これから不動産投資を始めるとなったら、家賃収入と消費税の関係は気になるところでしょう。この記事では、家賃収入と消費税の関係、課税・非課税の区別、消費税を払うタイミング、インボイス制度が不動産賃貸業に与える影響などについて解説します。
事業用賃貸の家賃収入には消費税がかかりますので、物件を事務所や店舗として貸し出す可能性のあるオーナーは、新たにはじまるインボイス制度への備えを検討することをおすすめします。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
サービスの利用の対価には本来、消費税がかかるのが原則ですが、社会政策的な配慮から一部のサービスには消費税が課税されないものがあり、居住用物件の家賃収入もそのひとつです。消費税導入当初は居住用、事業用の区別なく消費税の課税対象とされていましたが、居住用物件の家賃は人々が生活する上で不可欠の支出であることから、1991年以降は非課税とされています。
しかし、住宅用の家賃収入とするためには一定の条件があります。また、礼金・更新料・管理費・共益費などの扱いについても知っておく必要があります。そこで、本章ではこれらについて簡単に解説していきます。
居住用物件の家賃収入は原則として消費税がかかりませんが、そのためには以下の2つの要件を満たしていることが必要です。
ただし、賃貸借契約書がなく居住の用に供することが書類上明示されていない場合でも、居住の実態からみて居住用であることが明らかであれば非課税となります(2020年度税制改正以降)。
一方で、ホテルやウィークリーマンションなどの利用料は、たとえ1カ月以上滞在する場合でも、その居住の実態から消費税の課税対象になるので注意が必要です。
敷金は、家賃の滞納や原状回復費用などが発生した際に備えて、オーナーが担保として預かっておく性質のものです。滞納や故意・過失による原状回復の必要が生じた時には、その分の金額を差し引いて賃借人に返還されます。
それに対して、礼金はオーナーに対するお礼として支払うものなので、敷金とは異なり、返還されるものではありません。また、更新料は、賃貸借の契約期間満了後も継続して住み続ける際に、入居者がオーナーに支払うものです。
居住用物件では、これら敷金・礼金・更新料は家賃と同様の性質を持つものと考え、非課税となります。
管理費や共益費は、入居者が住居として利用するために必要な費用であると考えられているため、家賃と同様に非課税となります。
なお、電気やガス、水道の使用料が家賃や共益費に含まれている場合も非課税となりますが、家賃や共益費とは別の名目で一定額、もしくは使用実績に応じて請求する場合には課税されるので注意が必要です。
住居とは別の貸し付け対象と考えられる施設やサービスなどは、家賃という名目で受け取ったとしても課税の対象となるので注意が必要です。具体的には、駐車場やプール、温泉施設などは、通常は消費税が課税されます。
ただし、利用者が入居者に限られている場合や、すべての入居者が利用できる状態である場合など、住居との結びつきが強いと判断される場合には非課税となります。
また、家具・電気製品や倉庫の使用料などは住居との一体性が認められるので、最初から住居に備え付けられていれば非課税ですが、入居者の選択によって設置された場合には課税の対象となります。
詳細は、国税庁ホームページ「集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定」を参照してください。
居住用物件の家賃収入には消費税がかからないと説明しましたが、一方で事業用賃貸の家賃収入には消費税がかかります。同じ物件であっても、賃貸の目的が居住用であるか事業用であるかによって消費税が課税されるか否かが変わってくるので注意が必要です。
事業用賃貸の家賃収入とは、物件を会社の事務所や店舗、倉庫などとして、事業用として利用するために賃貸し得られる収入のことをさします。
土地と建物を一括して賃貸するケースでは、注意しなくてはならないことがあります。土地に関わる取引には消費税がかからないのが原則ですが、土地と建物を一括して賃貸する際には、土地の部分にも消費税が課税されることになります。
しかし、賃貸の対象が土地だけで、土地の賃借人が借地上に建物を建てて事業用に使用するのであれば、貸し出した土地の賃貸料には消費税がかかりません。
課税売上額が1,000万円を超えると、消費税の課税業者となります。課税売上額とは、消費税が課税されることになる売上高のことで、事業用賃貸の家賃収入がこれに該当します。ただし、居住用物件の家賃収入であっても、賃貸期間が1カ月未満であれば課税売上額に含まれますので気を付けなくてはなりません。
そのため、不動産賃貸収入では、事業用の家賃収入と賃貸期間1カ月未満の住宅用の家賃収入の合計が1,000万円超となった時に課税業者となり、消費税を納付する必要が生じることになります。反対に、課税売上額が1,000万円を超えなければ、消費税を納めなくてもよいということです。
では、居住用と事業用が一体になった店舗併用型マンションの場合はどのように考えればよいのでしょうか?
たとえば1階が店舗、2階以上が居住というようにはっきりと区別できる場合などは、店舗からの家賃収入は課税、住居からの家賃収入は非課税というように異なる処理を行います。
しかし、主に住居として使用しながら事務所や店舗としても使用しているというケースでは、住居として扱うことになり消費税は課税されません。住居として使用しているかの判断は、上記で説明したように賃貸契約書上で使用目的が居住用となっているか、契約書がない場合には居住の実態が明らかであるかどうかを基に行われます。
納める消費税額の計算方法は、少々複雑です。消費税の計算では、課税売上に関する消費税から課税仕入に関する消費税を差し引きます。この差額が納めるべき消費税となります。
なぜこのような計算をするのかというと、仕入れの中にも消費税の課税対象になるものとならないものがあるので、それらを分類する必要があるからです。これを仕入税額控除といいます。
また、課税仕入と課税仕入以外を分ける方法には、原則課税という方法と簡易課税という方法の2種類があります。以下にこの2つの消費税額の計算方法を簡単に解説します。
一般的な消費税の計算方法を原則課税といいます。これは、仕入税額控除の対象である課税仕入れとそれ以外の仕入れにひとつひとつ分類して計算する方法です。
仕入れや通信費、水道光熱費などの経費は課税仕入れとなりますが、人件費や税金の支払いなどは課税仕入れにはなりません。それぞれの取引の性質によって仕入税額控除の対象になるかどうかを判断する必要があるため、取引の種類が増えると計算が煩雑になって手間がかかるのがデメリットといえます。
以下のケースで原則課税による消費税の納付額を計算してみましょう。
委託管理費:80万円
通信費:20万円
消耗品費:20万円
共用部分の水道光熱費:20万円
課税仕入れ合計:140万円
※消費税率:10%
↓
1,000万円×10%-140万円×10%=86万円
簡易課税とは、課税売上高に一定のみなし仕入率を乗じることで、課税売上高に応じて一律に仕入控除税額を計算する方法です。みなし仕入率は事業の種類ごとに40~90%の範囲で6種類に分かれており、不動産業のみなし仕入れ率は40%で計算されます。
上記のケースで簡易課税による消費税の納付額を計算すると、以下の計算式となります。
原則課税で計算した納付額は86万円でしたが、簡易課税で計算した場合には60万円となります。原則課税で計算する場合と簡易課税で計算する場合のどちらだと納める消費税額が少なくて済むのかはケースバイケースですが、不動産業のみなし仕入れ率が40%ですので、課税仕入れ額が課税売上高の40%以下であれば簡易課税で計算するほうが有利だと考えられます。
簡易課税は原則課税で計算することによる煩雑さを解消するために設けられている計算方法ですが、簡易課税によって仕入税額控除の計算をするには、以下の条件について確認しなければなりません。
もし課税売上高が5,000万円を超えた場合には、届出書を提出していても原則課税が適用されます。ただし届出書の効果が消滅するわけではないので、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出するまでは、課税売上高が5,000万円以下であるならば簡易課税が適用されます。
事業用物件の家賃収入があり課税業者になっても、原則として1年目と2年目は消費税の支払いが免除されるので、支払うのは2年後のタイミング(3期目の消費税)です。
ただし1期目の課税売上高が1,000万円以下でも、2期目の1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を超える場合は、2期目から課税されます。また、資本金1,000万円以上の法人は1期目から課税されます。
個人事業主の消費税の納付期限は、対象年度の翌年3月31日までです。法人の場合には原則として決算日の翌日から2カ月以内が納付期限ですので、3月決算の法人であれば決算日の2カ月後である5月31日までに申告と納付を行わなくてはなりません。消費税を納付する必要がある時には、納付期限に注意しましょう。
最後に、令和5年から新しく始まるインボイス制度について簡単に解説し、制度開始に向けてオーナーが対策できることについても触れていきます。対策が必要となるオーナーは、この記事を参考にしてインボイス制度に備えてみてください。
インボイス制度とは、別名「適格請求書等保存方式」のことで、令和5年10月1日から開始されます。適格請求書(インボイス)とは、売り手が取引の相手方に適用税率や消費税額等を正確に伝えるためのもので、登録番号や適用税率、消費税額等を記載した請求書をさします。
取引相手から請求されたときには、売り手側はインボイスを交付し、買い手側は交付されたインボイスを保存することで、消費税の仕入税額控除を受けることが可能になります。ただし、インボイスを発行するためには適格請求書発行事業者になる必要があり、登録申請書を提出して登録を受けなくてはなりません。
インボイス制度導入の目的は、現状として消費税を受け取っても納付しなくてもよいとされ、消費税分が利益になっている免税業者への対策であると考えられています。インボイス制度が導入されると、適格請求書(インボイス)以外の請求書では仕入税額控除が受けられなくなるため、サービスの受け手が消費税の計算で不利になることになります。
それによって、取引の相手方が免税業者との取引を控えるようになる可能性があるため、免税業者が適格請求書発行事業者となり消費税を納めることが期待されています。
インボイス制度に備える必要があるオーナーとは、事務所や店舗など事業用賃貸の家賃収入があり、入居者が課税事業者である場合です。インボイスを発行できない免税事業者の物件を賃借すると仕入税額控除ができなくなることから、適格請求書発行事業者以外との取引を避ける可能性が出てきます。
その際に、制度開始に向けてオーナーができる対策としては、
という2つの方向性が考えられるでしょう。事業用賃貸物件のオーナーは、入居者のニーズを勘案しながら今後の対応を考えることをおすすめします。
家賃収入と消費税の関係や、課税・非課税の区別、消費税を払うタイミング、インボイス制度が不動産賃貸業に与える影響などを解説しました。居住用の賃貸物件の家賃や、課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税を払う必要はありません。
しかし、課税売上高が1,000万円以下であっても、事業用賃貸の家賃収入があり、入居者が課税事業者である場合には、インボイス制度への対策が必要になります。該当する可能性のあるオーナーはインボイス制度に備え、ほかの不動産投資家に遅れをとらないようにしていきましょう。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。