2024.03.15
不動産トピックス

2022年の生産緑地問題、どうなった?大家さん向けに解説

不動産経営をしていて、「生産緑地問題」という言葉を耳にしたことはありませんか?生産緑地、そして生産緑地問題とはどのようなことを指すのでしょうか。この記事では、生産緑地問題についてのこれまでと今後について解説します。生産緑地問題を阻止するために行われた対策や、生産緑地問題に関して大家さんが考えるべき対策等についてもお伝えしますので、不動産投資の慎重な判断のために参考にしてみてください。

【著者】水沢 ひろみ

 

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生産緑地とはどのような制度?

都市部の中に時折見られる生産緑地とは、どのような制度なのでしょうか?何のために設けられており、どのようなメリットや制限があるのかについて、ここでは解説します。

生産緑地とは

生産緑地とは、都市の環境を良好に保つために、市街化区域内の農地の中で以下の要件に該当するものを「生産緑地地区」として都市計画法によって指定したものです。

  • 市街化区域内の農地であること
  • 良好な生活環境を確保するために効用があると認められること
  • 公共施設等を建設するための敷地として適していると認められること
  • 農業等を継続することが可能な状態であること
  • 500㎡以上の広さがあること(※平成29年の生産緑地法一部改正で300㎡まで面積要件の引き下げが可能に。これについては後述します)
  •  
    生産緑地に指定されるメリットは、課税に関して軽減措置が受けられることです。相続税や贈与税の納税が猶予され、固定資産税が軽減されます。

    一方で、生産緑地としての指定から30年を経過するか、もしくは主たる農業従事者の死亡等までは、農業等のために利用することに加え、継続して農業等を行えるように設備等を管理することが必要とされています。また、生産緑地内での建物建築や売却行為等は規制され、開発行為をする際には市町村長の許可を得なくてはなりません。

    参考:国土交通省 – 公園とみどり – 生産緑地制度

    生産緑地制度が設けられた背景

    生産緑地制度が設けられた背景には、都市部への急激な人口流入により農地の宅地化が進み、宅地開発が無秩序に行われたことから、自然災害や住環境の悪化が問題視されるようになったためです。そこで、都市部における農地の開発行為を抑制し、住環境のさらなる悪化を防ぐために、1972年に生産緑地法が制定されました。

    しかし、生産緑地法が施行された後も農地の宅地への転用が止まなかったため、1992年に生産緑地法が改正されました。それによって、市街化区域内では農地は「生産緑地」と「宅地化農地」の2種類に区分されることになりました。

    「2022年の生産緑地問題」とは

    1992年に生産緑地法が改正されてから、2022年で30年が経過しました。生産緑地に指定されてから30年が経過すると、生産緑地としての指定が解除され、課税上の優遇措置が受けられなくなります。それに伴い、それまでの規制から解放され、農地の自由な処分が可能になります。

    全国にある生産緑地は約1.2万ヘクタールとされていますが、その大部分にあたる1万ヘクタール以上が首都・中京・近畿圏の三大都市圏に集中しています。その約8割が、生産緑地に指定されてから2022年で30年目を迎えると考えられていました。

    生産緑地として指定されていた土地が宅地として大量に市場に出回れば、需要と供給のバランスが崩れ、特に地価の高い都市圏を中心にして地価の大幅な下落が起こるのではないか、と懸念されていたのが「2022年の生産緑地問題」です。

    しかし現実的には、このような問題が起こるのに先だって政府がさまざまな対策を講じたことから、当初懸念されていたような問題が起こるには至りませんでした。では、どのような対策が講じられ、生産緑地の現在はどのようになっているのでしょうか?これらについては、以下で解説していきます。

    生産緑地問題による急激な変化を阻止するために行われた対策

    生産緑地問題による急激な変化を阻止するために、国は平成29年に生産緑地法を改正し、さまざまな対策を講じました。国がどのような法改正を行ったのか、その内容について説明します。

    特定生産緑地制度が新しく作られた

    国は生産緑地法を改正し、「特定生産緑地指定制度」を新たに設けました。特定生産緑地制度とは、生産緑地として指定されている農地を、生産緑地の所有者等の意向にしたがって市町村が特定生産緑地として指定することができる、というものです。

    通常、生産緑地として指定されると、30年間は農業が行えるような状態を維持し、必要な設備等を管理しなくてはなりませんが、期間経過後は市町村に対して買い取りの申し出をすることができます。もしも特定生産緑地に指定されると、買い取りの申し出ができる時期が「生産緑地に指定されてから30年経過後」から10年延期され、その10年が経過した後も、再度所有者等の意向により再び10年の延長が可能とされています。その上、税制の優遇措置も同様に10年間延長されます。これによって、「2022年の生産緑地問題」として危惧されていた事態は回避できたと考えられるでしょう。

    国土交通省の調査によると、生産緑地全体の面積の約8割を占めるとされる「1992年(平成4年)に指定された生産緑地」の約9割は、特定生産緑地として指定を受けたと示されています(令和4年12月末時点)。1992年(平成4年)に定められた生産緑地は9,273haとされており、特定生産緑地に指定された割合は89.3%(8,282ha)、特定生産緑地に指定されなかった割合は 10.7%(991ha)となっています。


    出典:国土交通省 – 平成4年に定められた生産緑地の約9割が特定生産緑地に指定されました

    生産緑地に指定できる面積が引き下げられた

    生産緑地として指定するには500㎡以上の広さが必要とされていたものの、都市部の農地に適用するには要件が厳しすぎる面がありました。そこで平成29年の生産緑地法一部改正によって、市区町村の条例の定めにより、生産緑地に指定できる面積を300㎡まで引き下げることができるようになりました。

    面積要件が緩和されたことで、相続発生等によって面積が縮小された際にも、生産緑地として優遇措置を受けることが可能になりました。

    生産緑地内に設置できる施設等が追加された

    生産緑地法の改正によって生産緑地内に設置できる施設等が追加されたことも、生産緑地問題の発生に歯止めをかけることになりました。改正前は生産緑地内に設置できるのは農業用施設に限定されていましたが、改正後は農産物等の製造・加工施設、農産物等の直売施設、生産緑地内で生産した農産物等を原料にした農家レストラン等も設置できるようになりました。

    これによって、生産緑地の所有者が農地のまま生産緑地を保有していても、農業以外にも収益を得る手段ができたことになり、収益性の観点から生産緑地を手放さなくてはならない所有者の減少につながったのです。

    生産緑地問題に関して住宅購入を検討中の大家さんが考えたいこと

    前章で紹介した通り、約9割の土地所有者が特定生産緑地制度を利用して10年延長することを希望したことから、当初予想されていた土地暴落は現在のところ起こっていません。とはいえ、住宅購入を検討中の大家さんは、購入希望エリアに生産緑地があるかどうか調べることをおすすめします。

    生産緑地が少ないエリアであれば影響は少ないといえますが、多く存在している場合には、どのように分布しているか調べることでリスクを回避できる可能性があります。

    特定生産緑地制度の利用を希望しなかった約1割の土地は、宅地として流通する可能性があります。また、10年延長することを希望した所有者の生産緑地であっても、相続の発生によって市場に出てくることもありえるでしょう。

    需要を上回る土地が売りに出されれば、土地の価格は下落します。特に生産緑地が多く残っているエリアでは、住宅購入エリア周辺の生産緑地の分布状況を確認し、将来の地価の下落リスクも考慮に入れたうえで購入の判断をすることが必要であると考えられます。

    生産緑地を所有している大家さんの場合

    現在、生産緑地を所有している大家さんの場合、今後どのような選択肢をとることができるのでしょうか?ここでは、大家さん自身が生産緑地を所有している場合だけでなく、親族が所有している生産緑地を大家さんが引き継ぐ可能性がある場合も含めて、考えられる選択肢を紹介します。

    特定生産緑地を延長・維持していく

    今後の選択肢として、特定生産緑地を延長・維持していくことが挙げられます。特定生産緑地指定制度が創設されたことで、従来の生産緑地が受けられた課税の優遇措置を継続して受けられるようになっています。特定生産緑地として延長した場合には特定生産緑地としての制限を受けることになりますが、買い取りの申し出ができる時期が10年延長されれば、その後も10年ごとに更新が可能となります。

    買い取りの申し出を行い、宅地へ転用する

    2つ目の選択肢としては、買い取りの申し出を行い、宅地へ転用するという方法です。生産緑地としての制限を受ける30年の期間経過後は、市町村に買い取りの申し出を行うことが可能です。

    買い取りの申し出をすると、原則として市町村が買い取ることになりますが、財政上の問題などから買い取りがなされない場合には、他の農家等へ斡旋をする等の対応が行われます。もしも買い取りの申し出から3カ月経過しても斡旋が成立しない場合、生産緑地としての制限が解除されるので、宅地への転用が可能となります。

    宅地転用後は、賃貸用のアパートやマンション、駐車場等を経営して賃貸収入を得ることも自由にできるので、土地を活用して収益を得る手段が増えることになります。

    ただし、賃貸経営には建物や設備の建築費用等のコストがかかり、空室リスクも生じます。周辺の賃貸相場等を分析した上で、現実的な利回りを想定して投資の可否を判断する必要があるでしょう。

    なお、宅地転用後に自ら利用するのではなく、売却するという選択肢もあります。通常、農地のまま売却するのであれば農業委員会の許可が必要になりますから、売却相手も農家か農業への参入者等に限られます。もしも農業委員会に無断で売却した場合、売買契約が無効になるリスクがあります。

    このように農地のままでは売却相手が限られてしまい売却することが難しくなりますが、農地を宅地へと転用してから売却するようにすると、スムーズに買い手を見つけられる可能性が高くなります。生産緑地は市街化区域内にあり、市街化区域内の農地の転用は届け出制になっていますので、農業委員会に届け出を行えば宅地に転用することが可能です。

    参考:農林水産省 – 農業振興地域制度と農地転用許可制度の概要

    第三者へ貸借する

    3つ目の選択肢は、特定生産緑地として指定を受けた上で、第三者へ貸借するという方法です。2018年に「都市農地の賃貸の円滑化に関する法律案(都市農地賃借法)」が制定され、特定都市農地貸付けの承認を受けた生産緑地の所有者は、市民農園等として生産緑地を第三者へ賃貸しやすくなりました。

    特定生産緑地でない農地でも第三者へ貸借することはできますが、その場合には農地法の適用を受けるため、法定更新制度によって賃貸借契約が自動更新されることになります。つまり、一旦貸し出した農地を返還してもらうためのハードルが高くなります。それに対し、都市農地賃借法では法定更新制度の適用がなくなるため、生産緑地の第三者へ貸借がしやすくなっています。

    また、生産緑地の所有者が相続税の納税の猶予を受けるためには、農地所有者が亡くなるまで生産緑地の管理を継続することが条件でした。そのため、生産緑地を第三者へ賃貸すると、相続税の納税の猶予が受けられなくなるのです。

    その点、都市農地賃借法の承認を受けて貸し出す場合には、第三者に賃貸したとしても引き続き相続税の納税猶予が受けられます。この承認を受けるためには、以下の要件を満たすことが必要です。

  • 市民農園の利用者当たりの貸付け面積が 10a未満であること
  • 期限が5年を超えないこと
  • 複数の対象者への貸付けであること
  • 利用者が営利目的でないこと
  •  
    この都市農地賃借法の制定によって、特定生産緑地の活用の幅が一層広がったといえるでしょう。

    参考:農林水産省 – 都市農地の貸借がしやすくなります

    生産緑地について深く理解し不動産投資に役立つ判断をしよう

    生産緑地や生産緑地問題、生産緑地問題を回避するために取られた対策、生産緑地問題に関して大家さんが考えるべき対策等を解説しました。2022年の生産緑地問題として危惧されていたことは、特定生産緑地制度が新しく作られたことで大きな混乱もなく回避されたといえるでしょう。

    とはいえ、特定生産緑地制度の適用を受けない農地が宅地として供給される可能性はあります。また、現在生産緑地を所有している場合には、今後の活用法について選択肢が増えました。生産緑地について正確な知識を身に着けておくことは、今後の不動産経営において有効だといえるでしょう。

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