル契約条項や孤独死対応の保険や家賃保証サービスなど、対策できる制度やサービスも数多く出てきています。オーナーはこれらのサービスをうまく活用し、少子高齢化に負けない賃貸経営を目指しましょう。

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