2021.08.09
税金

【連載#6】ローンで購入した際の住宅ローン控除

【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介

不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。

著者 吉澤 大

ローンで住宅を購入した場合には、税額控除も

住宅ローンを利用してマイホームを新築ないし購入した場合、「一定の要件」を満たせば、入居した年から10年間毎年所得税(場合によっては住民税も) が軽減される制度があります。

一般的には「住宅ローン減税」とか「住宅ローン控除」と呼ばれている制度です。この所得税についての住宅ローン控除が可能な限度額は次のように計算がされます。

所得税の住宅ローン控除限度額 = その年の年末住宅ローン残高 × 一定割合

ここでいう一定割合は、居住をした年度ごとに定められています (→106ページ「住宅ローン控除限度額表」参照)。

この制度の対象となるのは、住宅ローンを組んで購入した自らが居住する住宅であり、住宅を二つ以上持っている場合には、主として居住している物件一つに限られます。

この他にも住宅の床面積が50平方メートル以上で、その半分以上が自分の居住用であることや、控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であることなど、様々な要件(→104ページ「住宅を取得した場合の住宅ローン控除の主な適用要件」参照) があり、マイホームであればすべてが適用対象になるわけではありません。

さらに、中古物件には築年数について、マンションのような耐火建築物で25年以内、耐火建築物以外の建物で 20年以内という要件が追加されます。

加えて、親族からの購入なども対象外となっています。

また、新たに住宅を購入しなくても、自宅について工事金額が 100 万円を超えるなど一定の要件を満たした増改築をした場合 (→106ページ参照)にも、この住宅ローン控除を受けることができます。

ただし、住宅ローンについては、新築・中古・増改築いずれであっても、金融機関などから10 年以上の返済期間で借り入れられたものに限られ、親族などからの借入れは対象にならないので注意が必要です。

初年度は自分で確定申告が必要

住宅ローン控除の適用を受けるためには、入居した翌年の2月16日から3月15日までに自分で確定申告をする必要があります。

ただし、税金が戻ってくる「還付申告」は確定申告書の提出期限に関係なく、その翌年1月1日から5年間提出が可能です。

つまり、うっかり提出し忘れても5年以内であれば還付を受けることは可能ということです。

しかし、申告をしないのに、勝手に税金が還付されることはないので、できるだけ早く正確な申告をしたほうが良いでしょう。

実際の確定申告では「確定申告書」「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」に必要事項を記載し、次の資料を添付して住所地を所轄する税務署に提出をします。

・住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書
・登記事項証明書(登記簿謄本)
・不動産売買契約書や工事請負契約書のコピー

住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書は、住宅ローンを組んだ金融機関からその年の10月以降に送付されてきます。こちらは、税務署に対し原本の提出が必要です。

なお、以前は、住宅ローン控除を受ける人は、その住宅に居住した日を確認するため市区町村の発行した「住民票の写し」も添付する必要がありました。

しかし、マイナンバー制度導入により、確定申告書をするすべての人が、確定申告書にマイナンバーを記載したうえで「マイナンバーカードの写し」を、あるいは「通知カード」 または「マイナンバーの記載のある住民票」と「運転免許証」「パスポート」「公的医療保険の被保険者証」などの「身元確認資料」1 点を添付することになったのです。

登記事項証明書とは、いわゆる登記簿謄本のことであり、その住宅の所在地を所管している法務局で発行をしてもらいます。こちらも特に有効期限はありません。提出については、必ずしも原本である必要はなく、面積等の確認ができればコピーでかまいません。

不動産売買契約書や工事請負契約書は、この住宅の取得価額を確認するために提出を求められています。契約金額等と物件所在地、取引の対象者などが記載された部分をコピーして提出をすれば良いでしょう。

なお、確定申告書を提出する際に、給与所得者であれば計算明細書の中で「控除証明書を要する」という欄に○をしておきます。

こうすると税務署から適用期間中の申告書兼控除証明書がまとめて送られてきます。その申告書と「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」を勤務先に提出することで、2年目以降は年末調整によって控除を受けられます。

個人事業主などは2年目以降も確定申告で手続きをすることになりますが、「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」と「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」を添付すれば、初年度のような他の添付書類の提出は必要ありません。

「戻ってくる」のは自分が払った分だけです

この住宅ローン控除についての控除限度額は、ひとまず「年末の住宅ローン残高の1%」と考えていいでしょう。

ただし、控除限度額全額の税金が戻ってくるわけではありません。

所得税の住宅ローン控除により還付される所得税額は、自分が支払った所得税の金額までです。

例えばその年の所得税の納税額が10万円であれば、控除限度額が30万円であっても還付されるのは10万円ということです。

勤務先で年末調整がされている方であれば、所得税の納税額は、発行された「源泉徴収票」を見ればわかります。

この金額以上に所得税が還付されることはありません。

あくまでも住宅ローン控除は「税金の控除」であり、お金がもらえる「補助金」ではないのです。

また、住宅ローンは返済をしていくので、ローンの残高は毎年減っていきます。ですから、所得税の住宅ローン控除限度額は年々減っていくこともあります。

マイホームを購入される方の中には、この住宅ローン控除での所得税の還付を見込んで住宅ローンを組まれる方もいるでしょう。

しかし、このような住宅ローン控除の仕組みを正しく理解せず、当初住宅ローンを組んだ金額に一定割合を掛けた金額だけ10年間、毎年還付金という収入があると考えることの ないように注意をしてください。

所得税で戻し足りなければ住民税も対象に

本来、住宅ローン控除は所得税が対象です。しかし、平成 21 年以降の入居者の場合、所得税以外からも控除が受けられます。

令和3年 6 月 30 日までに入居し、所得税の住宅ローン控除の適用がされたものの各年分の所得税から控除しきれな かった控除限度額がある場合には、その控除しきれなかった金額は、その翌年度分の住民税について住宅ローン控除の対象になるのです。

ただし、所得税から控除しきれなかった金額がすべて住民税から控除されるわけではありません。住民税の住宅ローン控除についても次のような限度額があります。

所得税の課税所得金額等 × 7%(最高 136,500円)

先ほどの例でいえば、控除限度額が 30 万円で所得税が 10 万円だと、所得税は 10 万円だけ還付され、控除しきれない金額は 20 万円となります。

この控除しきれなかった金額を上限として、上記の計算式で算出した金額を控除して翌年の住民税額が決まるのです。

なお、住民税の申告については、給与所得者であれば、勤務先が毎年1月に各市区町村に住民税の計算に必要な所得金額の報告を行ってくれています。

また個人事業者など所得税の確定申告をした人であれば、同時に住民税の申告もされています。これらがどちらもされていない人は、住民税の申告が必要です。

いずれにしても、住民税の住宅ローン控除については申告された情報に基づき市区町村が計算をするため、この控除を 受けるため新たに申告をする必要はないのです。

すべてを自己資金で購入した場合には投資型減額が

住宅ローンを利用せず、住宅を購入した場合には、ローンの残高がないので、住宅ローン控除は受けられないことになります。

しかし、すべて自己資金であっても長期優良住宅など一定の住宅を購入した場合には、これらの性能強化に必要と思われる「掛かり増し費用」の10%の金額について、最大で 65万円まで所得税から控除をすることができるのです。

これを「投資型減税」と言います (→ 107 ページ参照) 。

投資型減税*1 = 掛かり増し費用(/m²)× 床面積 ×10%

*1 最大で65万円

消費税増税負担を緩和するための「すまい給付金」も

令和元年10月以降の消費税増税による住宅取得についての負担増を緩和するため、消費税率10%が適用される住宅を取得する場合、現行10年間の住宅ローン控除の期間が13年に延長されます。

さらに、これ以外にもいくつかの住宅取得者への負担軽減策が取られています。

一つは、消費税の増税による住宅取得についての負担増を緩和するために、毎年の住宅ローン控除の限度額が最大で20万円から40万円に拡大されました。

もう一つは、一定の住宅を取得した者に対し、一時金が支給されます。これを「すまい給付金」と言います。

「すまい給付金」は、消費税率8%時には収入額の目安が510万円以下の方を対象に収入額に応じて最大30万円ですが、10%に増税後は収入額の目安が775万円以下の方を対 象に最大50万円給付される模様です。* 1

* 1 詳しくは、国土交通省すまい給付金(http//:www.sumai-kyufu.jp)をご覧ください。

▽住宅ローン控除の仕組み

*さらに詳しくなるための参考資料

【住宅ローン控除について】
▽住宅を取得した場合の住宅ローン控除の主な適用要件(新築住宅の場合)

・日本に住む人が住宅を借入金で購入し、令和3年6月30日までに居住の用に供する(その家に住む)こと
・新築または取得の日から6カ月以内に自己の居住の用に供し、適用を受ける各年の12 月31日まで引き続き住んでいること
・控除を受ける年分の合計所得金額が 3,000万円以下であること
・住宅の床面積が50平方メートル以上で、その2分の1以上の部分を専ら居住の用に供していること
・返済期間が10年以上の借入金であること(繰上返済により当初からの返済期間が10 年未満となった場合には、その年以降は適用がありません)
・居住の用に供した年とその前後 2 年ずつの5年間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例等を受けていないことなど

(注)詳細は国税庁タックスアンサー No.1213「住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」を確認してください。

▽中古住宅の場合

・新築住宅の場合の要件を満たしていること
・建築後使用されたものであること
・購入日より 20 年(耐火建築物 25 年)以内に建築されたものであること
(ただし一定の耐震基準を満たすものは除く)

(注)詳細は国税庁タックスアンサー No.1214「中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」を確認してください。

▽割増で控除が受けられる場合

・新築住宅の場合の要件を満たしていること
・平成 21 年 6 月 4 日から令和3年 6 月 30 日までの間に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に規定する「認定長期優良住宅」に該当する家屋を新築等し、自己の居住の用に供すること
・平成 21 年 6 月 4 日から令和3年 6 月 30 日までの間に「都市の低炭素化の普及の促進に関する法律」に規定する「認定低炭素住宅」に該当する家屋を新築等し、自己の居住の用に供すること

(注) 詳細はタックスアンサー No.1221「認定(長期優良)住宅の新築等をした場合 (認定長期優良住宅新築等特別税額控除 )」を確認してください。

▽増改築をした際の住宅ローン控除の主な適用要件

・日本に住む人で自分が所有し、かつ自分自身の居住の用に供する家屋の増改築であること
・一定の要件を満たす工事であること
・新築住宅を購入した場合と同様の合計所得金額(3,000 万円以下)や面積(50 平方メートル以上など)、借入期間(10 年以上)、長期譲渡所得の課税の特例不適用の要件等を満たすこと
・工事費用の額が100万円を超えていて、その半分以上が居住用部分の工事費用であることなど

(注)詳細はタックスアンサー No.1216「増改築等をした場合 ( 住宅借入金等特別控除 )」を確認してください。

▽住宅ローン控除限度額表

※借入金年末残高(上限4,000万円)に対する比率を示しています。

▽消費増税に伴う住宅ローン控除の拡充について
消費税率 10%が適用される住宅の取得等をして、令和元年10日1日から令和2年12月 31日までの間に居住の用に供した場合の住宅ローン控除の期間は13年と長くなります。 年間の控除額は下記のようになります。

▽投資型減額の主な適用要件

※詳細は国税庁タックスアンサーNo.122「認定(長期優良)住宅の新築等をした場合(認定長期優良住宅新築等特別控除)」を確認してください。

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<著者プロフィール>
吉澤 大
196年生まれ。税理士、中小企業診断士、宅地建物取引主任者。明治大学商学部卒業。國學院大學大学院経済学研究科博士前期課程修了。不動産全般、とりわけ相続や事業承継、資産税に強い税理士として、首都圏を中心に活躍。大学院在学中に國學院大學公開講座講師を務めた後、本郷公認会計士事務所(現辻・本郷税理士法人)勤務を経て、1994年、当時26歳で吉澤税務会計事務所を開設。現在、同事務所代表、株式会社トータル・マネジメント・コンサルティング代表取締役及びアライアンスLLPパートナー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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