2021.02.10
不動産投資

不動産投資の売却で成功するには?大切なのは「コスト」と「タイミング」

不動産投資家にとって、所有物件の売却は大きな関心事ではないでしょうか。

収益物件の売却で知っておくべきことは、大きく分けて2つあります。1つは「売却に必要な費用(コスト)」、もう1つは「失敗しないための最適な売却のタイミング」です。ここでは不動産投資において重要な戦略である「売却」で失敗しないために、売却に伴うコストと最適なタイミング、より有利な売却を実現するための戦略も併せて解説します。

1.不動産投資における「売却」の重要性とは

この章では不動産投資の最終段階にあたる「売却」の重要性について、知っておくべき事項を3つのポイントに整理しています。

1-1不動産投資のトータル収支は売却で決まる

不動産投資を含めた「投資」には2つの収益機会があります。
1つは配当収入など所有を継続していることで得られる利益「インカムゲイン」、もう1つは資産そのものの価格変動による利益「キャピタルゲイン」です。

不動産投資に当てはめると、賃料収入はインカムゲインです。そして物件売却時の価格が購入時の価格を上回ることがあればキャピタルゲインも得られます。ただし、逆に値下がりで損失が出た場合はキャピタルロスとなります。

不動産投資では物件の売却時にキャピタルロスが発生する傾向があります。しかし、それまでにインカムゲインとして賃料収入が蓄積しているので、それらを差し引きした上でトータルの収支がプラスであればその不動産投資は成功したと見なすことができます。
逆にキャピタルロスが大きく、賃料収入と差し引きしてもマイナスになってしまった場合は、不動産投資は失敗だったといえるでしょう。

こうしたキャピタルロスによる失敗を回避するため、不動産投資では「出口戦略」の概念が重要です。出口戦略とは、物件選びの段階から売却時のシミュレーションを行い、売却の失敗リスクを低減しておく考え方です。

不動産投資の最終的な成否を決めるのはトータル収支であり、成功のために「売却」は重要な位置を占めていることを意識しておきましょう。

1-2.売却に成功するためにおさえるべき3つのポイント

不動産の売却に成功するためには以下の3つのポイントをおさえておくことが必要です。

①不動産売却のコスト
②売却のタイミング
③売却方法

コストを理解しておかなければ、思わぬマイナス収支になってしまう可能性があります。
また、不動産の売却には必ず相手方にあたる買主がいることを踏まえて、その買主に対してどのようなタイミングで情報を伝え、アプローチするのかが重要です。

1-3.直近に予定がなくても売却戦略は立てておこう

投資物件を所有しているものの、「今すぐ売却する予定はない」という方もおられるでしょう。しかし不動産投資では多くの場合、所有物件を売却することも起こり得るため、売却戦略を早めに(できれば購入時から)想定しておかなければなりません。

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2.収益物件の売却に要する費用および税金

失敗しない不動産(収益物件)売却のために、売却に伴うコストをおさえておきましょう。仲介手数料・印紙税・抹消登記費用の3つに加えて、不動産売却によって利益が生じた場合は譲渡所得税が必要になります。

2-1.不動産会社の仲介手数料

物件を売却する際、多くのケースでは不動産会社に仲介を依頼するため手数料が必要です。この不動産会社への成功報酬を「仲介手数料」とよびます。
仲介手数料には以下の通り上限が定められています。

取引金額 手数料の上限(税抜)
200万円以下 取引額に対して5%
200万円超400万円以下 取引額に対して4%
400万円超 取引額に対して3%

取引金額が400万円を超える場合は上記一覧表から「200万円以下」の部分と「200万円超400万円以下」の部分、そして「400万円超」の部分を分解して仲介手数料の上限を計算します。

例えば、1,000万円の物件の仲介手数料は、以下のとおりです。
(200万円×5%)+(200万円×4%)+(600万円×3%)+消費税
=(10万円+8万円+18万円)×1.1
39万6,000円

この方法では計算が煩雑になるので、400万円を超える価格の取引では以下の速算式を使って計算することも可能です。上記計算式と同じ金額になります。

取引額×3%+6万円+消費税=仲介手数料の上限

2-2.売買契約書の印紙税

不動産の売却時には、売主と買主との間で売買契約が交わされます。そのための契約書に印紙を貼る必要があるため、この印紙代も売却コストとなります。不動産売買の契約書に貼る印紙税額は以下の通りです。

契約金額 印紙税額(印紙代)
100万円超 500万円以下 1,000円
500万円超1,000万円以下 5,000円
1,000万円超 5,000万円以下 1万円
5,000万円超 1億円以下 3万円
1億円超 5億円以下 6万円

2-3.抵当権の抹消登記費用

将来的に売却予定の収益物件購入のためにローンを組んだ場合、その物件には金融機関の抵当権が設定されます。ローンを完済したら抵当権は消滅しますが、抹消登記の手続きをしなければ登記されたままの状態になっています。このままでは売却に支障をきたすため、売却時に抵当権が登記されたままになっている場合は抹消登記が必要になります。

抵当権の抹消登記手続きは自分で対応することも可能ですが、時間や労力の負担を考えると司法書士に依頼するのが合理的です。その際の司法書士報酬も売却コストとして考えておく必要があります。司法書士によって費用は異なり、安価な場合は5,000円程度から、多くの場合は1万円~2万円程度が相場のようです。

2-4.譲渡所得税と物件所有期間(長期・短期)による税率の違い

所有物件を売却する際に購入価格を売却価格が上回った場合は利益が発生します。その利益を譲渡所得と呼び、収益物件の売却価格から売却に要した費用と物件取得時の費用を全て差し引いて求めます。

譲渡所得は額に応じて税金がかかります。
一般的に不動産売却益(譲渡所得)にかかる税金のことを譲渡所得税と呼びますが、法律にこの名称の税金があるわけではなく、譲渡所得に対する所得税と住民税のことを指します。

譲渡所得税の税率は物件を所有していた期間によって2種類に分けられ、物件の所有期間が5年を超えているか5年以下かによって税率が異なります。短期譲渡所得に対する税率は長期と比べるとほぼ2倍です。

長期譲渡所得(所有期間5年超) 20.315%
(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
短期譲渡所得(所有期間5年以下) 39.63%
(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)

このように短期と長期で譲渡所得に対する税率が2倍近く異なるのは、投機的な不動産の転売を抑制する目的があります。かつての不動産バブルでは「土地転がし」と呼ばれた錬金術によって不動産価格の高騰が起きました。この教訓から、短期間に不動産を売買することによって得られた利益には高率の税金を課す制度が生まれました。

(不動産投資家にその意図がなくても)5年以下の所有期間で不動産を売却し利益が出ると税率が高くなります。所有期間が5年前後の時期に売却をお考えの場合は、この税率の違いを踏まえた上で戦略を立てる必要があるでしょう。

3.収益物件の売却を検討する6つのタイミング

収益物件の売却には成功するタイミングがあります。ここでは売却を検討する6つのタイミングについて説明します。

3-1.売却見込み価格が購入価格を上回っている

売却を検討する時には相場調査が必要になります。相場調査で得られた見込み価格が購入価格を上回っている場合(売却益が出そうな場合)は、すぐにでも売却したいと思われるかもしれません。しかし、売却するかどうかのボーダーにはひとつの目安があります。「今すぐ売却した場合に得られる売却益の見込み額が、その収益物件で得られる年間キャッシュフローの5倍以上である」ことです。

例えば、1億円で購入した物件で年間10%の利回りが得られているとします。税金や諸経費などを考慮しないとすると、年間キャッシュフローは1,000万円。この5倍にあたる5,000万円以上の売却益が見込めるのであれば、その物件は売却のタイミングと判断できます。

では、売却益が年間キャッシュフローの5倍未満の場合は、どう判断すれば良いのでしょうか。その場合は、収益物件による収益のトータルが売却益を上回る可能性が高いと判断してそのまま所有しておく選択肢も有効です。

3-2.メンテナンス時期が近付いている

日常的なメンテナンスであれば売却のタイミングになるほどの節目とはなりませんが、マンションの大規模改修など本格的なメンテナンスは費用も大きくなります。一棟アパートやマンションを所有している方は、10年~15年を目安に実施される大規模改修の時期が近付いている時を売却のタイミングとして意識される方が多いようです。

こうした大規模改修にかかる費用は区分所有マンションの場合、修繕積立によって準備していることが多いため、一度に多額のキャッシュが出てしまうことはありません。しかし、実際には大規模改修の費用が予想外に大きくなってしまい、積立金だけではまかないきれない場合も想定されます。その場合に発生する別途費用(出費)を避けるために売却を検討するのは有効な戦略といえるかもしれません。

3-3.空室発生率が上がっている

所有物件が空室になると、その部屋の家賃収入が見込めません。そのため空室(稼働率の低下)は不動産投資家にとって最も意識されるリスクとなっています。
購入時は稼働率が高く家賃収入が安定していた物件でも、経年劣化や外部要因による人気低下によって空室が目立つようになる可能性はあり得ます。空室リスクが更に高まった状態で売却を検討しても買い手を探しにくくなり、売却額も低くなってしまうことから、空室発生率が上がっていると感じた場合は売却タイミングととらえる視点が必要になります。

他に売却のタイミングを察知する方法として、近隣の類似物件の状況に注目する方法があります。エリア全体で同様に空室が多くなっている場合、そのエリア全体の人気が低下していることが考えられるため、売却のタイミングの判断材料にできます。

例えばワンルームマンションの場合、4月からの新生活に備え、進学や就職によって入居する人が増える1月から3月までが繁忙期となります。その時期になっても入居者の動きが少ない場合、売却も検討する余地があるといえるでしょう。

3-4.エリアの人口ピークを過ぎる時期

日本はすでに総人口が減少に転じているため、多くの都道府県では人口減少が始まっています。
例えば島根県では1950年代からすでに人口の減少が始まっているほか、東京に次ぐ大都市大阪府も2000年代に人口がピークとなっています。2020年現在も人口が増加している東京都も2025年が人口のピークとなり、その後は人口が減少すると推定されています。

この事実をふまえ、所有している収益物件が所在するエリアで今後人口の減少が起きる可能性を考える必要があります。東京は不動産投資家からも人気の都市ですが、東京の中でも人口の減少が今後見込まれる場合や、すでに人口がピークになり減少している場合は、売却を検討するタイミングといえるかもしれません。

3-5.法定耐用年数を過ぎる時期

建物には法定耐用年数が定められています。法定耐用年数は会計上の耐用年数であり、その年数を過ぎたからといって即時建物が使えなくなるわけではありません。しかし減価償却による節税効果が薄れてしまうため、買い手の絶対数が少なくなる可能性があります。

例えば木造アパートの場合は22年、鉄筋コンクリートの場合は47年がそれぞれの法定耐用年数です。築年数がこの年数に差し掛かってきたら、ひとつの節目として売却を検討することも視野にいれておきましょう。

3-6.購入後5年を経過する時期

不動産の売却で利益が発生したら、そこに譲渡所得税がかかること、譲渡所得税は物件の所有期間によって税率が異なることはすでに述べた通りです。税率が2倍程度異なるため、物件の購入から5年が経過した時期は売却を検討するひとつの節目になります。

購入から5年が経過した直後で長期譲渡所得税が適用される(つまり税率が低くなる)時期が、最も高値で売却できる可能性が高く、さらに税率を低く抑えられるチャンスといえるでしょう。

4.収益物件を有利な条件で売却するためにおさえておきたい6つの戦略+便利なサービス

収益物件の売却で失敗しないために必須の知識を、コスト、売却タイミングの順に見てきました。最後に、これらの知識を踏まえた上で売却に成功するための具体的な6つの戦略と、売却の成功に役立つサービスをご紹介します。

4-1.複数の不動産会社に査定を依頼する

不動産の売却は物件の価格査定から始まります。(すでに信頼できる不動産会社がある場合は別として)不動産会社に査定を依頼する場合は、特定の1社だけでなく複数社に査定依頼をする=相見積もりを取るのが基本です。

相見積もりを取ることで広い視野で相場観をつかむのにも役立ちます。例えば一括査定サイトを利用すると一度の情報入力で複数社への査定依頼を出すことができます。その他にも個別に収益物件の査定を行っている不動産会社などに査定依頼を出すのも有効です。

4-2.入居率が高いうちに売却を検討する

入居率(稼働率)が高い物件は投資価値が高いと判断されるため、入居率が高いうちに売却するほうが高値売却の可能性が高くなります。
入居率が下がってしまい、空室が目立つ状況は売却価格の下落要因になります。

収益力がある物件の売却タイミングについては「売却益が年間キャッシュフローの5倍以上」という目安を上記で示しました。考慮しながら最良の選択をしてください。

4-3.エンジニアリングレポートを作成して信頼度を高める

収益物件に対する技術的な評価を第三者が行い、まとめたものを「エンジニアリングレポート(ER)」といいます。エンジニアリングレポートが評価するのは、主に以下の項目です。

・品質、性能の低下によって発生する費用
・自然災害で発生すると考えられる損失
・環境リスク対策の費用
・建築基準法などに適合するための是正費用

これらは収益物件を維持する上で考えられる物理的なコストであり、それがどの程度必要になるかを明らかにしているのがエンジニアリングレポートです。買主にとっては購入後のコストを把握しやすいため、エンジニアリングレポートがあると信頼醸成にも役立ち、売却に有利になります。

4-4.売却開始時期を戦略的に決める

不動産の流通には繁忙期があります。人事異動や進学、就職など人の移動が多くなる4月に向けて、毎年1月から3月は不動産の売買が活発になります。その時期は買主候補が多くなるため、戦略的に売却時期を決めるのであれば、この繁忙期に向けて前年の12月から年明けの1月頃に売却活動を始めるのが効果的と考えられます。

4-5.物件のクリーニングや手入れ、小規模な修繕を怠らない

例えば自動車を手放す時、査定価格が高くなるよう、多くの人は洗車や車内清掃をします。

不動産売却も同様で、きれいな物件のほうが集客力が高くなると考えられます。前所有者がどんな物件管理をしてきたのかを現在の状態から推測する人も多いはずです。売却活動を始めるタイミングだけでなく、あらかじめ物件のクリーニングや手入、小規模修繕には念を入れておいたほうがよいでしょう。

4-6.価格交渉には柔軟に応じ、早期売却を目指す

売主は少しでも高く売りたいと考え、反対に買主は少しでも安く買いたいと考えます。そのため、ほとんどの売買交渉では買主から値引きの打診があります。大幅な値引きをしてしまうと出口戦略に狂いが生じますが、ある程度の値幅までは柔軟に交渉に応じることもひとつの手段です。

この理由として、不動産売却において情報の鮮度が重要なことが挙げられます。
売却後に最も問い合わせが入りやすいのは、売り出した直後です。時間が経つごとに問い合わせの件数は減っていきます。
長期にわたって売りに出され続けている物件に対して、買主候補は「売主が強気なのではないか」との印象を持ちやすくなり、「待っていればそのうち値下げになる」という心理につながり、ますます高値売却が困難になります(このような長期間売りに出されたままになっている物件を「出回り物件」と呼びます)。

こうした負のスパイラルに陥ってしまうと売却が難しくなってしまうため、値引き交渉にも柔軟に応じて早期売却を目指すのが、最終的に最も高値での売却につながるセオリーであるといえるでしょう。

5. まとめ

不動産投資の成否を決める最後の重要なプロセス、売却について必要な知識を順に解説しました。
・重要なのは、コスト、売却タイミング、そして戦略である
・こうした戦略をプロに任せたい場合に役立つ便利なサービスもある
情報を有効活用して大切な所有物件の売却を成功させましょう。

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