2024.03.14
税金

不動産の相続手続き|4つの相続方法、必要書類などを紹介

不動産を相続する際は相続登記を申請します。登記申請する前には戸籍謄本などの必要な書類を集め、相続人同士で遺産分割協議を行うなど、さまざまな作業が必要です。この記事では、不動産の相続手続きや必要書類などを詳しく解説します。令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されますので、ぜひ参考にしてみてください。

【著者】矢口 美加子

 

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不動産を相続する手続き・流れ

不動産を相続するときは、以下の流れで進めます。

1.遺言書を確認する
2.相続人を確定する
3.相続財産を特定する
4.遺産分割協議を行う
5.相続登記を申請する
6.相続税の申告・納付

 
各ステップに分けて説明していきます。

遺言書を確認する

最初に行うのが、遺言書の確認です。不動産の所有者が亡くなったら、遺言書がないかを確かめます。見つかった遺言書が「自筆証書遺言」または「秘密証書遺言」の場合は、家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければなりません。

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方について話し合います。なお、もしも遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容が優先されます。

相続人を確定する

次は、相続人を確定していきます。相続人を確定する際は、亡くなった人の戸籍を生まれたときからすべて集めて、配偶者・子供・両親などを漏れなく確認します。家族が把握していない相続人が後から見つかると遺産分割協議を最初からやり直すことになるので、入念に調べることが必要です。

相続財産を特定する

相続人を確定する作業と並行して、被相続人の財産を特定して財産目録を作成します。財産目録とは、保有するすべての経済的価値がある財産(預貯金、有価証券、不動産など)と、すべてのマイナスの財産(借入金など)を一覧にし、財産の状況を明らかにしたものです。

預貯金の場合は、通帳や残高証明書により亡くなったときの残高を確認します。不動産は、固定資産税課税明細書を確認したり、不動産の登記識別情報通知や登記済証(権利証)を探したりして調べます。

固定資産税課税明細書が見当たらないときは、市区町村の窓口で固定資産課税台帳を用いて確認する方法もあります。固定資産課税台帳は、亡くなった人と同居の家族や不動産に関して権利を有する人なら閲覧できます。

遺産分割協議を行う

相続財産を特定した後、遺言書がない場合には相続人全員で遺産分割協議を行います。注意点として、遺産分割協議はすべての相続人が集まった状態で行う必要があり、一人でも欠けた状態でなされた分割協議は無効とされるため、必ず相続人全員で行います。

遺産分割には法律上の期限はありませんが、相続税の申告は相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内に行わなければなりません。したがって、それまでに遺産分割を完了するのが望ましいでしょう。

不動産が相続財産である場合、誰が受け継ぐのか決まったら、作成した遺産分割協議書に相続人全員が署名して実印で押印します。

相続登記を申請する

被相続人から不動産を相続する際には、相続登記をすることで相続人に名義が変更されます。冒頭でお伝えした通り令和6年4月1日からは相続登記が義務化されるので、不動産を承継した人は必ず登記を行いましょう。相続登記の申請の流れは以下の通りです。

1.戸籍関係書類の取得
2.遺産分割協議・協議書の作成
3.登記申請書の作成
4.登記申請書の提出
5.登記完了

 
相続登記は自分で行っても問題ありませんが、司法書士などの専門家に依頼したほうが間違いなく進められるのでおすすめです。

相続税の申告・納付

相続登記を済ませたら、相続税の申告・納付を行います。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内です。

相続税は、不動産を含む遺産の総額が、基礎控除額【3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】を超える場合に課税されます。期限までに申告・納付しないと延滞税がかかる可能性があるため、なるべく早めに申告・納税を済ませましょう。

不動産の相続手続きにかかる期間

不動産の相続手続きにかかる期間は、不動産の種類や数、相続人の人数などにより違いがあります。以下は、相続登記をする際に必要な準備別にかかる期間の目安をまとめています。

  • 不動産の調査にかかる期間(約1~2週間)
  • 戸籍謄本等の収集にかかる期間(1カ月以上かかる場合もあり)
  • 遺産分割協議書の作成、署名と捺印(数カ月)
  • 遺言書の検認(1~2カ月)
  • 相続登記申請書の作成(数日)
  •  
    2024年4月1日以降は、不動産を相続してから3年以内に相続登記をしなければなりません。上記の通り、不動産の相続手続きにはある程度の期間がかかるため、早めに準備をして進めることが必要です。

    不動産を相続する4つの方法

    相続財産に不動産が含まれている場合には、➀現物分割、②換価分割、③代償分割、④持分割合で共有名義、という4つの方法のいずれかを選択します。それぞれの方法を具体的に説明します。

    現物分割

    不動産の現物分割とは、不動産をそのまま相続する分け方を指します。たとえば、自宅は配偶者、投資用マンションは長男が相続する、といった場合などです。現物分割は、1つの不動産を1人が受け継ぐため、相続の手続きが簡単です。

    ただ、現金のようにきっちりと配分できないので、不動産の資産価値によっては不公平感を感じる場合もあります。そのため、預貯金など、ほかの相続財産が複数ある場合や、各財産の資産価値の差が小さい場合に向いている方法です。トラブルなく分割するには、相続人すべてが納得する必要があります。

    換価分割

    不動産の換価分割とは、不動産を売却して得た売却金を法定相続人で分配する方法です。たとえば、子供2人が相続人で、相続した実家を4,000万で売却した場合、それぞれ2,000万円ずつ受け取るといった具合です。

    換価分割は現物分割のように誰か1人だけが多く遺産を受け継ぐことはありません。相続人同士でトラブルになることがないため、スムーズに分割できるのがメリットです。なお、不動産を売却するときは不動産会社に仲介手数料を支払うなど経費が発生するため、取得する金額はその分だけ少なくなります。

    代償分割

    代償分割とは、相続人のうちの1人または数人が相続財産を現物で取得し、その現物を取得した人が他の相続人に対して代償金を支払うことによって清算する方法です。現物分割が難しいケースで行われる傾向があります。

    代償金の金額は、「法定相続分」に応じて計算します。たとえば、3,000万円の価値がある実家のマンションを3人の子供が相続するとします。長男が実家を相続した場合、ほかの2人のきょうだいにそれぞれ1,000万円ずつ代償金を支払うのが代償分割の方法です。

    代償分割は比較的公平に遺産分割できるのがメリットですが、不動産を相続する人に代償金を支払うだけの資力がなければ実行できないという面もあります。

    持分割合で共有名義

    持分割合とは、不動産を相続人の間で所有する場合、それぞれが持つ権利の割合のことです。遺言書がない状態で不動産を相続すると、基本的にすべての法定相続人による共有状態となり、法定相続分に応じた共有持分割合となります。

    たとえば、配偶者と子供2人が不動産を相続した場合の持分は、配偶者が2分の1、子供2人はそれぞれ4分の1ずつです。1つの不動産に対して複数の人が共有する状態になります。

    このように不動産を共有にすると、➀不動産の活用や売却がしにくい、②将来的に相続人がどんどん増えていく、③共有者が勝手に売却する可能性がある、といったリスクが考えられます。

    共有不動産は、すべての共有者が合意しないと自分の持分以外は賃貸や売却が行えないため、活用や売却をしにくくなるのがデメリットです。そのうえ、共有者に相続が発生すると相続人がさらに増えてしまうため、権利関係が複雑になります。また、自分の持分はほかの共有者から承諾を得なくても売却できるので、共有者同士でトラブルが発生することも考えられます。このような理由から、不動産の共有状態は避けたほうが無難といえます。

    不動産の相続手続きに必要な書類

    不動産の相続手続きにはさまざまな書類が必要です。ここでは、相続手続きに必要な書類について解説します。

    遺言による相続登記の場合

    遺言による相続登記申請の必要書類は以下の通りです。

    ・被相続人の除籍謄本
    ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
    ・被相続人の住民票または戸籍の附票
    ・相続人全員の戸籍謄本、住民票
    ・相続する不動産の固定資産評価証明書
    ・遺言書
    ・検認済証明書(※公正証書遺言以外で遺言書保管制度を利用していない場合)
    ・登記申請書
    ・収入印紙

     
    遺言による相続登記を行う場合は、家庭裁判所に検認請求をすることが必要です。よくわからないときには司法書士に相談するとよいでしょう。

    遺産分割による相続登記の場合

    遺言書がなく、遺産分割による相続登記をする場合に必要な書類は以下の通りです。

    ・被相続人の除籍謄本
    ・相続人全員の戸籍謄本、住民票
    ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
    ・相続する不動産の固定資産評価証明書
    ・遺産分割協議書
    ・相続人の印鑑証明書
    ・登記申請書
    ・収入印紙

     
    相続人同士で遺産分割協議を行った後は、遺産分割協議書を作成します。相続人全員が署名して実印を押すことが必要です。印鑑証明書は相続人全員分を用意します。

    法定相続分による相続登記の場合

    法定相続分とは、民法上で定められた各相続人の取り分の割合です。法定相続分どおりに相続する場合、遺産分割協議書の作成や遺言書の検認作業は不要となり、ほかの方法よりも手間がかかりません。法定相続分による相続登記で必要な書類は、下記の通りもっとも少なくなります。

    ・被相続人の除籍謄本
    ・相続人全員の戸籍謄本、住民票
    ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
    ・相続する不動産の固定資産評価証明書
    ・登記申請書
    ・収入印紙

     
    基本的には遺言による相続登記や遺産分割による相続登記の場合と同じ書類で、相続人の印鑑証明書は必要ありません。

    相続する不動産はどのように評価される?

    ここでは、相続する不動産の評価方法について解説します。

    土地の評価方法

    土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式の2種類があります。それぞれの方式について簡単に解説します。

    路線価方式

    路線価方式とは、道路に面していて路線価が設定されている土地を評価する方法です。路線価とは、宅地に面している道路につけられた、標準的な宅地1㎡あたりの土地の評価額で、不動産鑑定士による評価額・公示価格・売買価格などを参考に国が決めています。

    路線価方式での評価額は、以下の計算式で算出します。

    路線価方式での評価額=路線価×補正率×地積

     
    路線価は、国税庁のサイトが提供する「路線価図・評価倍率表」の路線価図で確認できます。下図のように、矢印(←→)が路線価の適用範囲を示しており、千円単位で表示されています。

    出典:国税庁 – 路線価図・評価倍率表(品川区)

    路線価が設定されているのは市街地が中心ですので、街中にある土地の場合は路線価を利用することができます。

    倍率方式

    倍率方式とは、路線価が定められていない地域の土地を評価する際に使用される方法です。固定資産税評価額に評価倍率を乗じて相続税評価額が算出されます。計算式は以下の通りです。

    倍率方式での評価額 = 土地の固定資産税評価額 × 国税庁が場所ごとに定める評価倍率

     
    評価倍率は国税庁のサイトが提供する「路線価図・評価倍率表」に掲載されており、年分・地目・地域別で倍率に違いがあります。

    出典:国税庁 – 路線価図・評価倍率表(相模原市南区)

    固定資産税評価額は、毎年、市役所から郵送される固定資産税の課税明細書(土地・家屋)で確認することができます。相続時に使用する固定資産税評価額は、相続開始の年のものを使いましょう。

    ◆不動産の相続税についての解説や計算ステップを知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
    不動産の相続税|計算ステップと特例、注意点などを解説!

    家屋の評価方法

    家屋の評価額は固定資産税評価額と同じであるため、課税証明書で確認しましょう。家屋の評価額は3年に1度評価替えが行われ、再建築価格を基準とする評価方法で新しい評価額を求めます。したがって、3年間は同じ価額です。

    マンションの場合、敷地権の価額と区分所有する建物の価額を合計した価額が評価額です。敷地権の価額は、マンションの敷地全体の価額に、その区分所有する建物にかかる敷地権の割合を乗じて評価します。区分所有する建物の価額は、固定資産税評価額で評価することになります。

    相続後の不動産の使い道を考慮して選択しよう

    遺産分割協議をする際は、相続後の不動産の使い道を考慮して選択することが大切です。相続後に売却するのか、そのまま保有するのか、賃貸にして家賃収入を得られるようにするのかなど、どのような扱い方にするのかで相続や分割の方法が変わるからです。

    たとえば、相続人同士で公平に分けたいときは、換価分割を選んで相続した不動産を売却して同じ金額で分けると、お互いに納得しやすいといえるでしょう。

    また、賃貸物件として保有したい場合は、代償分割で他の相続人に代償金を支払うことで、自分だけの所有にすることもできます。相続人同士の関係が疎遠という場合は、換価分割にすると公平に分けられるためトラブルを避けられる可能性が高まります。

    不動産の相続で揉めないように相続人同士で十分に話し合おう

    不動産は現金のように相続人同士できっちりと分けられるケースばかりではありません。遺言書がない場合は相続人同士で遺産分割協議を行いますが、遺産の取り分を巡って「争族」になってしまうことも少なくありません。

    相続税の納付は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月目の日」と法律で定められているため、期日までに納付できるよう十分に話し合いましょう。

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