2021.06.04
賃貸経営

【連載#5】不良入居者への対策は定期借家契約/定期借家契約を導入する壁

【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介

不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。

著者 石原博光

不良入居者への対策に定期借家契約

今、大家の間で注目されている、入居者との新しい契約方法が「定期借家契約」です。これは平成12年から施行された制度で、文字どおり期限を定めて賃貸契約を結ぶ契約方法です。例えば2年で契約した場合、当然2年後に契約が切れます。

従来の「普通借家契約」の場合を見てみましょう。通常は2年の契約期間ですが、入居者が望む限りは自動的に契約が更新され、「正当な理由」がない限りは更新を拒否できません。更新料が払えなくても法定更新されそのまま住み続けることが可能なので、実際に開き直る入居者もいます。また、入居者側に半年以上の家賃滞納といったレベルの落ち度がない限り、契約期間中に強制的に退去はさせられませんし、仮に入居者が夜逃げをしても、居室の荷物は大家の判断で勝手に処分はできません。入居者の権利が非常に強い(=大家の権利は弱い)のです。この入居者保護の施策は、戦時中に焼け出された人や、従軍によって一家の働き手を失った国民を保護するための救済策だったとも聞いています。

対して定期借家契約は、契約期限が切れたら、住み続けるには再契約が必要で、大家と契約者双方の合意がないとできません。つまり、問題のある入居者に出て行ってもらいやすいということで、大家にとって大きなメリットがあるのです。

入居者には「問題がなければ再契約します」という特約を付けてあげればいいと思います。更新がないので更新料も不要な点はメリットになるでしょう。ただし家賃保証会社の取り扱いは、定期借家を再契約した場合、通常の更新として扱うところと新規契約として扱うところに分かれます。新規契約となる場合は、年ごとに新規の契約料(相場として月額家賃の50%)がかかりますから、最初から「更新料はないですけど、家賃保証料を負担してもらいます」とうたっておけばいいでしょうし、その差額は大家が持ってもいいと思います。もしくは最初から、更新扱いでやってくれる家賃保証会社と契約するかです。

この定期借家契約では、保証会社の審査が通らない人を入居させる際に使える裏ワザがあります。1年以上の契約ですと、退去してもらう場合は半年前までに法定通知といって契約終了日を通告する義務があります(つまり最低でも半年間は追い出せない)が、契約期間を365日未満とすると、滞納などがあれば、通告がなくても期間満了と同時に即退去を求められるのです。原状回復費を見越して、クリーニング代も最初にいただく契約にしておけば 安心ですね。家賃保証会社の審査がどこも通らないという入居希望者であれば、「定期借家 契約で365日未満」とする契約をのまざるをえないのではないでしょうか。

普通借家契約で不良入居者を入れてしまうと、たいへんな火種を抱えることになりますが、この方法で契約していると、ほかの住民に迷惑をかける人、部屋にゴミを溜め込んでいるような人にも退去を要求できます。自分の住環境を守れるというのは、ほかの優良入居者にとってはメリットですよね。そういう面では入居者を守る契約にもなると思います。

また、近い将来に取り壊す場合にも、定期借家契約が役に立ちます。普通借家契約では強制退去が難しく、出て行ってもらうのを待つか、立ち退き料を負担して退去してもらうしかできませんが、定期借家を取り入れれば、「半年後に取り壊すけどタダよりは貸しておいたほうがいい」という場合、6ヵ月限定の 格安で募集してもいいわけです。そうやって最後の最後まで物件から利益を生むことが可能なのは、定期借家のメリットです。

定期借家契約を導入する際の「壁」

大家には大きく、入居者にも少なからずメリットがある定期借家契約ですが、まだ、それほど一般的な契約形態とは言えません。なぜかというと、肝心の入居者への説明と契約事務を行う不動産屋がやりたがらないからです。

彼らにしてみれば、「入居者にとって不利だから受け入れてもらえるわけがない」という 固定観念があるようです。ちゃんと説明して、「問題なければ再契約します」と特約を付けておけば、決して入居者側に不利ではないと思いますが、結局は不動産屋にはなにもメリットがなく、それどころか「6ヵ月前までの法定通知など、厳密な時間管理は面倒くさそうだ」という声も聞かれます。

もしも元付けの管理会社を納得させられたとしても、その管理会社から広く定期借家で募集してもらうためには、募集に関わる不動産会社すべてにこの仕組みを説明して協力してもらわなければなりません。この制度の業界内における認知度は高くても、それほど運用されていないため、その啓蒙活動は非常に困難だと言わざるをえません。地域の慣習がありますし、あまり面倒なことを言う大家は敬遠されてしまうでしょうから。

ただ、初版時には確かに右のような状況でしたが、現在は不動産屋の間で定期借家への理解が進んできた印象があります。実際に僕も、恵比寿の元自宅は定期借家契約で3年ごとの更新で貸しています。普通に契約するより賃料は安くなってしまいますが、万が一日本に帰国することになったとき確実に住まいを確保したいので、あえてそうしています。

大手の管理会社チェーンでも、勉強会などを行って、将来に取り壊しの予定がある物件や入居希望者の属性に不安があるなど、オーナーが希望すれば定期借家契約で対応してくれるケースが増えてきていると聞いています。

敷金礼金ゼロで入ってくるお客さんは滞納率が高くなる傾向がありますので、それは定 期借家で契約をしたり、あるいは管理会社の人の勘でなにか入居希望者に不安を感じたら 保険のために定期借家で契約するといった具合です。管理会社とコミュニケーションを取って啓蒙しながら、時と場合によって、2つの契約を使い分けられるようにしておけばいいと思います。

なお、結局は居座られてしまうと、裁判をして強制執行ということになります。定期借家契約のポイントは、その「裁判に負けない法的根拠」ができるという話ですので、最終的に追い出すために費やすエネルギーは変わらないのかもしれません(ただし明け渡し判決までの期間が短ければ、その分弁護士費用や賃料損失は少なくて助かりますが)。

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<著者プロフィール>
石原博光(いしはら・ひろみつ)
1971年生まれ。95年に米国の大学を卒業後、96~97年に東京都の商社に勤務。98年に有限会社恵比寿トレーディングを設立し、化粧品や雑貨などの輸入販売を行う。資金なし、コネなし、まったくのゼロから起業する。2002年から不動産投資を始め、7棟72世帯の規模に拡大。その後4棟を売却し、現在は43室を所有。売却益を渡米後の事業資金に充て、カリフォルニア州で不動産投資事業を始める。現在は永住権を取得し、アメリカ在住。

 

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