2023.01.25
トラブル対応

【大家向け】原状回復のトラブル事例とその防止策を紹介!

不動産投資を行う上で特に大きなトラブルへと発展しがちなのが、原状回復によるものです。本記事では、原状回復によるトラブルを防ぐ方法や、具体的なトラブル事例について解説します。原状回復に関する知識をしっかり身につけることで、不動産投資の成功を目指してみてください。

【著者】水沢 ひろみ
【監修者】弁護士 森田 雅也

 

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原状回復とは?

賃貸借契約が終了した場合、原則として賃借人には原状回復義務があるとされています(民法621条)。ただし、この賃貸借契約は賃貸人と賃借人間の合意で自由に締結できるため、原則と異なる取り決めを行うことが可能です。

また、「原状回復」という言葉の解釈も受け取る人によって異なるため、賃貸住宅の退去時には原状回復を巡って賃貸人・賃借人間でトラブルになる事例が多く見られます。これらのトラブルを回避するために、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定めています。

このガイドラインによると、原状回復とは、賃借人が居住したり使用したりすることで発生した建物の価値が減少することの中でも、

  • 賃借人の故意や過失、善管注意義務違反に基づくもの
  • 通常の用法を超えるような使用によって生じた損耗や毀損

を回復することとされ、そのための費用は賃借人が負担すべきとしています。

一方で、経年変化や通常の使用によって生じる損耗等を修繕するための費用は賃料として回収されているものであり、原状回復費用には含まれないという考え方を示しています。

ここで注目すべきは、原状回復とは「賃借人が建物を賃借した当時の状態に戻して返却することを意味するのではない」という考え方を、ガイドラインが明らかにしたということです。

借主・貸主負担になる具体例

「経年変化や通常の使用によって生じる損耗等」は原状回復の対象にならないということが理解できても、どういう場合に貸主(借主)負担になるのかという具体的な判断には迷うケースがあるでしょう。ここでは、家の箇所別にいくつか具体例を挙げて紹介しますので、判断する際の参考にしてみてください。

貸主負担の例 借主負担の例
・通常の使用によって劣化した際の畳替え
・家具の設置後のフローリング等のへこみの修復
・通常の使用法で生じた畳やフローリングの色落ちや変色
・フローリングを再生するためのワックスがけ
・過失でカーペットを汚した際の手入れ不足によって生じたシミやカビ等
・冷蔵庫下のカビを放置したことで生じた床の損傷
・雨が吹き込む等、入居者の不注意が原因で生じたフローリングの色落ち
・引っ越し作業等で生じた傷
貸主負担の例 借主負担の例
・エアコンを設置した跡
・テレビや冷蔵庫等電気製品を設置した際に生じた壁の変色
・ポスターやカレンダー等を貼った後の壁面の跡
・自然の劣化で生じたクロスの変色
・クーラーの水漏れによる壁の腐食
・入居者の手入れが悪いために付着した台所の油汚れ等
・入居者が放置したことから、結露によるシミやカビが壁を損傷するほどになった場合
・下地ボードの張り替えが必要となる程度の釘穴等
・タバコのヤニや臭いによって、壁の変色や臭いの付着がある場合
・落書き等、故意によって毀損した場合
・入所者が天井に設置した照明器具の跡
設備その他
貸主負担の例 借主負担の例
・入居者が通常の清掃をした後に行うハウスクリーニング費用
・入所者に落ち度があった訳ではない場合の鍵の取り換え
・設備の寿命によって生じた故障の修理や取り換え費用
・入居者が手入れを怠ったことによる水廻りのカビ等の修復
・不適切な使用法や手入れによって生じた設備の故障の修理費用
・故意や過失によって鍵を紛失したり壊したりした際の取り換え費用

原状回復のトラブル事例

ここでは、原状回復のトラブルとして実際に発生したケースを紹介します。

高額なハウスクリーニング代を請求され、納得できない(借主側)

原状回復にあたって、「ハウスクリーニング代として高額な費用を請求されたが、納得できない」と借主側が主張するトラブル事例は多いです。

ハウスクリーニングの相場は、ワンルームなら15,000~25,000円程度、2DKや2LDKでは30,000円~60,000円程度が一般的です。故意や過失によって生じたシミ・カビが原因で特別なハウスクリーニングが必要な場合を除いては、相場からかけ離れた額の費用を支払う必要はないとされています。

クロスの全面張り替えを請求されたが、応じる必要はあるのか?(借主側)

「クロスの全面張り替えを請求されたものの、本当に必要なのか」と借主側が主張するトラブル事例もあります。

通常使用によって変色したクロスの張り替えは原状回復費用に含まれないため、原則として借主に負担させることはできません。借主の故意や過失によって生じたシミや破損は借主に原状回復の責任がありますが、この場合に原状回復の対象となるのは、シミになったり破れたりしている箇所のみです。

例外的に、クロスの一部分のみの張り替えでは全体とのバランスが取れずに部屋の価値が下がる等の特別の事情があれば、クロスの一面の張り替えが可能なケースもあります。しかし、このような事情がないにも関わらずクロス全体の張り替えを要求することはできないと考えられます。

ペット不可という条件だったものの、入居者が室内でペットを飼い、壁がキズだらけになった(貸主側)

貸主側が「ペット不可」という条件で部屋を貸し出ししていたものの、入居者がペットを飼っていたというトラブルです。ペットを飼ったことで生じた壁やフローリング等のキズ・汚れは、通常の使用で生じたものではないことは明らかなので、借主に原状回復の責任があります。

大家向け|原状回復のトラブルを防ぐ方法

原状回復に関してはガイドラインで指針が示されているものの、実際のところ判断が難しかったり、それぞれの価値観が大きく食い違うといったケースもあったりするため、大きなトラブルに発展するリスクは常に考えておく必要があります。前章のようなトラブルを防ぐために大家が対策したいこととして、以下3つのポイントを紹介します。

特約で借主負担分を明記する

ガイドラインに示されているのは、賃貸借人間に特約が定められていない場合の原則的な考え方ですので、両者が合意して特約が成立していれば、その特約が優先されます。
ただしその際には、

  • 具体的な負担の範囲を明確にすること
  • 負担する金額を明確に示すこと
  • 借主が特約の存在を理解し、合意していること
  • 特約が、平均的な損害の額を超え、賃借人の利益を一方的に害すると考えられる内容ではないこと

に注意し、原状回復時のトラブルを避ける必要があります。

たとえば、ハウスクリーニング費用は原則貸主負担と考えられていますが、賃貸借契約の際に特約で定めれば借主負担とすることも問題ありません。その際には、一般的に妥当と考えられる範囲の金額を具体的に契約書には明示し、契約時に借主の意思確認を行うことがトラブルを防ぐためのポイントといえます。

◆特約についてはこちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
賃貸借契約書の特約条項とは?記載されやすい内容例と有効性

入居時の状況を書面で報告してもらう

ガイドラインでは、入退去時にチェックリストを作成して、賃貸借人両者立会いの下に部屋の状況を細かくチェックすることが必要であるとされています。

ただし、それが難しい場合には、入居者に入居時の状況を書面で報告してもらうことが有効だと考えられます。入居時からキズになっている部分や故障している箇所等があるのであれば、あらかじめその状況を報告してもらうことで責任の所在が明らかになるので、後のトラブルを避けることができます。

たとえば賃貸人としては、仮に賃借人が「当初から存在していた」といった主張をしてきても、チェックリスト作成時に賃借人から報告を受けていないキズや故障であればその主張は難しくなることから、トラブル回避につながる効果が期待できます。ガイドラインに例示されている「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」を参考に、チェックリストを作成して、記入してもらうとよいでしょう。

入居時と退去時の状況を記録しておく

入居時と退去時の状況を写真やビデオ等で記録しておくこともおすすめです。映像で残しておけばお互いの記憶違いを避けることができ、入退去時の状況を比べることが可能になります。

損耗があるか・ないかという二者択一ではなく、どの程度の損耗があったかを視覚的に確認できるので、お互いの意見が対立した際にはそれを基に話し合いを進めやすくなることが期待できます。

原状回復のトラブル防止に重要な「入居年数」「経過年数」の考え方

上記で紹介したトラブル防止策もありますが、そのほかにも大家として覚えておきたいのが「入居年数」と「経過年数」を考慮する必要がある点です。本章ではこれらの点についてもう少し詳しく解説します。

ガイドラインでは、経年変化や通常の使用によって生じる損耗等の修繕費用は、原状回復費用には含まれないとしています。ですから入居者が原状回復費用を負担する際には、原則としては経年変化に当たる部分の費用を除いた額を支払えばよいことになります。

しかし現実には、入居者の負担とされる費用の中で、どこまでが経年劣化による部分であるのかといった区別は困難です。そこで、建物等の減価償却の考え方を参考にして、建物や設備等の経過年数に応じて、入居者の費用負担の割合を減少させる方法が考えられます。

とはいっても、それぞれの設備の補修や交換の時期を、賃貸人・賃借人の両者が正確に把握することは難しいケースも多いことから、ガイドラインでは「経過年数」に代わって「入居年数」を基にして経年劣化部分の算定を行うことができるとしています。その際に入居時点の設備等の価値が100%ではない場合には、入居時点での価値を修正した上で、入居年数に応じた価値の減少を考慮して費用負担額を算定することになります。

参考:国土交通省住宅局 – 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(16~17ページ)

なお注意点として、部分補修が可能な部位(フローリングの一部等)や畳やふすま等の消耗品としての性質が強いものは、経過年数を考慮する必要はなく、全額賃借人負担で問題ないと考えられています。

原状回復に関する知識を身につけて、万全のトラブル防止策を

不動産の原状回復でトラブルを防ぐ方法や、具体的なトラブル事例について解説しました。何をもって原状回復と考えるかは人によって判断が分かれやすいため、原状回復に関するトラブルは従来から多発していました。それを受けて国土交通省がガイドラインを設けましたが、さまざまな事例があるため、具体的なケースでは判断が難しい場面もあります。

この記事で紹介したように、

  • 特約で借主負担分を明記する
  • 入居時の状況を書面で報告してもらう
  • 入居時と退去時の状況を記録しておく

など、オーナー側が事前にしっかり対策をとっておくことが大切です。この記事を参考にして、不要なトラブルを避けて効率的な賃貸運営を行い、不動産投資を成功に導いてみてはいかがでしょうか。

【監修者】森田 雅也

東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

 

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