賃貸住宅市場で今後の需要が期待できるのが、外国人の入居者です。近年、日本で暮らす在留外国人の数は増加傾向にあり、令和2年末時点で約290万人に上っています。ただ、日本に住む外国人は増えていても、外国人を受け入れている賃貸住宅はそれほど多くありません。この記事では、外国人入居者との賃貸契約や受け入れ時のポイントについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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目次
外国人入居者を受け入れると、どのような効果が期待できるのでしょうか。考えられる点は次の3つです。
近年では日本で就労する外国人に加えて留学生数も多いので、賃貸住宅を「外国人可」とすることで入居率の安定を期待できます。大学に近い物件ならば、留学生に貸すことにより空室問題の改善も見込めるでしょう。いったん入居すればそのまま住み続けてくれる可能性が高いため、安定した収益を得られるようになります。
その上、入居者を確保しやすいのもメリットです。先述の通り、まだまだ「外国人可」の物件は少ないため、外国人可の物件だとわかれば現在居住中の外国人がほかの入居希望者を紹介してくれる可能性もあります。外国人の就労者や留学生は外国人同士のネットワークを持っていることが多いため、口コミでどんどん入居希望者が集まることも期待できます。
上記の点から、相場よりやや高めの家賃を設定しても入居者が決まる可能性は高いと考えられます。
ただ、外国人を受け入れることにはさまざまなリスクがあります。その点については次章で紹介していきます。
実際に外国人の入居者を受け入れるとなると、賃貸借契約においてつまずく場面が出てくることが考えられます。本章では、主に考えられる点として4つを説明します。
第一に挙げられるのが、日本語でのやりとりにおいて難しい場合がある点です。言語が違うため、外国人入居者と上手くコミュニケーションを取れない可能性があります。
世界共通語として英語が挙げられますが、日本人オーナーと外国人入居者の両方が英語を問題なく話せるとは限りません。仲介の不動産会社でも同様です。中には、外国人の入居を支援する団体もあるため、こういったところへ相談してみるのも1つの方法です。
外国人となると連帯保証人の候補が少ないことが多いため、賃貸借契約を結ぶのが難しい点も挙げられます。連帯保証人がいない場合、もしも契約者にトラブルが発生したときにオーナーが問題を解決することが難しくなります。
対策としては、就労で日本に来ている外国人の場合は、勤務先の会社に連帯保証人になってもらう方法があります。留学生の場合は、外国人の入居サポートをしている支援法人に連帯保証人紹介制度がないかを確認してみるのも手です。そのほか、外国人が加入できる家賃保証会社を利用するのもおすすめです。
外国人の場合、支払い能力を証明しにくい点もあります。すべての外国人に当てはまるわけではありませんが、本人の資力だけでは判断が難しいことが多いため、勤務先などの協力も必要となります。
特に自主管理のオーナーとなれば、入居者の支払い能力を正確に把握するのは簡単ではありません。この場合も、外国人の対応に慣れている家賃保証会社の利用をおすすめします。
自国や家庭の事情などで、契約中の外国人入居者が突然帰国してしまう、というケースもあります。正式な契約解除の手続きをしないで緊急帰国された場合に、残置物の処理に困る可能性があることから、外国人の受け入れに慎重なオーナーは少なくありません。
対処法として、1カ月単位で契約できるマンスリー契約にするなど、緊急帰国されてもできるだけ問題のない状況にしておくことも検討してみましょう。
外国にはそれぞれに独自の文化があるため、実際に入居者として受け入れると、思ってもみないようなトラブルが発生することがあります。本章では、外国人入居者に比較的起こりやすいトラブル例としていくつか紹介します。
外国人入居者の問題で特に多いのが、騒音トラブルです。外国には、自宅に友達や家族を呼んで、賑やかにホームパーティーをする習慣が多くあります。時間を問わずに話し声や騒音が聞こえることもあり、ほかの入居者からのクレームにつながることが想定されます。
音に対する感覚は文化的な差が大きいため、外国人入居者自身は普通に生活しているつもりでも、日本人には騒音と感じることもよくあります。外国人入居者には日本の生活文化やマナーを伝えて、協力してもらうことが大切です。
ゴミ出しに関するトラブルも、起こりやすい問題の1つです。日本のゴミ出しは自治体により細かく分別方法が定められているため、外国人には理解しにくい場合があります。
対策としては、外国人入居者の母国語で記載したゴミ出しのルールをまとめた張り紙を作成することです。その上、本人にもパンフレットを渡して説明しておけば、さらに効果的です。なお、外国人向けのゴミ出しのルール表は、各国の言語で記載されているものを各自治体のホームページからダウンロードすること可能です。
たとえ賃貸物件であっても、自身の好みに合わせて壁の色を変えたり、棚を設置するといったDIYを施したりすることは問題ないという国もあります。そのような国から来た外国人入居者の場合、日本でも同様に自身の好みに合わせて部屋の改造を行うことがあり、注意が必要です。オーナーに無断で室内を改造してしまうこともあります。
そのため、賃貸借契約を結ぶ際には、オーナーに無断で室内を改造することは禁止であることを伝えるようします。もしも約束を反故にした場合は原状回復費用がかかることもあわせて説明します。最初に説明しておかないと原状回復費用を請求しても拒まれる可能性があるため、必ず伝えるようにしましょう。
オーナーに無断でほかの外国人に転貸する、あるいは誰かと同居するトラブルもよくあります。外国人によっては部屋を借りられない人もいるため、借りている人がそういった外国人に部屋を又貸しするケース、友人が遊びに来てそのまま住み続けてしまうケースなどです。
部屋を貸すときには契約者の身元や支払い能力、居住人数などを調べた上で貸し出すのが一般的です。契約者ではない人が住んでいたり、入居人数を超えた人数で住んでいたりすることは契約違反です。不法滞在の温床となる恐れもあり、オーナーはリスクを背負う可能性があるため、注意しなければなりません。
外国は日本と比較すると、賃貸物件でもペット飼育に寛容な国が多いため、日本においても問題なくペット飼育が可能であると思っている人がいます。そのため、ペット飼育が不可の物件では、賃貸借契約を結ぶ前にペット不可であることを伝えておくことが必要です。
オーナーに無断で飼育した場合は契約違反となり、退去命令を受ける可能性があることも知らせます。ペットの鳴き声や臭いがほかの入居者の迷惑になることも考えられるので、オーナーは外国人入居者にその点を必ず説明をするようにしましょう。
外国人の入居者を受け入れる場合は、オーナー側も外国人向けの対応策を考えておきましょう。外国人入居者を受け入れる際のポイントとしては、➀入居審査の基準を決めておくこと、②各種説明書を多言語で用意すること、③賃貸ルールの説明を徹底すること、の3点が挙げられます。それぞれ説明します。
外国人の入居審査の基準を決めておくことが1つ目のポイントです。最低限、以下の項目をチェックします。
在留資格とは、日本に合法的に滞在するための資格のことです。在留外国人の在留資格は在留カードを見ると確認でき、在留期間も記載されていますので、不法入国でないかを確認しましょう。在留資格には居住資格と活動資格があり、就労ビザは活動資格に含まれます。
入居予定人数も確かめるようにし、ほかの外国人が無断で住むことを防止しましょう。家賃収入を安定して支払う能力があるのかを確認するために、勤務先と収入を確かめることも必要です。連帯保証人の有無も調べて、いない場合は家賃保証会社に加入することが必要です。
また、日本語がある程度理解できることも望ましいです。賃貸物件でトラブルが発生した場合は、借主本人から事情を聞くこともあるからです。
外国人入居者のトラブルは、自国の文化や習慣を日本の生活に取り入れてしまうことで発生します。そのため、日本の賃貸物件に関するルールや各種説明書をできるだけ多言語で用意し、賃貸借契約を結ぶ前に母国語で説明できるようにしておきます。
特に、物件の資料や賃貸借契約書など、賃貸契約に関する資料を多言語化して用意しておくことをおすすめします。日本の賃貸借契約書はむずかしい言い回しで書かれているものが多いので、外国人入居者の母国語で分かりやすく書かれている契約書を作成しましょう。
入居後も、ゴミ出しルールや部屋の使い方などが記載されている説明書を多言語で用意しておくと安心です。
日本の賃貸借契約では、礼金・敷金・仲介手数料・更新料など、外国人にはイメージできないものの説明が必要となります。日本人には馴染みがあっても外国人には理解できないものが多いため、賃貸ルールの説明を徹底して行うようにします。
また、電気・ガス・水道の契約と解約は、入居者が自分で行う必要があることも忘れずに説明します。外国での契約は口頭で行うことも珍しくなく、日本のように書面で契約する習慣がない場合があることも頭に入れておきましょう。
入居前は、文化・習慣の違いを確認しながら、イラストや動画を活用して日本での生活ルールを理解してもらうと良いでしょう。公益財団法人・日本賃貸住宅管理協会では、外国人の住まい方ガイドを動画で提供していますので、オーナーの方はぜひ参考にしてみてください。
なお、外国人入居者にはなるべく専門用語を使用しないで会話するようにし、可能であれば通訳できる人を手配すると良いでしょう。難しい場合は、携帯翻訳機を利用して会話するのも有効です。
管理会社や家賃保証会社を選ぶときは、外国人の対応が可能な会社を検討してみましょう。外国人入居者の対応に慣れている管理会社を利用したり、自主管理ならば保証会社が独自に提供しているサポートを利用したりすると、トラブルを回避できる可能性が高まります。
自主管理オーナーの場合は、 たとえば株式会社Casaが提供している入居者専用アプリ「Roomコネクト」のサービスを利用してみてはどうでしょうか。日本語のほか、スペイン語・ネパール語・ベトナム語・ポルトガル語・簡体字中国語・英語・韓国語に対応し、「24時間365日対応の駆けつけサービス」や「近隣トラブル対応サービス」を提供しています。
生活に必要な情報(物件ごとのゴミ収集日・周辺情報・各種連絡先など)をアプリで提供しているため、外国人入居者側も安心・便利に活用することができます。その上、設備仕様書をアプリで確認できたり、最新版に差し替えできたりするため、紛失や破損の心配がありません。アプリはiphone、Android両方に対応しています。
空室が長期化している物件は、外国人の入居を受け入れることで需要が生まれる可能性があります。賃貸経営を安定的に行いたい場合は、外国人入居者の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。
ただ、外国人入居者は日本とは違う生活習慣や文化を持っているため、賃貸に関するルールを十分理解してもらうことが必要となります。外国人の受け入れに不安がある場合は、外国人の対応が可能である管理会社や家賃保証会社のサポートを受けることがおすすめです。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。