賃貸経営は「家賃収入と税金の関係」をしっかり把握することが重要です。また、ベテラン大家さんでも経費計上できる項目を見落としている事もあるかもしれません。ここでは家賃収入と税金の仕組み、不動産収入や経費の対象になる項目、税金の種類などをテーマに解説します。
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まず、賃貸経営の初心者が注意したいのは、「家賃収入そのものに税金がかかるわけではない」という点です。所得税などがかかるのは、家賃収入から賃貸経営に必要な経費を差し引いた手残りである「不動産所得」に対してです。国税庁で定義している不動産所得の計算方法は次の通りです
総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額
つまり、同じ収入でも経費が多くなるほど所得を抑えられる(=税金を抑えられる)というわけです。上記の公式は賃貸経営をしていく上で重要です。なお、給与所得者や他の事業をしていて不動産所得以外の所得を得ている場合、最終的な課税所得金額は次のような形で決まります。
最終的な課税所得金額 = 他の事業や給与などの所得 + 不動産所得 − 各種控除
家賃収入にかかる税金は、利益が出たときだけかかるものと、利益に関係なくかかるものがあります。賃貸経営をしていく上では、この点も必須の知識です。詳しくは後述しますが、ここでは2種類の税金があることを意識してください。
個人事業主の場合 | 法人の場合 | |
---|---|---|
利益が出たらかかる税金 | ・所得税 ・個人住民税(所得割の部分) ・事業税(ただし290万円の控除あり) |
・法人税 ・法人住民税(法人税割の部分) ・法人事業税 |
利益に関係なくかかる税金 | ・消費税(売上1000万円超の事業者) ・個人住民税(均等割の部分) |
・消費税(売上1000万円超の事業者) ・法人住民税(均等割の部分) |
家賃収入のあるオーナーは必ず確定申告や決算などの適切な税務処理をしなければなりませんが、例外もあります。会社員として働いていて不動産所得(家賃収入などから経費を差し引いたもの)が20万円以下の場合は、確定申告をしなくても大丈夫です。
家賃収入以外にも不動産収入になる項目は下記のように数多くあります。確定申告(法人は決算)のときに、すべての項目が含まれているか綿密にチェックをしましょう。
これらの賃料収入は全額がそのまま不動産収入になります。
所有している土地や物件に設置してある自販機や携帯基地局アンテナなどから得られる収入も不動産収入になると考えられます。
更新料の名目で受け取るお金も「不動産収入に含まれる」と国税庁では定義しています。
礼金・敷金・保証金など名称に関わらず、「後日返金を要しないもの」は不動産収入に含まれると国税庁では定義しています。同じ礼金・敷金・保証金でも後日返金される可能性のある“担保”のような性格のものは収入に含まれません。
共益費などの名目で入居者から受け取る電気代・水道代・掃除代なども不動産収入になるとして国税庁では定義しています。
家賃や共益費とともに入居者から受け取る「管理費」も不動産収入に含まれると考えられます。管理費と混同しやすい項目に、不動産管理会社に支払う「委託管理費」があります。こちらは経費扱いになるため注意が必要です。
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家賃収入から差し引ける経費はかなりの数があります。下記で紹介しているだけでも10項目以上あります。これらの経費項目は「国税庁が経費になると定義している項目」と「経費として考えられる項目」に大別できます。それぞれを確認していきましょう。
国税庁では不動産収入を得るための必要経費として、下記の項目を具体的に挙げています。
・固定資産税
固定資産税とは、その年度の1月1日時点で土地や建物などの固定資産を所有する人が払う地方税のことです。国税庁の解説で「業務用の固定資産税は必要経費になる」と明記しています。なお、同じ税金でも所得税や住民税は必要経費になりません。
・損害保険料
不動産投資に関わる代表的な損害保険料は、火災保険やこれに伴って加入することが可能な地震保険です。これら以外にも施設賠償責任保険があります。所有物件が壊れて住人や通行人に怪我をさせてしまったリスクなどに備えるための保険です。また最近では「孤独死保険」も注目されています。入居者の孤独死が発生した場合の損害リスクを抑えるための保険です。これらの保険の経費も経費計上が可能と考えられます。
・減価償却費
所有する不動産のうち、年月の経過とともに価値が失われていく建物や住宅設備が「減価償却費」の対象です。これらは購入時に一度に経費計上するのではなく、使用可能期間(耐用年数)に沿って分割して経費計上していくのが原則です。なお、経年劣化のない「土地」については減価償却費の対象になりません。
・修繕費
所有する賃貸物件の共有部分・室内・住宅設備などの維持管理や修理に使われた費用は、「修繕費」として経費計上できます。ただし用途を変えたり性能が高くなったりした場合(これを資本的支出という)は、全額が経費計上できるわけではありません。修繕費についてはこの他にも細かい取り決めがあるため、税理士などの専門家に相談の上で経費計上する方が安心です。
・ローンの利子
国税庁では「業務のための借入金の利息は必要経費になる」としています。当然ながら、賃貸物件を購入するために組んだ不動産投資ローンの利子は必要経費になります。
国税庁の解説では、上記で紹介した項目以外にも「不動産収入を得るために直接必要なもの」は経費計上できるとしています。このことを踏まえると、次のような項目は経費計上しても問題ないと考えられます。
・管理委託費
入居者対応などの目的で管理会社に支払う「管理委託費」は、賃貸経営をするのに直接必要な費用なので全額が経費計上できると考えられます。
・広告宣伝費
空室が発生した際、入居者募集の広告のために要した「広告宣伝費」も全額が経費計上できると考えられます。
・修繕積立金
将来の大規模修繕のために積み立てている修繕積立金は、実際に修繕した年に経費計上するのが原則です。しかし、国税庁では「返還義務がない」「他の目的に流用されない」などいくつかの要件を満たせば、管理会社に支払った年の経費に算入しても差し支えないと解説しています。
・税理士や行政書士への手数料
個人事業主の確定申告や法人の決算は賃貸経営に関わるものなので全額が経費計上できると考えられます。
さらに国税庁では、不動産収入を得るために直接必要なもので「家事上の経費と明確に区分できるもの」は経費計上できるとしています。家事関連費とは、ビジネスとプライベート両方に関わる費用のことです。一例としては次のような項目が考えられます。
・書籍代、新聞代
すべての本や新聞代などが経費計上できるわけではありません。「家事上の経費と明確に区分できるもの」という国税庁が挙げる条件に沿って考えていきましょう。 例えば、賃貸経営をテーマにした業界新聞・業界誌・本などは家賃収入を得るために直接的であり、なおかつ、ビジネス目的が明確なので経費計上が認められる可能性が高いと考えられます。しかし、一般ビジネス関連になると線引きがあいまいになり、さらにエンタメ系のジャンルになると賃貸経営に関わるものはごくわずかといえるでしょう。
・インターネット契約料や携帯料金など
プライベート用、ビジネス用を分けているなら問題ありませんが、共用している場合の線引きはかなり難しくなります。「按分(半分を経費計上)すれば否認されない」といった考え方もありますが、国税庁の基準に沿えば、家事上の経費と明確に区分できなければ税務調査の否認リスクがあります。
・自宅家賃
自宅を事業所として併用している人は、家賃の一部を経費計上することも可能です。このとき、「按分にすれば否認されない」「家賃の3分の1程度なら経費計上できる」といった根拠のない考え方もあるようですが、家事上の経費と明確に区分するという国税庁の基準にあてはまりません。ビジネスとプライベートの線引きを明確にする方法としては、どれくらいの“面積”をオフィスとして使っているか、あるいは、どれくらいの“時間”を仕事に使っているかなどが根拠になると考えられます。
・出張費
入居者対応のため、業者との打ち合わせのためといった直接的な関わりがある出張費は経費計上できます。ただし、家族旅行のついでに出張をしたといった場合は、経費計上しても否認される(全額または一部)可能性があります。
ここで紹介した項目以外にも経費計上できる項目はあるでしょう。ポイントは「家賃収入を得るために直接必要なこと」「ビジネスとプライベートの線引きが明確なこと」です。税務調査のときに担当者が納得できるよう、合理的に説明できれば経費計上が可能です。
自宅を事業所として使っている場合、自宅ローンの一部を減価償却費として経費計上することも可能です。しかし、細かい要件があるため税理士に相談した上で計上するのが望ましいでしょう。概要は下記の通りです。
まず購入した自宅のうち、減価償却費として計上できるのは建物部分のみになります。建物のうち減価償却として経費計上できるのは、事業用として使っている割合のみです。
ただし 住宅ローン控除を利用している場合は、「2分の1以上が専ら自己の居住の用に供するもの」というルールがあります。つまり、自宅ローンの建物分のうち2分の1以上を減価償却費として計上すると、住宅ローン控除が使えなくなるということです。もし減価償却費として計上しているにも関わらず住宅ローン控除も利用していると、二重計上になるため税務調査で否認されるリスクがあります。
・所得税
所得税は所得金額が多くなるほど税率も高くなっていきます。全部で7ランクの税率があり(下記の速算表参照)、一例では所得金額が195万円以下であれば税率は5%ですが、4,000万円を超えると45%にもなります。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
上記と合わせて令和19年までは、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)も納付が必要です。
・個人住民税
個人住民税は住んでいる自治体へ支払う税金です。自治体の行政サービスに必要な経費を各個人の所得に合わせて負担することを目的にしています。支払うのは1月1日現在、住所のある自治体です。
個人住民税は前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と、一律で課税される「均等割」の2つの負担があります。その年度の確定申告が赤字になれば、「均等割」のみの負担になります。
個人住民税の一例では東京都民の「所得割」は都民税4%、区市町村民税6%、合わせて10%になります。一方、「均等割」は都民税が1,500円、区市町村民税が3,500円です。
※均等割は令和5年度までの加算含む
これらの個人住民税は、会社員であれば前年の所得に応じて6月から翌年5月までの毎月の給料から天引きされます。自営業者であれば納税通知書が自治体から送付されます。
・個人事業税
個人事業主は「個人事業税」の対象にもなります。税率は業種(計70種)によって3~5%に設定されています。例えば、不動産貸付業は5%、水産業は4%、マッサージに関わる事業者は3%といった具合です。
ただし個人事業税には290万円の事業主控除がありますので、必然的に所得が年間290万円以上の不動産所得(経費を差し引いたもの)がある人だけが納税対象になります。営業期間が1年未満の場合は月割額で算出します。なお、所得税の確定申告をした人は個人事業税の申告を改めてする必要はありません。
・消費税 ※法人共通
基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合、個人事業主、法人問わず納税義務が発生します。基準期間とは課税される年度の前々年のことです。ただ、基準期間の売上高が1,000万円以下の場合も、前年の1月1日~6月30日(特定期間といわれる)の売上高が1,000万円超だと消費税の課税事業者になります。一方で、売上高1,000万円超の事業者でも新規で事業をはじめた場合、設立から2期目までは消費税の免税事業者になります。
・法人税
国におさめる国税です。家賃収入にかかる法人税は資本金や法人形態によって異なりますが、資本金1億円以下の普通法人の場合、年800万円以下の所得に対して 15 %、年800万円超の所得に対して 23.20 %です。
・法人住民税
法人住民税は事業所を置く自治体におさめる地方税です。「法人税割」と「均等割」という2種類の税を合計した金額を納税します。「法人税割」は、法人税額(税額控除前の税額)に決まった税率を掛けて割り出します。東京23区に事務所がある法人の税率は7%です。 ※令和元年10月1日以降に開始する事業年度のもの 一方、法人住民税の「均等割」も自治体によって異なりますが、一例では東京23区に事業所があり、資本金1,000万円以下、従業員50人以下の場合は年間7万円になります。
・法人事業税
法人事業税は事業所を置く自治体におさめる地方税です。課税標準額(所得など)に税率を掛けて算出します。税率は資本金・年収入などによって異なりますが、一例では東京23区に事業所があり、資本金1億円以下の普通法人で年所得額が2,500万円を超えない場合は次の通りになります。
年所得 | 税率 |
---|---|
年400万円以下の所得 | 3.5% |
年400万円を超え 年800万円以下の所得 | 5.3% |
年800万円を超える所得 | 7.0% |
※令和元年10月1日以降に開始する事業年度のもの
ここでは不動産所得にかかる税金、家賃収入から差し引ける経費などを中心に解説してきました。税金・収入・経費いずれもたくさんの種類があり、それぞれに決まったルールや注意ポイントがあることがおわかりいただけたでしょうか。
最近では、専門知識のない人でも確定申告や決算ができる会計ソフトが普及しています。こういったツールを使えばオーナー自身で帳簿を作成することが可能です。一方で、税金・収入・経費は種類が多くルールも膨大です。「計上する経費項目が漏れてしまった」「適切な会計ができなかった」ということがないよう、税理士などの専門家のサポートを受けながら確定申告・決算をするのが賢明でしょう。