【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介
不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。
著者 石原博光
入居者に選ばれるには物件自体に魅力が必要ですが、それは入居者にとってだけではなく、入居者を案内する不動産屋にとっても魅力がなければならないと思います。
「どうせ決めてくれないだろうな」と不動産屋が思うような部屋では、入居者が実際に見て選ぶ以前に、不動産屋がその部屋を紹介する気にならないからです。連れて行っても決まらない部屋だと、不動産屋にとっては無駄足になります。特に地方の物件の場合、駅前の不動産屋から案内するのに車で20~30分かかったりするのでなおさらです。
管理を任されている物件であれば責任感から、可能性が低くてもダメ元で案内しようと思うかもしれませんが、仲介物件の場合はそういう義理もないわけですから無駄足は踏みたくないですよね。案内はしてもらっても、その部屋を見せてから本命のほうを見せる「当て馬」として使われるかもしれませんが……。
ですから入居付けのためには、入居者に対してはもちろん、協力を得られるように不動産屋に対しても魅力を提示しなければならないということです。この章ではそうした視点も入れながら、入居者を呼び込むテクニックを紹介していきましょう。
包丁などは使わないと切れ味が落ちていきますが、部屋も同様に、内見のない状態が続くと雰囲気が悪くなっていきます。
ずっと閉めきった状態では空気がよどみ、一歩部屋に入った瞬間、においやほこりなどの気配が伝わってしまいます。あまりに長期間使われていないと、トイレやキッチンから下水の臭気が上がってきますから、悪印象は倍増です。また天井の隅に蜘蛛の巣が張っていたり、床に虫の死骸が転がっていたら……そんな部屋は絶対に選ばれないですよね。
ですから空室期間が長くなった場合は、定期的に掃除したり、水を流したりする(臭気や害虫の侵入をシャットアウトするために排水パイプのトラップを水封する)必要があります。空室が続くからどんどん部屋の雰囲気が悪くなり、ますます選ばれなくなっていく……負のスパイラルに陥っている物件が世の中には多いです。
あと、部屋に内見用のスリッパを用意しても、不動産屋さんによっては入居希望者を案内したあと、脱ぎっ放しのまま出ていく人がいます。次に案内された希望者に悪印象を与えないように、気配りができる不動産屋かどうかにも注意を払っておくといいでしょう。
物件の魅力というのは、なにもきれいで清潔な建物や設備が整っていることだけではありません。家賃の安さというのも立派な魅力です。それどころか、このご時世では、もっとも効果的な策かもしれません。
時間をかけて徹底的にリフォームしてピカピカにして、入居者に住みたいと思わせる部屋にして家賃を高く設定するのは、大家としてやりがいがあることです。でも、相場より安い値段で一日も早く入居者を付けるというのも、経営判断として正しいことでしょう。入居者に「お得な家賃で入れた」と思ってもらえれば、事情がない限り、引っ越す理由がなくなりますよね。引っ越されるとその都度リフォーム費が発生することを忘れてはなりません。同じ条件で探してもそんなに安い部屋はほかになにのであれば、更新時期を過ぎても住んでもらえるはずです。
都心の物件であれば部屋探しをする人が多い分、相場より高くてもオシャレな部屋に住みたいという人の数も多いと思いますが、地方郊外では安い部屋から決まっていくという現実があります。また、これは入居者層にもよると思います。広い部屋で生活にある程度の余裕がある層に向けた物件ならばともかく、もともと安い家賃しか取れない部屋であれば、そこに住む人はそれほどオシャレな部屋を求めてはいないと思うのです。
僕は地方の物件しか持っていませんし、この先の日本の経済状況を考えても、今は安くという話も、原状回復と同じ費用だからやれるわけで、リフォームして部屋の魅力を高めても、家賃は基本的には今までと同じでいいと思っています。高い家賃を取るよりも、入居者には長く住んでもらいたいですし、また地域周辺で話題になることで、次の部屋の需要にもつながっていくと考えているからです。
家賃設定は、しっかりリフォームしたとしても相場程度に抑えたほうが無難ですし、家賃を高く設定することで採算を当て込んだリフォーム計画というのは、非常に危険です。資金力に自信があれば徹底的にリフォームをして、高めの家賃で勝負してもいいかなと思いますが、周辺の物件とそれほど設備や部屋の魅力で差を付けられないのであれば、割り切って賃料で魅力付けしたほうが得策でしょう。
しかし、安易に家賃を下げるのは考えもの……
初版時には、右のように書いたのですが、当時から6年の月日が流れ、僕も大家としての経験を積んで振り返ると、安易に家賃を下げるのは考えものだと、今では思うようになりました。
というのも、売却を経験すると、家賃を下げることによって、将来に売却するときに物件の利回りが下がってしまうことが気になるからです。物件の収益性を元に売却の値段もある程度決まってきます。家賃の見直しをするというのはもちろんひとつの手ではありますが、安易に下げてしまうより、その前に商品の魅力アップが大切なことだと思うのです。
なお、大家さん自身では適正な賃料だと思っていても、5年前や10年前の常識のままでアップデートがされていない場合もあります。現在の自分の物件が、周辺の競合物件と照らし合わせて適正な賃料なのか、その見直しをそもそも最初にやるべきなのです。
そのうえで、やはり下げるという結論に至るなら、経営判断として仕方ないでしょう。どれくらい下げるかは収益性との兼ね合いもありますが、1割程度が妥当かと思います。それより下げなければ入居者が決まらないというのは、物件の魅力自体が不足しているということで、大規模なリフォームを含めて抜本的に見直す必要があります。
家賃を下げる下げないにせよ、適正な賃料を決めるためには、近隣の競合物件がどんな設備で、いくらで貸しているのか、きちんと相場を把握しておくのが大事なのは言うまでもありません。
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<著者プロフィール>
石原博光(いしはら・ひろみつ)
1971年生まれ。95年に米国の大学を卒業後、96~97年に東京都の商社に勤務。98年に有限会社恵比寿トレーディングを設立し、化粧品や雑貨などの輸入販売を行う。資金なし、コネなし、まったくのゼロから起業する。2002年から不動産投資を始め、7棟72世帯の規模に拡大。その後4棟を売却し、現在は43室を所有。売却益を渡米後の事業資金に充て、カリフォルニア州で不動産投資事業を始める。現在は永住権を取得し、アメリカ在住。