【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介
不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。
著者 渡邊 浩滋
繰延べとは、支払時期の先延ばしをする効果をいいます。つまり、今払うべき税金を先送りにするということです。税金の繰延べの代表例として、短期前払費用があります。短期前払費用は、「所得税基本通達37‐30」に規定があります(以下、要約)。
○一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていないもの(前払費用)を
◯その支払った日から 年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において
◯継続して、その支払った年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
たとえば、火災保険(保険期間1年)を考えてみましょう。
原則は、その年に対応する期間の保険料分のみを必要経費に計上することになります。
【例】3月1日に年12万円(年払い)の保険に加入した場合
3月から12月までの期間は10ヵ月になるため、期間按分で10ヵ月分の計算をします。
・12万円×10月/12月=10万円
2万円は、翌年の期間に対応するため、翌年の経費に回されます。翌年の3月に、継続して年払いの保険料を支払ったときには、3月から期間が開始されるため、その年の経費とする金額は、12万円×10月/12月=10万円と計算します。前年から繰り越された2万円がありますので、年間で経費にできる合計金額は、2万円+10万円=12万円になります。
これを、短期前払費用とすれば、1年目から、12万円を全額その年の必要経費にすることができるのです。この場合、毎年継続して適用することが条件となるため、翌年以降も全額必要経費にしなければいけません。一見すると、得したように思いますが、この保険料を4年間かけた場合(5年目の2月末で解約)を考えてみましょう。
▽原則処理と短期前払費用処理の場合の経費計上できる金額の比較
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 合計 | |
原則の処理 | 10万円 | 12万円 | 12万円 | 12万円 | 2万円 | 48万円 |
短期前払費用 | 12万円 | 12万円 | 12万円 | 12万円 | 0万円 | 48万円 |
1年目は短期前払費用の方が、2万円多く計上できますが、5年目は、2万円少なく計上されることになります。
つまり、1年目で払わなくてよかった税金が、5年目に多く払うことになるということです。さらに、トータルで経費にできる金額48万円というのは変わりません。支払っている金額の合計が48万円なので、当然です。これが税金の繰延べです。
もう一つ、税金の繰延べの代表例として、(生命)保険があります。
個人で生命保険をかけていても、生命保険料控除で最大4万円が所得控除になります。会社で生命保険をかけると、保険の種類等によっては全額損金になるものもあります。積立型の保険に加入すれば、保険料の半分を経費としながら、現金を貯蓄できます。なんとなく、経費になって節税ができるような感覚になりますが、これも税金の繰延べです。
保険に入らないと節税にならなくて、「もったいない!」というような保険の勧誘も多いようです。保険の加入を過度に勧めるような内容がホームページでも紹介されているものがあります。実際に、私が見たホームページを紹介します。
【例】年間利益1000万円の会社の5年間
①節税対策をしていない会社
節税対策をしていないときの法人税は、
1000万円(税引前利益)×36%(法人税の税率)×5年=1800万円(税金)
このとき内部留保(手残り)は、
1000万円×5年-1800万円(税金)=3200万円
②節税対策をしている会社
全額損金の保険料を1000万円(5年間)契約した場合、法人税は、
0万円(税引前利益)×36%(法人税の税率)×5年=0万円(税金)
このとき、内部留保(保険料)は
1000万円×5年-0万円(税金)=5000万円
と書いてありました。
これだけ見ると、保険に入った方がよいのかと思ってしまいます。しかし、この続きには、 このようなことが書いてありました。
5年後に返戻率80%の段階で、保険を解約した場合
4000万円の雑収入
保険に入っていなければ、手残りは、3200万円ですが、保険に入っていれば、 4000万円が戻ってくるように思えます。しかし、これは正しいのでしょうか?
ポイントは「雑収入4000万円」は収入なので、税金がかかることです。だから、
4000万円×36%=1440万円(税金)
4000万円-1440万円=2560万円(手残り)
が正解です。
保険に入っていない方が手残りが多くなっていることがおわかりでしょうか。保険料を払ったときには、税金を払わず、保険金を受け取ったときに、税金を払うことになり、税金を先送りにしていることになります。しかも、受け取るときは、払った金額よりも目減りすることがあるということに注意しなければなりません。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます
<著者プロフィール>
渡邊 浩滋(わたなべ・こうじ)
税理士、司法書士、宅地建物取引士。税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所代表。1978年、東京都江戸川区生まれ。明治大学法学部卒業。税理士試験合格後、実家の大家業を引き継ぎ、空室対策や経営改善に取り組む。大家兼業税理士として悩める大家さんのよき相談役となるべく、不動産・相続税務専門の税理士法人に勤務。退職後、2011年12月、同事務所設立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
└【連載#1】経費は売上げに貢献するものだけ使う/戦略的経費の使い方
└【連載#2】税金の繰延べとは
└【連載#3】正しい繰延べの方法
└【連載#4】新規の不動産購入はデッドクロス対策にならない
【オススメ記事】
・【無料eBook】費用0円ですぐに効果が出る賃貸経営の収入を増やす方法
・純資産10億円を実現した不動産オーナーが語る01-「儲かる大家さん」「損する大家さん」の違い
・地震保険でアパートを建て直せる?どこまで補償を手厚くすればいい?
・所有物件で家賃滞納が発生! そのまま退去されてしまった場合の対策とは?