2021.07.28
税金

【連載#1】不動産の購入に対する消費税

【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介

不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。

著者 吉澤 大

消費税の課税対象になるのは「事業」としての取引

私たちは、商品を購入した際やサービスを受けた際に、その代金に消費税額を上乗せして支払うことで、消費税を日々負担しています。

この消費税の対象となるのは、国内において「事業者」が「事業」として対価を得て行う取引です。

では、ここでいう「事業者」とはどういう人でしょうか?

それは、「事業」を営む個人である「個人事業者」と会社である「法人」のことであり、「事業」とは、同じ種類の行 為を継続反復して行うことをいいます。

つまり、個人がたまたま何かを販売して代金を受け取ったとしても、それが何度も繰り返されない限り事業ではないため、消費税の課税の対象とはなりません。

一方、法人はそもそも「営利を目的として活動する事業者」であるため、そのすべての行為が事業とされるのです。

不動産の取引において、建物の譲渡は原則として消費税の課税対象となります。

しかし、建物の譲渡であっても、消費税の課税対象にならない場合があるのです。

(1)居住用の建物や別荘を売った場合
たとえば、個人が自分の居住用の建物や別荘を譲渡したとしても、それは事業には該当しません。ですから、消費税の課税対象にはなりません。

一方、法人は、そのすべての行為が事業であるため、同じ建物を譲渡しても、消費税の課税対象となります。

つまり、同じ居住用の建物であっても事業者ではない個人から購入する場合には消費税の支払いをしなくても良いのに、事業者である不動産会社から購入する場合や建築業者に 建築を依頼した場合などには、消費税を上乗せして支払う必要があるのです。

(2)事業用、賃貸用の建物を売った場合
個人事業者が自らの事業用として使っていた建物を譲渡した場合には、消費税の課税対象となります。

なお、不動産を賃貸するというのは、「不動産賃貸業を営む個人事業者」であるということです。ですから、その賃貸用の建物を譲渡した場合も、消費税の課税の対象となります。

この場合、賃貸していた建物の用途が居住用であるか、事務所や工場などの事業用であるかは関係がありません。賃料を得るために貸していた建物であれば、どちらも消費税の課税対象となるのです。

一方、法人が事業用・賃貸用の建物を譲渡した場合には、そのすべての行為が事業であるため、消費税の課税対象となります。

つまり、建物の譲渡についての消費税は、
・法人が建物を譲渡した場合は、すべて消費税の課税対象
・個人が自宅や別荘を譲渡した場合は、消費税の課税対象外
・個人事業者が自らの事業用(不動産賃貸業を含む)の建物
を譲渡した場合は、消費税の課税対象
ということになるのです。

▽建物を譲渡した場合の消費税

不動産取引に消費税が非課税のものがある

ただし、事業者であれば、どんな取引をしても消費税の課税対象になるというわけではありません。

不動産賃貸業などを営む個人事業者でも、自家用車や生活用として使用していた資産を売った場合には、事業として行う取引ではないため、消費税は課税されません。

また、一定の資産の譲渡やサービスの提供について、消費税が非課税となっているものもあります。

例えば、土地については、その譲渡は、消費税が非課税とされています。したがって、土地付きの一戸建てやマンションなどの金額に含まれている消費税は、建物部分のみの消費税額なのです。

さて、不動産を購入する際には、不動産会社に対する仲介手数料をはじめとして諸経費を支払う必要があります。

これらの諸経費についても消費税の掛かるものと掛からないものがあります。

諸経費のうち、仲介手数料や住宅ローンの審査手数料、登記をする際の司法書士報酬などは、消費税の課税対象であるため、本体の金額に消費税額分の上乗せをして支払いをする 必要があります。

一方、登記の際に支払う税金である登録免許税や火災保険の保険料、融資の信用保証料などは、消費税の課税対象ではありません。

土地建物の区分がわからないときは消費税額を活用

土地付きの一戸建てやマンションを購入した場合に、必ずしも土地の部分と建物の部分の金額が契約書に明示されてい るとは限りません。

しかし、購入した土地の価額と建物の価額というのは、その不動産を賃貸したときの必要経費の額や譲渡したときの利 益の計算などをする際には必須のデータとなります。

では、契約書等でそれぞれの価額が表示されていない場合にはどうしたらよいのでしょうか。

実は、契約書に土地・建物のそれぞれの金額が記載されていない場合でも、消費税の金額が記載されていれば、そこから土地・建物の価額を計算することができるのです。

消費税の課税対象となる商品やサービスの提供を受ける際に支払う消費税の金額は、次の計算式で計算されます。

課税対象となる金額 × 消費税の税率 = 消費税額

土地付きの一戸建てやマンションなどの取引で消費税の課税対象となるのは、建物部分の金額のみです。

つまり、建物部分の本体価額に消費税の税率を掛けた金額が、契約書に記載された消費税額となります。

このことから、次のような計算式で消費税額から建物部分の本体価額を計算することが可能になるわけです。

消費税額 ÷ 消費税の税率 = 建物部分の本体価額

例えば、契約書に記載された消費税額が200万円で、その取引がされたときの消費税の税率が10%であったとするならば、2,000万円(200万円÷10%)が建物の本体価額ということがわかります。

消費税は建物にしか掛からないのですから、消費税額200万円はすべて建物に掛かるものです。つまり、建物の消費税込の価額は2,200万円(2,000万円+200万円)となります。

さらに、不動産の取引金額の総額から建物部分の価額を差し引くことで、土地部分の価額を計算することができるのです。

契約書に消費税額が書かれていないときの土地・建物の按分方法

ところが、契約書によっては消費税の金額の記載がない場合もあります。このような場合には、別の「合理的な方法」により不動産の取引総額を按分することで、土地と建物それ ぞれの取得に要した価額を計算する必要があります。

この合理的な方法の一つが「固定資産税評価額」による按 分です。

固定資産税評価額とは、市役所などの自治体が管轄内の不動産について独自に評価をした金額です。公的機関である自治体が評価をした金額なので、その金額に基づく按分方法は 合理的なものだといえるでしょう。

この固定資産税評価額は、所有者または所有者から委任状をもらった者が自治体の窓口で「固定資産評価証明書」の交付を受けることで、その金額を知ることができます。

そこに記載された土地と建物のそれぞれの固定資産税評価額をもとにして、不動産の取引総額を按分するのです。

まず、土地と建物それぞれの固定資産税評価額を合算します。この合計金額で建物の固定資産税評価額を割ることによって、「不動産全体に占める建物の割合」がわかります。

例えば、土地の固定資産税評価額が 600 万円、建物の固 定資産税評価額が 400 万円であるマンションであれば、その 「不動産全体に占める建物の割合」は 40%(400 万円÷(600万円 +400 万円)となります。

不動産全体の取引金額が 3,000 万円だったとするならば、その 40%である 1,200 万円が建物部分、残りの 1,800 万円(3,000 万円− 1,200 万円)が土地部分と計算ができるわけです。

土地と建物の購入価額は、特に賃貸不動産オーナーにとって、その後の不動産賃貸業の所得についての税金に影響を与えるなど重要なデータです。

契約書からは土地と建物の購入価額がわからない場合であっても、入手できるデータから合理的に計算できる方法を知っておくと良いでしょう。

▽消費税額から建物の金額を逆算する

*さらに詳しくなるための参考資料

▽不動産取得の際の支出で消費税の掛かるもの、掛からないもの

▽近年の消費税の税率引き上げ

▽消費税増額にかかる請負工事等の経過措置

平成 25 年 9 月 30 日(新税率施行日の半年前)までの間に締結された工事請負契約については、完成引渡しが平成26年4月1日以降であっても、消費税引き上げ前の旧税率5%(合計)が適用されました。

今後の消費税改正の時点でも、消費税の新税率が適用されるより前の特定の日までに、工事請負契約を締結したものについては、同様の経過措置が適用されます。

(注1)令和元年 4月1日以降に追加工事や仕様変更によって請負工事代金を変更した 場合、増額分は新税率になりました。
(注2)令和元年3月31日までに契約されたものであっても、建売住宅やマンションなどの売買については経過措置は適用されませんでしたが、建物の内装、外装、設備などに注文工事がある場合は、経過措置の対象となりました。

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『不動産の税金の基本を学ぶ』
【連載#1】不動産の購入に対する消費税
【連載#2】契約書などの作成に対する印紙税
【連載#3】不動産登記に対する登録免許税
【連載#4】不動産取得に対する不動産取得税
【連載#5】税務署からの「お尋ね」への対応
【連載#6】ローンで購入した際の住宅ローン控除

<著者プロフィール>
吉澤 大
196年生まれ。税理士、中小企業診断士、宅地建物取引主任者。明治大学商学部卒業。國學院大學大学院経済学研究科博士前期課程修了。不動産全般、とりわけ相続や事業承継、資産税に強い税理士として、首都圏を中心に活躍。大学院在学中に國學院大學公開講座講師を務めた後、本郷公認会計士事務所(現辻・本郷税理士法人)勤務を経て、1994年、当時26歳で吉澤税務会計事務所を開設。現在、同事務所代表、株式会社トータル・マネジメント・コンサルティング代表取締役及びアライアンスLLPパートナー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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